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標準化、最適化、啓発:広告の環境負荷にどう向き合っていくか

サステナビリティは近年、企業や消費者にとって、とりわけ大きな関心事になっている。広告業界も例外ではなく、各国の企業は、広告が気候に与える悪影響に対処するためにより大きな行動を起こすべきだと声を上げている。そうした声は根拠のないものではなく、最近の調査では、インターネットインフラの総エネルギー消費量のうち、オンライン広告が占める割合は10%から20%だとされている。

2023年のアースデイ(4月22日)を受け、ExchangeWireはサステナビリティに関する報道を振り返りつつ、サステナビリティを達成するための重要な課題について、業界の識者らから寄せられた選り抜きの知見を紹介する。

 

 

CO2排出量測定のスタンダードを導入する

業界関係者からよく聞かれるのが、CO2排出量の測定や報告に関し、透明性に欠けるとの指摘だ。この不透明さは、一部の企業によるグリーンウォッシュ(環境意識を高めている消費者にアピールするため、サステナビリティへの取り組みを誇張する不誠実な戦術)のせいだと考える人もいる。R/GAのバイイナ・ブラック氏は、インパクトベースのアワードの審査員を務めた経験からこう指摘する。「(多くの取り組みが)大抵の場合、単なるパフォーマンスに過ぎないと分かった。一皮むけば、大した効果がないことは明らかだった」

しかし、この業界にはまだ、CO2排出量を正しく測定するための明確なグローバルスタンダードがないため、多くの企業にとって透明性を確保することが難しいとの指摘もある。業界各社が故意に結果を曖昧にしているわけではないのだが、方法論が異なり、さまざまな結果を導く、多様な指標やCO2カルキュレーター(計算機)に振り回されている。グッドループのライアン・コクラン氏は次のように説明する。「あるカルキュレーターは、クリエイティブの重みを考慮するが、プログラマティックサプライチェーンを考慮しない。他のカルキュレーターは、前述のいずれも考慮するが、デバイスの種類や、広告が最終的に配信されたかどうかは考慮しない。すべての要素を考慮する汎用のカルキュレーターは存在しないというのが実情だ」

CO2排出量測定のスタンダードを策定することは、簡単なプロセスではないと認めつつも、CO2排出量の削減に標準的指標が不可欠であるという点は、業界を超えた共通認識となっている。エッセンス・メディアのローラ・ウェイド氏は、「私たちは数値化できるものしか削減できない。CO2予算やCO2課金、CO2の測定値などが議論の的になるだろう」と、まとめている。中立的な業界団体によって策定され、管理される統一基準を持つことが、サステナビリティをめぐる難解さや混乱を取り除き、企業が排出量を把握するための出発点となる。OpenXのプリヤ・バティア氏は、「我々は、各企業が主張していることが真実かどうか、そしてそれが実際に排出量削減に貢献しているかどうかを、確認する必要がある」と語る。「それを可能にする唯一の方法は、我々全員が遵守すべき業界標準を策定し、認証を受けるためには、独立した第三者機関による定期的な検証を必要とするということだ」と同氏は言う。これによって、企業が自社の最大排出量を正しく把握するようになれば、意味のある変化を起こせるようになるだろう。

 

 

最適化

透明性の欠如は、企業姿勢だけではなく、広告エコシステムの本質にも関わる問題だ。現在は、インベントリ取引に関わるプレーヤーが多すぎ、その中間層も多すぎて、配信経路があまりにも肥大化してしまっている。フィフティのアレックス・ホークスワース氏は、「クリエイティブを制作し、配信するプロセスには、あまりに無駄が多く、そのシステムはほとんど最適化されていない」と指摘する。「成果を最大化するように設計されたのだろうが、環境については、まったく配慮しない仕組みになっている」

サプライパスの最適化(SPO)に投資をすれば、CO2排出量の削減に役立ち、キャンペーンの実施コストも削減できるということは、すでに業界の共通認識になっている。シェアスルーのリチャード・オットイ氏は、Scope3排出量(自社の事業活動に関わる他社の排出量)が及ぼす影響についての認識が高まるにつれて、サプライチェーン全体のスリム化を指向する企業が増えてくる、と断言する。SPOを活用し、顧客によりダイレクトな配信経路を提供することで、「サプライチェーン内の不必要なステップが減り、自ずと不要な炭素排出も抑制される」。サプライパス最適化の第一歩としては、価値の低いパートナーや、持続不可能な事業を行う企業との関係を断つことを挙げる人が多い。だがその中で、アルキミ・エクスチェンジのベン・プットリー氏は、不要なステップをカットし、無駄な手数料を減らす解決策として、配信プロセスをブロックチェーンに移行することを提案している

クリエイティブを最適化することも、業界全体のCO2排出量を削減することにつながる。広告のサイズや色、フォーマットなどの諸要素に配慮すれば、広告キャンペーンによる環境汚染を抑制するのに役立つ。NEXDのエリック・タメナーム氏は、「クリエイティブのサイズが小さいほど、また読み込み時間が短いほど、サーバーに必要なエネルギー量が小さくなるので、汚染物質の排出量を減らすことができる」と指摘する。さらに、広告のアテンション(注目率)を高めることができれば(それにはまず、アテンションの測定方法を標準化する必要があるが)、企業は購入するインプレッション数を減らすことができ、余分なクリエイティブの配信によるCO2排出も抑制することができる。「広告へのアテンションが十分に高ければ、ブランドは大量の広告を配信する必要がなくなり、結果的に環境への負荷を低減することができる」と、Teadsのキャロリン・ユゴネン氏は説明する。「アテンション測定のフレームワークが確立されれば、広告主は、より魅力的で、注目度の高いコンテンツを提供するようになり、結果として、広告全体のサステナビリティにも貢献することになる」

 

 

啓発し、行動を適応させる

排出量測定のグローバルスタンダードが確立されれば、この業界のプレーヤーも、何を追求し、何を達成すべきかを理解できるようになる。そして、業界の多くが必要とする広範な知識を広め、理解を深めることにもつながる。正しい情報を手に入れることができれば、すべての業界プレーヤーが、マクロとミクロの両方のレベルで、カーボンフットプリントを最小化するための変化を起こせるようになるはずだ。

カーボンニュートラルを目指すことと、排出量を相殺するのでは、その効果に大きな違いがあることが認識されるようになってきた。しかし、2030年までにネットゼロを達成することがいかに困難であるかを知ることは、業界の大勢が無力感を覚える原因のひとつとなっている。ワンダーマントンプソンのキース・ラムール氏はこう述べている。「(気候変動に対する不作為は)地球への悪意から生じているわけでも、変化が急がれることへの無理解から生じているわけでもないと思う。そうではなく、私たちの広告取引の実態把握や、カーボンフットプリントの測定方法、測定結果の取り扱い方などが、混乱しているところからきているのだと思う」

しかしながら、一人一人の行動がどれほど排出量に影響しているかを認識し、それを軽減するための小さな歩みを続けることは大きな変化をもたらすことになる、とラムール氏は指摘する。定期的に受信トレイを空にする、メールの送信回数を減らす、「全員に返信」は必要な場合に限るといった些細な行動の変化で、誰もが容易にカーボンフットプリントを削減できる。しかし、個人の意識変革であれ、組織的な方針策定であれ、一人一人の行動が変化をもたらし得ることを知ってもらうためには、もっと行うべきことがある。The Women in Programmatic Networkのエミリー・ロバーツ氏が指摘するように、この業界には「デジタルマーケティングが環境に与える影響を理解し、効果的に影響を低減するための」トレーニングが不足しているのだ。

インターネット利用がいかに環境汚染につながるかを消費者に啓発する役割も、この業界には求められるのかもしれない。シェアスルーは、同社の「Deep Dive」調査のなかで、ユーザーの10人に6人が、ウェブ閲覧がCO2排出につながっていることを知らなかった、と報告している。現代の消費者は、サステナビリティを重視するブランドをますます強く支持するようになっている。これはアドテク業界が、インターネット通信や広告配信が地球に与える影響について消費者に正しく伝え、彼らとつながりを築く絶好の機会なのかもしれない。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。