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Cookieレス技術の新旗手Oguryが推進する「ペルソナ広告」とは?[インタビュー]

ExchangeWireの読者であれば、コンテクスチュアルターゲティングやIDソリューションといったCookieレス技術は既にお馴染みの存在となっているだろう。それでは「ペルソナ広告」はどうか。新たな手法を打ち出すOguryの新CEOに、そのメカニズムや現在の市況感などについて聞いた。

(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

競合事業者にはない唯一無二の存在

 

―自己紹介をお願いします。

 

Oguryの最高経営責任者を務めるジョフワ・マーティンと申します。フランスと米国の二重国籍取得者として米シリコンバレーで長らく活動してきました。世界最大のオンライン アート小売業者であるArt.comの最高経営責任者を務めた後に、Criteoでリテールメディア部門を創設。2022年1月よりOguryに最高執行責任者(COO)として参画し、今年1月より現職に就いています。

 

―事業紹介をお願いします。

 

Oguryはペルソナ広告という独自の技術に基づくオンライン広告配信サービスを行うテクノロジー企業です。主にモバイルアプリに対してディスプレイ広告や動画広告を配信すると共に、消費者やマーケティングに関する様々なデータや知見を提供しています。

 

2014年に2人のフランス人が英国で創業し、現在は日本を含む17カ国でサービスを展開中です。今はモバイル端末を主な配信面としていますが、2023年中にはデスクトップ、コネクティッドテレビ、DOOHなどにも順次拡張していく予定です。

 

ちなみに、Oguryという社名は「鳥が飛ぶ様子を見て予兆を知る」ことを意味するラテン語から来ています。当社技術がオンライン上の消費者行動の予測に優れていることから、この名を付けました。

 

―貴社を取り巻く競合環境をどのように捉えていますか。

 

いわゆるアドテク企業は主に3種類に分類できると考えています。まずはGoogle、Facebook、Amazonといったウォールドガーデン。ユーザーは無料でサービスを利用することと引き換えにデータ利用を許可しているので、事業者側はファーストパーティデータを最大限に活用することが可能です。近年ではリテールメディアも同様の取り組みを行うようになりました。

 

次にCookieを始めとするサードパーティデータを有効的に活用する事業者が挙げられます。ウォールドガーデンを除くアドテク事業者の大多数が該当すると言ってもいいのではないでしょうか。

 

そして最後に、サードパーティデータに依存しない画期的な技術を扱う新興企業の存在があります。当社はこのカテゴリに所属します。

 

サードパーティデータについては、Appleが既にiOSにおいて厳しい利用制限を課しており、Googleも2024年よりこの動きに本格的に追随する予定です。またEU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)といった欧米諸国での関連規制も強化されていく一方です。

 

何よりもユーザーが警戒心を高めています。少なくとも欧州ではかなり多くのユーザーがCookie利用の許諾をしていません。つまりサードパーティデータは既に機能不全に陥っているのです。

 

このような市場環境下において、ウォールドガーデンは引き続き安泰ですが、その他大多数のサードパーティデータ関連事業者は大きな変化を迫られています。変化に対応できない者は、やがて市場からの退出を余儀なくされるでしょう。一方、当社のような3番目の事業者には大きな好機が待ち受けています。

 

独自のデータ基盤の仕組み

 

―近年ではCookieレスを謳うアドテク事業者に関してもかなり多く存在しています。貴社はこれらの企業とはどのような差別化を図っていますか。

 

現時点においてCookieレス技術を扱う事業者の多くは、コンテクスチュアルターゲティングを手掛けています。つまりウェブサイト上のテキスト情報を読み取ることで、ユーザーがどんなページを閲覧しているかを把握し、関連性の高い広告を表示するという仕組みであり、サードパーティCookieなしでも機能するとして評価されています。

 

ただ問題は、ウェブ上のテキスト情報には誰もがアクセスできるということです。すなわち情報取得のあり方については違いを生み出すことがほぼできないので、差別化を図ることができるのは情報処理においてのみとなります。

 

一方で当社は独自のデータソースを有しています。同様の仕組みを構築するための参入障壁は非常に高いと考えています。

 

―貴社独自のデータソースについてご説明いただけますか。

 

当社は4つのデータソースを持ちます。一つは、2014年から2020年にかけて、ユーザーのプライバシーに遵守した形で収集した20億台の端末データ及びアプリ及びウェブ上の行動データです。これらの情報を統計的に処理したペルソナデータがこれまで大きな基盤となっていました。

 

加えて配信広告の一定割合をアンケート調査に割くことで、ユーザーの趣味や嗜好及び消費傾向を機械的に把握及び分析しています。このアンケート情報によって随時ペルソナデータを更新しているので、過去に蓄積したデータ自体はもはや必要としていません。このペルソナデータをコンテクスチュアルデータやアドネットワークデータと組み合わせてさらに強化しています。

 

そして、当社が設計したペルソナとの各媒体の相性をスコアリングすることで、最適な広告配信面を自動的に選定するというのが大まかな仕組みとなります。このテクノロジーはユーザー情報に紐づくことなく、弊社が持つペルソナデータをベースとした配信が可能です。

 

―アンケートは具体的にどのように実施しているのでしょうか。他の事業者もアンケート回答結果に基づくデータ基盤を構築することは可能なのではないでしょうか。

 

広告表示ごとに5~6項目からなるアンケート調査を実施することで、2000万以上(2022年時点)のデータポイントからの最新情報を収集しています。

 

分かりやすい例を挙げると、一般的なコンテクスチュアルターゲティングにおいては、野球関連情報を扱うページには、野球用品や野球の試合チケットに関する広告が表示されます。

 

一方で当社の仕組みにおいては、例えば野球関連ページに質問のアンケートを配信することでその他様々な傾向を把握しているので、野球関連以外でも相性の良い広告を配信することが可能です。

 

アンケート調査をこの規模で実施するには、当然のことながら多額の費用が発生します。当社は、過去7年かけて蓄積したデータ基盤があったからこそ、このような仕組みを構築することができました。アンケート調査のみで同程度のデータ基盤を整備しようとすれば、100億円規模の初期投資が必要となるでしょう。

 

―貴社の仕組みは、実際にどれほどの広告効果があるのでしょうか。

 

オンライン広告業界において近年注目されているアテンション指標については、サードパーティCookieに基づく他のターゲティング技術よりも高い効果を出していることが、Lumen社との共同調査において実証されています。

 

当社独自のデータがあり、そのデータはこれまで事実上の業界標準となっていたサードパーティCookieに基づくソリューションよりも優れている。これ以上の差別化はないと考えています。

 

新たな業界標準を目指す

 

―Cookieに依存しない技術としては、IDソリューションも注目されています。

 

IDソリューションは拡張性に欠けるため、サードパーティCookieを代替するものとはなり得ないと思います。特定の市場だけに普及したIDソリューションは今後生まれるかもしれませんが、世界的規模で展開することは難しいのではないでしょうか。

 

既に複数のIDソリューションが開発されており、それぞれが競合し合っているので、いつまでたっても拡張性が確保できないという深刻な課題を抱えています。しかも大手広告代理店グループ企業が軒並みデータ企業を買収していることにも留意すべきです。彼らが競合する代理店企業の傘下にあるIDソリューションを活用することはまずないでしょう。

 

―日本市場での実績や課題感についてお聞かせいただけますか。

 

日本法人は2022年に立ち上げたばかりなのですが、既に20企業様が51キャンペーンを実施しています。また130近くの媒体社様とも提携しています。

 

日本は大きな市場であると同時に新規参入が非常に難しい市場であると判断し、当社としては慎重に準備を進めてききました。テレビ広告需要が依然として高く、少数の大手広告代理店が非常に大きな力を握っているなど、消費者行動とエコシステムが他国とは大きく異なります。また欧州や他のアジア圏であれば本国から駐在員を派遣することで対応することが可能ですが、日本では現地採用が必須です。そこで当社の日本オフィスでは7名を新規採用し、広告在庫の確保からキャンペーン設計及び配信まで現地での対応が可能な一気通貫の体制を構築しました。

 

―今後の事業展開についてお聞かせください。

 

オンライン広告業界は、これまで検索、SNS、リテールメディアといった大きな潮流に乗りながら発展してきました。新たな潮流がCookieレスであることはもはや明白です。当社はその中心的な役割を果たしていきたいと考えています。

 

ペルソナに基づくターゲティング自体には長い歴史があり、テレビや新聞社が古くから実施してきました。ただし、媒体ごとの取り組みとなっていたので、拡張性がなかったという点が課題です。そこでインターネット技術を駆使することで、拡張性あるソリューションへと発展させたことに当社独自の強みがあります。技術開発や事業開発を通じてさらに拡張性を高めることで、新たな業界標準となるべく努力し続けていきたいと思います。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。