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CCIとOptableの提携でデータクリーンルームを民主化[インタビュー]

これまでオンライン広告のターゲティングや効果測定に用いられてきたサードパーティCookieの利用制限が強化され、データプライバシーに配慮したマーケティング戦略の実現に向けて、「データクリーンルーム」と呼ばれるデータの匿名化技術への注目が高まっている。ただし、その注目度に比して、普及率はまだ高くない。その構造的な課題を解決すべく、事業提携を締結した2社に話を聞いた。

(Sponsored by CARTA COMMUNICATIONS)

 

CCIとデータコラボレーションプラットフォームを提供する北米企業が提携

 

―自己紹介をお願いします。

 

田中氏:株式会社CARTA HOLDINGSのグループ会社である株式会社CARTA COMMUNICATIONS(以下、CCI)にて、メディアソリューション・ディビジョンでソリューション開発グループのグループマネージャーを務める田中慎介と申します。

 

プラットフォームやメディアの流入施策や広告運用、広告枠の販売支援や広告メニュー開発など幅広く媒体支援を行っている部署において、本業務に関連した様々なプロダクトやソリューションの開発を行っています。

 

柴崎氏:同じくメディアソリューション・ディビジョンのエンジニアとして勤務する柴崎一哉です。当社が提供するCookieレスのデータマーケティングサービスである「Data Dig(データディグ)」におけるエンジニアリング全般やソリューション開発を担当しています。

 

プロドーム氏:カナダを拠点として米国や欧州各国にデータコラボレーションプラットフォームを展開するOptable(オプタブル)の最高収益責任者を務めるジェームズ・プルドームと申します。

 

前職では大手SSPのIndex Exchangeに8年にわたり在籍し、日本市場の参入を指揮しました。現職では、ファーストパーティデータを安全な環境でマッチングさせるためのデータクリーンルームの活用支援に携わっています。

 

Optableは、La Presse、The Globe and Mail、The Canadian Broadcasting Corporation(CBC)などの大手出版社とともに、カナダ市場で大きな規模を構築してきました。また、LoblawやMetroを含む大手小売メディアネットワークとも連携しています。出版社や小売メディアネットワークのパートナーの組み合わせにより、Optableはカナダで強力なエコシステムを構築することに成功しています。

 

―両社による業務提携の概要についてお聞かせください。

 

田中氏:この度、CCIが「Syncly(シンクリー)」というファーストパーティデータを活用したマーケティング支援サービスを開始することになりました。Synclyは、データクリーンルームの導入支援やカスタマーサポートに加えて、広告のプランニングやマーケティングの支援を一気通貫で行います。このサービスのデータクリーンルーム技術基盤として、Optableを採用しました。

 

 

―データクリーンルームの一般的な機能や用途を教えてください。

 

プロドーム氏:ユーザーのプライバシーを保護し、セキュリティを確保した上で、様々な事業者が保有するデータを連携させるための仕組みです。Googleが2024年4月にサードパーティCookieのサポート廃止を予定していることを受けて、今後1年間で導入が加速化していくと見込んでいます。

 

主に3種類の用途があります。1つ目はメディアプランニング。広告主と媒体社またはデータプロバイダーがそれぞれ抱えるオーディエンスにどれほど重なりがあるかを把握することで、メディア投資の判断に役立てます。2つ目は広告ターゲティング。最も活用例が多く、また利用価値が高い用途です。3つ目が広告の効果測定。広告主のオーディエンスに対してどれほど広告が露出されたかを計測します。

 

―どのように「プライバシーを保護し、セキュリティを確保」した上でデータ連携を行うのでしょうか。

 

プロドーム氏:データ内容を公開せずに、二つの異なるデータセットにどのような部分的一致があるかを判断するために、「準同型暗号」と呼ばれる暗号化技術を活用しています。本技術をデジタル広告での用途に合わせて高速処理かつ拡張可能な形式に応用したものがOptableというデータプラットフォームです。

 

 

柴崎氏:Synclyとしてのサービス提供に当たっては、データインフラを日本国内で構築しているという点でも安心してご利用いただけるのではないかと思います。

 

データクリーンルームの導入障壁とは

 

―データクリーンルームは現在どれほど普及しているのでしょうか。

 

田中氏:日本市場においては、GoogleやAmazonをはじめメガ広告プラットフォームを中心にデータクリーンルームの提供が進んでいるというのが現状です。

 

一方で、媒体社、コンテンツホルダー、リテーラー、広告主が自社のデータ基盤を有しメガ広告プラットフォームに依存しない形でデータクリーンルームを活用している事例はまだないと理解しています。媒体社によるファーストパーティデータの活用事例としては、DMPやCDPを構築または導入してサブスクリプションサービスを開始したという動きは徐々に見られるようになりましたが、データクリーンルームの導入障壁が依然として非常に高いことが課題となっています。

 

―どのような点が導入障壁となっているのでしょうか。

 

田中氏:データクリーンルームを構築する上では相当程度の設備投資が必要です。またSQLなどのデータベース言語を扱うことができる専門人材を確保しなければなりません。

 

こうした課題を解決するために、当社ではSQLなどのスキルを必要とせず、データを投入さえすれば管理画面上で様々な操作を行うことができるOptableを採用した上で、Synclyとして日本市場に即したフルマネージドサービスの提供を開始しました。

 

柴崎氏:また、ありとあらゆるデータを管理することを想定して開発された一般的なデータ基盤は重厚な装備となり、それらの大部分の機能は必要ありません。また、費用も高額になりがちです。

 

Synclyでは、ファーストパーティデータを保有する様々な事業社向けに、広告やマーケティングに必要な機能に特化することで、利用料を極力抑えたサービス設計をしています。一般的なデータプラットフォームに比べ導入費用を10分の1程度に抑えたデータクリーンルームサービスを実現しました。

 

独自のデータ経済圏を構築

 

―どのような事業者が貴社サービスを活用し得ると思いますか。

 

田中氏:自社でファーストパーティデータを保有している媒体社、コンテンツホルダー、リテーラー、広告主すべての事業会社です。例えば、有料オンライン購読サービスを運営する事業者様であれば、その会員データを通じて「40代、男性、情報通信業」といった属性情報を有しているかもしれませんが、ユーザーの趣味・嗜好までは把握しきれていません。そこで広告主やデータ事業者が保有する購買情報と連携すれば、そのユーザーのペルソナを生成することが可能になります。こうしたペルソナ情報は、広告のROIやユーザーのロイヤリティ向上に役立てることができるはずです。

 

柴崎氏:なお、Synclyを導入した事業者様は、新たなデータクリーンルームを無料でデータパートナーに提供し、独自のデータ経済圏を構築することができます。

 

 

田中氏:基本的には多くの事業会社は既にユーザーから各社の法務ポリシーに準じた個人情報取扱についての同意を取得した上でクラウドサービス上にデータを保管していると理解しています。そのデータ基盤と連携すれば、Synclyをご利用いただけます。

 

―各事業者はどのようにして「独自のデータ経済圏」を構築するのでしょうか。

 

田中氏:図表内にオレンジ色で示した事業者様とCCIが契約すれば、このオレンジ色の事業者様は取引先に対して無料で連携先となるデータクリーンルームを提供することが可能になります。

 

資料提供:CCI

 

連携先となる青色の事業者様は、データの閲覧権限しかなく、データ連携先を設定することができません。自らデータ連携及び広告配信を行うためには、オレンジ色のレイヤーへとアップグレードいただくことになります。

 

―その他のCookieレスソリューションと比較した際の有効性や拡張性についてお聞かせください。

 

田中氏:例えばIDソリューションを用いた広告の配信先は、オープンインターネットと連携したDSPに限定されているのとは対照的に、当社ソリューションはGoogleやFacebookといった大手広告プラットフォームとのデータ連携にも用いることができるという点が特徴的です。

 

プロドーム氏:ただし、実際には多くのマーケターは、IDソリューションやコンテクスチュアルターゲティングを併用しながら広告効果を最大限に高めていくための努力を行っています。我々のサービスでは、The Trade Desk社が開発したUnified ID 2.0やLiveRamp社のRampIDといったIDソリューションとの連携も想定しています。

 

―サードバーティCookieとの比較ではいかがでしょうか。

 

プロドーム氏:どんな仕組みであれ、ユーザーの同意を得て取得したデータに基づくソリューションが、ユーザーの承諾を得ないままにやみくもに取得していたサードパーティCookieを超える拡張性を実現することは不可能でしょう。

 

柴崎氏:ユーザーのプライバシー保護は今後ますます強化されていく見込みです。データクリーンルームの最大の意義は、そのような環境下においても、安全かつ安心に他事業者とのデータ連携ができるという点にあります。データクリーンルームを導入した事業者様であれば、ユーザーに対して、いつでも自信を持って説明責任を果たすことができます。

 

プロドーム氏:またOptableでは、ユーザーのプライバシーを保護した上で、拡張性を高める工夫を様々に行っています。その一環として、類似拡張配信機能を近日中にリリース予定です。この機能を活用すれば、保有データを大幅に上回る規模の広告配信を効果的に行うことができるようになります。

 

田中氏:Cookieレス時代には、データクリーンルームの利用は標準的になると考えており、CCIは「Syncly」を通じて事業会社のファーストパーティデータの活用を牽引していきます。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。