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ぜんぶ議論しようー気付けばみんな外資だったー

1990年代に立ち上がった日本のデジタル広告業界。特殊市場とも呼ばれている日本では、独自のエコシステムが形成された。他の国にはない巨大ニュースポータルサイトや、世界でも極めて独自の進化を遂げたフィーチャーフォンエコシステム。数多くの日本のベンチャー系アドネットワークが立ち上がり、業界は大いに活況を呈した。

 

・・・あれから数十年が過ぎた2022年の夏の終わりが始まったころ、通称「恵比寿のブルックリン橋」とも呼ばれるガーデンプレイス前のアメリカ橋のたもとにあるあのお店の入り口近くの4人席には、談笑し合う3人の論者が既にビールを手に乾杯を終えていた。

 

なお、本記事は、この日以降さらに議論を重ね、必要に応じた加筆、修正、削除、登壇者の都合に配慮するなどにより、一定期間の寝かしをしたうえで、公開させていただくに至っている。

(聞き手:ExchangeWireJapan 野下 智之)

 

 

★今回の覆面系ゲスト

■元GAFA:覆面外資系カントリーマネージャー

 

★いつものレギュラーメンバー

■元バイサイド・DSP:天野 耕太氏(元Liftoff Country Manager, Japan and Korea/Pivot株式会社 Director of Strategy)

■元セルサイド・SSP:池田 寛氏(株式会社Leave it to me 代表取締役/Pivot株式会社 取締役)

 

※取材協力:十兵衛(東京 恵比寿 )

 

”外資”に乾杯!

覆面氏:覆面といわれたので、覆面が用意されていると思ったのですが、そうではないのですね。

 

 

池田氏:まったく用意されていませんが、ご安心ください。貴殿の特徴的な顔面に完璧なボカシが入ります。ツバをつけて爪で削っても、目をどんなに細めてみても、ボカシは薄くならないタイプのやつです。コロナ禍が長く続き、だいぶ久々の開催となりますが、出てみたかったですか?

 

覆面氏:出たかったというよりは、正直ずっとこの場に混ぜてもらいたかったです。

 

池田氏:めちゃくちゃ嬉しいってことですね。とりあえず、その喜びと、久々の居酒屋対談にあらためて乾杯しましょう!飲んで飲んで♪(全員でビールをグイッと飲み干す)
ところで今日のテーマはなんでしたっけ?(野下、すかさず2杯目を注文)

天野氏・覆面氏:(声をそろえて)「気付けばみんな外資(※)だった」です。

 ※編集部注:外資系企業

 

池田氏:たしかに、私以外みんな外資と関わりが深いですね。という私も、外資のアドテクソリューションを日本のパブリッシャーさんや広告事業者さんにご案内する仕事をしていて、毎日外資のスタートアップ企業と戯れています。

2022年4月まではバキバキな国内広告事業者に所属していましたので、温度感の違いは頭皮でも感じています。おっと、忘れてしまいがちですが、この議論が記事で掲載されるExchangeWireも、外資でしたね。まずは、皆さんがどういう経歴なのかをビールを片手に自己紹介してもらいましょう。

 

 

覆面氏:絶対に誰だか分からないようにしろと言われているので、名前と社名は伏せさせてください。外資歴は10年ちょいで、GAFAで3年ちょっと働いたのち、モバイル広告を中心に日本のビジネス立ち上げや、カントリーマネージャのような立場を歴任しています。現在働いている会社は天野さんのLiftoffのド競合(と書いて「とも」と読む)...でした。あんなことになってしまうまでは...

 

池田氏:覆面よ、伏せる気ないだろ?野下さん、ボカシとお酒は濃い目でお願いします。

 

天野氏:もう毎度お馴染みになりましたが、天野です。Overture、InMobi、Criteo、Liftoffと外資を数社経験して来ましたが、直近の昨年末にグローバルの組織再編の影響で日本オフィスを閉鎖することになったので、今は傷も癒えてないフリーです。

 

 

池田氏:天野さんの自己紹介は、「自己紹介」ではなく「事故紹介」でしたね。(天野、ここでイッキ)

いずれにしろ、皆さん、本日のテーマに相応しい経歴です。それでは声だしていきましょう。

 

一つになるグローバル市場、なかなか勝てない日本企業

天野氏:ところで、外資って海外出張に行きまくるイメージありますが、トレーニングと自社内のサミットのようなもの以外の海外出張って組みづらくないですか?日本企業の要職に就いている方の方が、色々と行けて良いなと感じることがあります。

 

池田氏:突然、どういう話ですか?

 

覆面氏:確かに日本人である僕らが海外に行くビジネス上の理由は、ほぼ無いですね。

 

池田氏:あ、普通に受け入れるんですね。どうぞ、続けてください。

 

天野氏:一方で日本の会社だと、海外展開を目指すようなところは現地に出張する理由がありますよね。例えば10年ぐらい前、日本の某大手モバイル広告ネットワークが海外のアドテクイベントにたくさん出展してて、出張しまくっていて羨ましかったです。

 

覆面氏:確かに一時期、日本の大手アドネットワークは海外展開をトライしていましたね。

 

天野氏:その後どうなったのかなと思ってその会社の役員さんと飲んだら、「天野さん、やっぱり無理でした」って言うんですよ。何でなのか聞くと、「自分たちの強みである細かい媒体ごとのCPCコントロールが、現地の広告主や代理店に全然刺さらなかった」という話で。もうかなり以前の話ではありますが。

 

池田氏:そもそもCPCで売ってないんじゃないんですか?

 

天野氏:それもあるんですけど、媒体ごとにCPCをコントロールするという日本における強みが、煩雑なオペレーションをしたがらない海外ではもろに弱みになったという話です。代理店が強い市場に特化して来たという背景もあるかもしれませんが。日本のマーケットニーズに合わせてサービスを作ると世界に出られないということを、彼は結構まじめに語っていらっしゃいました。

 

池田氏:日本のマーケットではウケていることが、海外では全く通じない、というかそもそもニーズが違うということですかね。

 

覆面氏:とはいえ、アドテクは比較的グローバルの水準に合わせやすいじゃないですか。例えばSaaSとかだと国によってクライアントニーズが違いますが、モバイル広告の市場では、クライアントの『CPI下げたい』『ROAS上げたい』というニーズは全世界で共通です。他の業界と比べると比較的グローバルで戦えるプロダクトが作りやすいのがアドテク業界なはずなのです。なのに日本から出てこないというのが現状なんですよね。

 

池田氏:アドテクに限らず、昔に比べると「世界」というか、「地球」で戦える環境が整ってますよね。例えば、ゲームアプリを作って、AppStoreで提供する国を『全世界』にするだけで、地球規模のマーケットに簡単にチャレンジできてしまいます。Facebookの「インスタントゲーム」では、例えば、最初韓国でバズって、ベトナムでバズり、エジプトにいって、最後にブラジルでバズるみたいなバズりの大移動が起きているって聞いたことがあります。それぞれの国の国民性やカルチャーの違いはありますが、だからこそ、どこで当たるかわかりません。とりあえず『地球に投げてみる』って作戦は、ゲームアプリなど、エンタメの世界では特に相性が良いというか、やらない理由がないですよね。

 

天野氏:その上で日本企業が抱える共通の課題ってなんでしょう?国内の市場が大きいので目の前のユーザーに向き合うと、逆に海外ユーザーの利用シーンが想像しにくくなるのでしょうか。なぜ例えばトヨタやソニーはそれが出来たのに、インターネット業界ではできないのは何故なんでしょうかね。当時は日本人のニーズにマッチさせたものが、そのまま世界で通用した?

 

覆面氏:例えばトヨタだと、『安全に、そこそこいい車に、安く乗りたい』というニーズですね。覆面なので炎上覚悟で言うと、日本って受託生産と小改善が得意な国民性だったんじゃないすかね。自動車も発明したのは欧米だったけど、高品質で安い車を納期通りに生産するのは日本が一番上手かった。

 

池田氏:覆面氏は今回の対談でぜひ盛大に炎上して欲しいですね。さー、飲んで飲んで♪。
ことアドテクに関しては、みんなアピールしていることが同じというか、AIとか、AIとか、AIとか、、どんどんコモディティー化が進んでいる気がします。ま、結局はお客さまのニーズや目標を現実値として満たせるかどうかの結果勝負の世界なんですよね。

 

覆面氏:そういう意味では『機械学習でどこよりも高いパフォーマンス出せる広告プロダクト作れば勝てる』っていうシンプルな勝負でもあるんですが、残念ながら日本からはそこに毎年100億円の技術投資をするような会社は出てこなかったですね。

 

天野氏:鶏と卵の問題ですが、グローバル規模でビジネス出来ていないと、それほどの巨額の投資は難しいですよね。(・・といいながら、おもむろにタッチパネルメニューを手に取り、だし巻き卵を注文する)

 

覆面氏:そうなんですよね。アドテクに限らずですが、一旦コモディティー化した後は、なんだかんだ技術力勝負になってくるじゃないですか。例えばAdMobは出てきたばかりのときにGoogleに買われ、今や懐かしの「ノボット(※)」もモバイル広告の黎明期に買収されました。あの頃は『市場で一番新しい』というのが価値でしたが、GoogleやFacebookが参入し、技術力やパフォーマンスの勝負になってくると、エンジニアに年収何千万円も払うような企業にはだんだんと勝てなくなってくるというのが現実なのかなと。

 ※編集部注「ノボット」:2011年当時業界2位の規模を誇るアドネットワーク。同年KDDI/medibaが買収した。池田氏は当時KDDIからmedibaに出向しており、この買収の当事者となった。また、買収に伴いノボット社をクローズさせる際、ノボットプロパーがほぼ去った中、ノボットの最後の担当者としてクローズ業務にあたった味わい深い過去がある。

 

 

池田氏:「ノボット」、私にはとても味わい深いサウンドです。

さておき、たしかにエンジニアの給料の差は特にエグいですよね。日本の人口が1億人強、世界の人口が80億人弱、世界市場をターゲットにした場合、80倍の給料がMAX(※)で払えますもんね。(池田、ここでいつもより高めの銘柄のハイボールを注文)

 ※編集部注「MAX」:ここでは「最大で」という意味。元 某グローバル大手広告プラットフォームのJAPAC全域統括をしていた方の愛称のことではない。また、AppLovin社の広告プラットフォームのことでもない。

 

天野氏:研究開発費は半端ないし。結局大手が本気になってしまった市場はキツイですよね。

 

池田氏:前職でTTD(The Trade Desk)すげーな、と思って、同じようなことをしようと考えたとき、向こうはエンジニアが数百人かそれ以上!?いて、「大和魂で何とかなるだろ!」と発破をかけてどうにかなる次元の話でないことに髪の毛が飛び散りました。(池田、高めのハイボールということを忘れて飲み干す)

 

天野氏:私がCriteoに在籍していたときにも思いました。Criteoのリターゲティング広告が好調ということで類似のサービスがかなり増えましたが、同じ事業だったとしても、日本の事業者と比べて、海外事業者は相当な人数をかけてやっているなと。

あと、話は変わりますが、「気付けばみんな外資だった」というのは、我々が確かに使っている身の回りの端末や、デジタル広告業界で広告主や媒体社が使っているサービスもそうです。ここ5〜10年のスパンでみると、本当にそうですね。

2022年でなければ、イケダヒロシは、「Leave it to me」 などと、英語の社名にはしなかったでしょうね。ちょっと外資側に寄せてきた感がありますね。正直ちょっと驚きました。英語かよ、と。

 

池田氏:「株式会社オッケーレッツゴー」にするか、「株式会社Leave it to me」にするか悩みました。日本だと「オッケーレッツゴー!」がわかりやすく響くのですが、外国の輩とテレカンした際に全くウケませんでした。が、「Leave it to me!(オレに任せろ!)」と言ってみたところ、輩たちは大変興奮していました。この違いに私も興奮して、社名を株式会社Leave it to meにしたところ、とても仕事がしやすくなりましたね。ま、「オッケーレッツゴー!」も英語やけどな。

 

覆面氏:僕と天野さんは外資の飼い犬になり、いずれ切られる運命のもと働く。頼みの池田さんも海外勢に尻尾を振って社名や魂を売ってしまった。このままで良いのか日本!(ビールを飲み干し、ジョッキを机に叩きつける)

 

池田氏:ワン、ワン♪

業界関係者のあこがれ、カンマネという仕事

池田氏:皆さんは、外資のカントリーマネージャー(カンマネ)を経験されたことがありますが、経験談を面白く話してもらえますか?(天野氏と覆面氏に濃い目の安いハイボールを注文)

 

天野氏:そうですね...今の気持ち的に面白く話せるかな。個人的には向いてないと思いつつ、業界内で「オーバーチュア・マフィア」(※)と呼ばれるような古巣の先輩方がみんな活躍しているので、いつか1度経験してみないとと思っていました。やってみると楽しい事や勉強になる事ばかりでしたけど、孤独を感じたりメンタル的に苦しい時は「以前あの上司や先輩もこんな気持ちだったんだろうな」と考えたりしましたね。

 ※編集部注:元Overture社の在籍者の集まり。独自のネットワークを構成しており、情報網を張り巡らしている。現在もアドテク業界の様々な企業の、要職を占めており、第一線で活躍し、業界を支えている。Facebookでつながっていると、ここに属する人であるかどうかは、タグ付けとともに大人数が映った写真が載った投稿がたまに流れてくるので、比較的判別可能である。。

 

覆面氏:わかる...本社の人にも、日本のメンバーにも相談できない孤独ってありますよね、カンマネ。僕も天野さんや先輩方に相談できて救われる時があります。

 

天野氏:自分の場合は日本の立ち上げに続いてゼロから韓国進出もやったので、1粒で2度美味しい経験させて貰いました。同じ『立ち上げ』と『カンマネ業』でも2ヶ国の違いと共通点が見れて、それも勉強になりましたね。

面白い話...カントリーマネージャーに就任したら、最初の小さなオフィスに先輩から膨大な量のカントリーマアム(不二家)が届いた話とか。家買う時のローンに必要で日本法人の情報取り寄せたら、資本金が小さすぎて銀行がドン引きしたりとか。銀行の担当者も会社の情報はアテにならないと思ったのか、最後は「今回の転職の志望動機はなんだったんですか?もしダメでも同じ業界ですぐ転職できるんですよね?」みたいな質問されました。

 

池田氏:私も会社を設立した時に、自宅に大企業用のビッグな胡蝶蘭が届いて困りました。(※)

 ※編集部注:そうはいいつつも、今も別の胡蝶蘭を三つも取り寄せて、お世話をしているようであり、まんざらでもなかったようだ。

 

覆面氏:僕は天野さんと違って、カンマネとしてはまだ2年目(2022年末時点)なので、まだ語るほどの経験はあまり無いんですよね。

 

池田氏:前職の時から2社目ではないんですか?

 

覆面氏:前々職と前職は、日本1人目採用ではあったんですけど、仕事としてはイチ営業であってマネージメントはしてなかったんですよ。ただ、前職までの経験は今すごく活きていて、『求めよさらば与えられん』をモットーにやってます。

 

天野氏:わかります。

 

池田氏:どういうこですか?

 

覆面氏:前職では、セールスとして2年でARR(※)をゼロから1億円に伸ばしたので、SaaS未経験の割にはまぁまぁ頑張ったと思うんですよ。でも結局、日本でもっと採用しようって話にはならず、自分もカンマネになれなかった。「何でやねん!」って思ったんですが、今から思えば『何年でここまで伸ばす』『だからこれだけリソースをくれ』みたいな働きかけを、自分から全く行ってなかったんですよね。

※編集部注:Annual Recurring Revenue(年間経常収益)。

 

天野氏:しかも本社から地理的にも文化的にも遠い日本。

 

覆面氏:本社の経営陣からしたら、何が起きてるのかも分からないし、どれぐらいリターン出るか想像もつかないから、そりゃ投資しようとも思わないですよね。彼らの頭の中に『日本』ってものがあったのかどうかも怪しいです。

なので今は、聞かれてなくても『日本いまええ感じよー!』『来年はここまで伸ばすよー!』って声出して、『だからこれぐらい投資してちょうだい!』って要求してます。おかげで人も1年で倍以上になって、オフィスもLiftoffが撤退した拠点を無事に奪えました。ただ、言ったこと達成出来なかったらクビになるプレッシャーもありますけどね。

 

池田氏:天野さん、拠点も奪われたんですね。もっと飲んだほうが良いですよ。(池田氏、天野氏と乾杯。)

つまり、「Leave it to me!」と絶叫しておくことは大事ってことですね。これは外資に限らず、日本企業でも本質は同じですね。クビになるプレッシャーは少なくても、上司、親会社、株主などに日本独特のアクの強い(笑)カルチャーがあったりしますし、そこに適応してちゃんとアピールして信頼してもらわないと事業は上手くいきません。

あと関係ないかもですが、カンマネの人たちって、SNSの投稿も頑張っている印象。特に、天野とか、天野とか、天野ね。これも本国へのアピールへの一種なんですか?ワールドカップでゴミ拾いをするところをヤフーニュースにキャッチされたり。

 

天野氏:正直、Liftoffを日本で立ち上げてからはかなり意識しました。個人としても会社としても埋もれてしまわないように、出来るアピールはしないと。その前の会社が業界内ではポジションを築けている所だったので尚更でした。Liftoffを立ち上げた初期は、覆面さん含めて周りの会社の真似して会社ロゴ入ったTシャツ作って毎日着て、なるべく色んな場で写真に写ったり撮ったり。本国へのアピールは全くないです。誰も仕事関係でFacebook使ってなくて、ほぼ繋がってないですしね。ワールドカップも関係ないです。もう撤退が決まった後だったんで、現地では「ワールドカップのために会社を辞めた」と、まるでアルゼンチンサポーターのようなことを言っていました。

 

池田氏:最近はスナックにもハマってらっしゃって、セピア感ハンパないアルゼンチンサポーターですもんね、天野さん♪。

 

 

スタートアップ外資を目指す理由(わけ)、そして理想と現実

池田氏:しかし、最近の業界再編は凄まじいですね。AppLovinとAdjustが一緒になってさらにMoPubも一緒に。ironSourceとTapjoyがくっついたと思いきや、そこにUnityが加わる。LiftoffとVungleがくっついて、そして撤退する。もう訳が分かりません。当事者の皆さん、いったい何が起こっているんですか?

 

覆面氏: こういう業界のダイナミズムって、マイナスな見方をすると『日本と関係ないとこで起きた大波に飲まれちゃって辛い』ともとれるんですが、ポジティブにとれば『外資だからこそ経験できること』でもあると思います。競合が何十社もいて、潰れる会社や買い叩かれる会社が出てきたり、業界再編クラスの大きな買収・合併があって、って日本ではそんな頻繁には起きないので。

 

天野氏:Liftoffの日本撤退はたまたまと言うか、再編とは関係ないと言えますが...実際に経験したVungleとの合併は確実に業界の流れに沿っていましたね。アプリ業界ではAppLovin陣営、IronSource/Unity陣営、あとAd Colonyなんかを傘下に抱えるDigital Turbine陣営などに分かれていますが、基本的にはアメリカでの上場を果たした企業群が株価だったり今後の成長性を踏まえて事業のポートフォリオを拡げるために起こったことかなと思います。

Appleが2021年に導入したATTのように、事業を揺るがす出来事も多かったですし。(天野、語りながら、先ほど注文しただし巻き卵には目もくれず、残っていたハイボールを全部飲み干す)

 

池田氏:ガチの回答ありがとうございます。グローバルの大波をダイナミックに感じられる特典と考えることもできますね。まだまだ色々起こりそうですね〜。

たしかに、AppleのATTの話のようにプライバシー保護などの法規制も伴って、Googleの3rd Party Cookie廃止の延期など大手プラットフォーマーに弄ばれる日々が続いています。

一球入魂で作ったソリューションが、サクッとルール変更されることによって、一瞬でチーン...(終了)ってなったりします。正直、プロダクトの寿命って2〜3年って感じで短くなってきている気がしてますし。外資スタートアップ系の企業に入った場合、基本的には単一プロダクトの日本展開にコミットするわけですが、給料が高いとはいえ、流行らなかったらレイオフされるかもしれないリスクもある。それを加味してもありなんですか?(池田、ここでいつもの安いハイボールに戻す)

 

天野氏:あり・なしの判断は難しいところですが、日本のスタートアップでもリスクはあるし、日本の大きな会社でも再編はありえるのでは。自分は働き方とかグローバルの人との関わりとか、子供の頃夢見た仕事に近いんで楽しいですが、必ずしも外資が正解とも思ってないです。私の場合、今回は残念ながら撤退ということになりましたが、最初に立てた「目標は3年は生き残る」に対して5年半も楽しく働けたので、まずはそのことに満足をしています。毎日ご機嫌に楽しんでおきながら、さらに世界中に友達ができて良かったくらいの感想ですかね。給料は...そうですね、ここ最近は「なんで立ち上げの時にドルで給料もらう契約にしなかったんだろう」と後悔する日々でしたね。(天野、語りながら更に全部飲み干す)

 

覆面氏:僕は前々職にグローバルで80人目ぐらいで入社したんですが、運良く2021年にNASDAQにIPOして、一時は億り人になりました。今は株価暴落して泣きそうですが(バイデン頑張ってくれ頼む)。会社が兆円規模でIPOすると、カンマネなんかじゃない末端社員でもそれぐらいの夢を見られます。もちろん全部がそんなに上手くいくことは無いんですが、ダメだったら別の馬に乗り換えれば良いですしね。

有望そうなスタートアップで数年働いてストックオプション(SO)や株式をもらって、また次の有望なところに移って...ってのを繰り返すような人もいます。スタートアップにとっても、大きいディールを決められる猛者が初期に手伝ってくれるのは大きいですしね。日本だと、辞めたら権利が無くなっちゃうSOがまだ主流みたいですし、IPOのサイズもUSと比べると大きくないので、そのまま真似するのはやっぱ難しいんですかね。

まぁともかく、ハイリスクのように見えて大したリスクでもないし、リターンは大きいので、経済的には少なくとも美味しいと思いますね。あれお金の話しかしてないぞ?

 

池田氏:今日は覆面の奢りな。(すかさず、全員分の高いハイボールを注文する)

なるほど、みんなお金が大好きなんですね。私はまだ日本にローンチしていない様々な海外のソリューションを日本で広める役割を担ってますが、すごく今の御時世にマッチしていると思っています。

流行りそうなものを選んで、それでもダメなら単純に今のニーズにマッチしていない、いわゆるPMFしていないだけなので、他のソリューションにピボットするだけです。

「売れるものをそのタイミング売る」、ただそれだけのことをしていて、ある意味で負けない戦いをしている感じです。そして、流行ったら専属で人を雇って日本支社を作るとか次のステップに進みますし、そこで専任として働くのもありです。

決め打ちで外資に就職するよりも、リスクなく楽しめる気がしています。私も所属しているPivot株式会社の代表の梅野くんは全員給料を外資のカンマネクラスにするんだ、と鼻息が荒いです。そして先日、Pivotに天野さんも加わりました。天野さん、本当にお金が大好きなんですね。

 

天野氏:え、そんなにお金貰えるんですか?

 

覆面氏:ご馳走様です!(高いハイボールをおかわりする)(※)

※編集部注:だが実際のところ、Pivot社がここで領収書を切ったという事実はない

 

 

天野氏:でも、夢がありますよね。日本企業でありながら世界の色々な会社やサービスに携われて、良いものを選んで日本の事業者に提供出来る仕事。面白いと思います。自分の外資企業での経験が少しでも役立てらればと思いますが、出来れば社員旅行で海外ビーチリゾートとか行きたいです。外資っぽく。

 

池田氏:たしかに、外資の輩たちはよく社員旅行なのか、研修なのかで訪れた土地を、「天国に一番近い自分」的なドヤ顔でSNSにアップしていますね。特に天野とか天野とか、天野。(※)

※編集部注:池田氏が指摘しているのはどうやら、例えば以下のようなポストのことのようだ。

 

 

ところで、そんな天国に一番近い外資で活躍する人ってどんなタイプの人なんでしょう?

 

覆面氏:個人的には、人種による能力差は無いと思っていて。性格とか振る舞いの差が大きいと思います。英語がどれだけ不完全だろうがアクセントがキツかろうが、主張して戦える人でないとそもそも活躍のチャンスを与えてもらえないです。あとは結果を出したら臆せずアピールすること。

前々職で僕の次に日本で採用した人は、ぶっちゃけ英語力は入社当時たいして無かったんですが、仕事がデキたのに加えて、交渉・アピールが出来るロジカルさと胆力があったので、米国本社に転籍して出世しています。彼は帰国子女でもなければ留学経験も無いので、日本で育って教育を受けてたらダメだ、ってことも無いはずです。

 

池田氏:たしかに、テキサス在住の彼はいいですね〜。あと、世界一のお金持ち社長の会社にいるシンガポール在住の彼もいい、お店たくさん知っているし。日本人が本国側で活躍する姿をもっと見たいですね。というか覆面さん、何で外資(特にGAFA)の若手って、レスが異常に遅いんですか?もちろん、早い人も沢山いるけど、相対的にみて圧倒的に遅いと感じる人は外資の若手の方々なんですよね。

営業ってレスが早いだけで「できる人」になってしまう、ある意味ステキなお仕事だと思っているのだけど、あえて「できない人」の印象を与え続ける根性と、無視し続ける強メンタルがずっと不思議だったんですよ。

 

覆面氏:あるあるの話ですね。外資のカスタマーサポートの中には、お客さんをランク付して、どのランクのお客さんは何日以内に返信、みたいな基準作ってたりするところもありますよね。同じ内容の質問でも、太客にはレス速いけど、そうじゃないと1週間返信来ない、みたいな。

僕自身も不可解だなと思うのは、そういう外資担当者が、『5日以内に返信』とランク付けしたお客さんに対して、1〜4日以内で返信をしていることって、ほぼ無いような印象があります。「それ30秒で返せるやろ!」って質問を、なぜか4日寝かせて5日目に返信する的な。検証はしていませんが、僕が待たされすぎたせいで悪い妄想をしているだけかもしれないですけどね(笑)。

 

池田氏:なんとーーーー!!!やっぱり基準があったりするのか。とんでもない量の質問が毎日来ているのならわかるけど、絶対そんなことないだろうって輩もいそうな気がするな。これからは「私の返信ランクって何日?」って意地悪な質問をしてしまいそうです(笑)。おそらくその質問にも5日目に返事がくるのでしょう。(※)

※編集部注:その場合には、恐らく返事は来ないような気もする。

 

 

これは真似すべき! 外資のスゴいところとは?!

池田氏:これまでお二人の話を伺う限り、結局は外資サイコーな話に聞こえますが、日本の事業者もこれは真似したほうが良い!とお二人が実際に経験して思うことを教えて下さい。

 

天野氏:やっぱりビーチリゾートの全社集会じゃないですかね。というのはさておき、最初からグローバル全体をターゲット市場と見据えて展開するところですかね。ひょっとすると日本独自のニーズに深堀りできずに最大公約数的なアプローチになるかもしれないですが、日本発のサービスはもっと海外で持て囃されるポテンシャルがあると思うんですよね。ゲームは事例がたくさんありますけど、いわゆる非ゲームのユーザー向けサービスや広告などの事業者でももっと増えると面白いなと。

 

覆面氏:さらに付け加えると、アクセルの踏み方が、肝が据わっているところなども、真似したほうがいいと思いますね。外資の広告主さんだと、ROASさえ合っていれば広告予算は青天井です、みたいなところが少なくないです。採用もそうで、未上場の会社でも業界最大手の重役クラスをバンバン引き抜いたりする。日本でも無いことはないですが、もっと全然あっていいと思います。

ただそれも『株主からの成長に対する圧力が厳しい』とか『合わない人を解雇できる』『退職しても残るストックオプションが高い報酬がわりになる』というような、制度や環境が後押ししてる面もあるんでね。全部真似できるとは言いませんが、学ぶべきところは多いです。

 

池田氏:なるほど、なるほど、なんか二人とも良いこといっているぞ。ニッポンの事業者の皆さま、ぜひビーチリゾートで全社集会してください。

 

外資との理想的な関係とは?

池田氏:いろんな外資にまつわる話をしてきました。そしてお酒もだいぶ回ってきましたが、「気付けばみんな外資だった」は続いていくのでしょうか。働き先という話もありますが、プロダクト含め今後の日本はどうなっていくのでしょう。

 

 

天野氏:最近カタールでワールドカップ見てきたので、大好きなサッカーを例えにさせて貰うと、今の日本代表チームは普段は海外でプレーしている選手がほとんどです。これは以前からはかなり増えていて、例えば同じベスト16で終わったお隣の韓国と比べてもかなり多いです。それら代表チームの選手は4年前は全員日本のJリーグでプレーしていました。つまり能力のある選手が「外資系」に転職して世界の場で今回活躍したと。でも一方で海外で活躍する選手の中には日本のチームに呼び戻されて、また日本で大活躍する選手もいます。言いたいのは、日本から世界に、外資系に流れたんじゃなくて流動的になったって事じゃないかなと。外か中かより、行き来しやすくなって人材の活躍の場が拡がってるって捉えればいい気がします。

 

池田氏:(ろれつが回らず)まさに、Pivotにジョインした天野さんのことですね。

 

覆面氏:どことは言わないんですが身近にあるアメリカのユニコーン企業は、実は創業者が韓国生まれ育ちなんですよ。こういう成功事例、同じアジア系の日本人にも出来ないわけが無いと思いません?僕がその会社から学んでることを日本のスタートアップ界隈にも還元して、日本人ファウンダーのグローバル企業が今後もっと出てくるのに貢献出来ないかなと思ってます。

でも個人的には、創業者がどこの国の人だとか、本社がどこにあるとか、あんま関係ない世界になっていくのかもなーって思ってます。良いものやサービスが出来たら、世界中で使われて、作った人・流通させた人が相応に対価を得て、っていう風になっていってますよね。僕や天野さんや池田さんがやってることって、関わり方が多少違えど、そのシステムの中の1ピースなわけで。

そのループの中に日本人も自然に入ればいいし、外資系企業に雇われるだけじゃなくて、雇う側になるケースも今後増えていくと良いですよね。っていうかそうならないと、縮小していく市場の中で儲けを減らすか、ひたすら海外企業に仕えるかで、どっちにしても日本やべーっすよね!頑張りましょう!

 

池田氏:(ろれつが回らず)ニッポン、オッケーレッツゴー!

 

およそ二時間にわたる、久しぶりに記事としての公開に耐えうる内容の議論を終えた3人。これまで話したくても話せなかったうっぷんを晴らすのだろうか、行きつけの恵比寿ガーデンプレイス界隈のスナックへと、消えていった。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。