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AIが生み出すジャンクサイトは、アドネットワークにとって問題だろうか?

AI(人工知能)が普及するにつれて、広告業界にとって長年の課題だったジャンクサイトの問題が再び浮上してきた。

 

インターネットのジャンクサイト問題は、なにも新しい話題ではない。例えば「クリックベイト」という用語は2006年から使用されているが、MFA(広告のためにつくられた)サイトに関する議論は長い間、動きが鈍いままだった。しかし、ニュースガード(NewsGuard)の6月の報告書で「完全にAIソフトウェアが書いたと見られる」49のニュースサイトや情報サイトが特定されて以来、全ての流れが変わった。8月には、このサイトの数は既に400を超えている

ニュースガードは、一部のウェブサイトが「平凡な言葉とフレーズの繰り返し」を用いながら、政治、エンターテインメント、健康、ファイナンス、テクノロジーなど、さまざまなトピックで、何百件もの記事を毎日公開していることを発見した。驚くべきことに、これらのウェブサイトの一部は「虚偽を拡散している」ことも明らかにされ、AIが悪意のある目的に使用されるリスクが高まっていることが示された。

これは当然ながら、全てのインターネットユーザーにとって憂慮すべき事態だろう。しかし、アドネットワークにとってはどうだろうか?

 

「ジャンクサイトは人間のオーディエンスを惹きつける」

憂慮すべきことに、ニュースガードが特定したAI生成ジャンクサイトの中には、広告を掲載しているものも多い。実際、ニュースガードの共同創設者であるゴードン・クロヴィッツ氏が、ウォール・ストリート・ジャーナルに語ったところでは、一部のサイトはグーグルアドネットワークから利益を得るために専用に作られたものであり、上手く機能しているという。「AIで書かれたジャンクサイトの問題は、そういうサイトに掲載された広告が実際に稼働し、効果を出していることだ」と、RTBハウスのアナリティクス&データサイエンス担当のジェイセン・ジレスピー氏は語った。「非人間のトラフィックを利用するアドフラウドとは異なり、ジャンクサイトは実際の人間オーディエンスを引きつける可能性が高い」と指摘し、これらのサイトが及ぼす潜在的な危険性の大きさを強調した。

AI生成のサイトの集客力は、アドテクにいくつかの深刻な問題を提起している。その中でも恐らく最も重要な課題は、ブランドセーフティー問題だろう。

言うまでもなく、どんなブランドも、危険な、誤った、または不適切なコンテンツと一緒に自社の広告が表示されることは望まない。その意味で、AI生成のジャンクサイトは、三重の脅威のように思える。アドネットワークの主要な責任は、広告枠の買い手を確保し、広告主の予算を、対象オーディエンスや適切な在庫と組み合わせることだが、それ以上にその責任を拡大できるだろうか?アドネットワークにはもともとかなり人手が必要だし、ジャンクコンテンツの潜在的なリスクを評価する責任まで彼らにあるといえるのだろうか?しかし、スタック・アダプト(StackAdapt)の共同創設者兼CTOのヤン・ハン氏はそう信じている。「アドネットワークの最も重要な責任は、エコシステム内のパブリッシャーが、ブランドセーフティーや品質、オリジナリティを担保していることを、広告主に保証することだ」と述べた。ハン氏は、この責任はAI生成のウェブサイトにも適用されると主張し、オリジナリティの課題を特に問題視している。「AIのアルゴリズムは、インターネット上で利用可能な限られた数のAPIからコンテンツを生成するだけであり、AIが作るウェブサイトは、有意な価値を提供しない」と語る。

一方、ジレスピー氏は、「アドネットワークからジャンクサイトを排除するという意思表示は、懸念のあるコンテンツに掲載されることを望まない広告主側から発せられるべきだ」と主張している。すべての広告主がアドネットワークを使用しているわけではないことを考慮すれば、広告主自身が疑わしいウェブサイトに広告を配信しない責任を負うというのは、論理的なように思われる。

インモビの副社長、パメラ・イバラ氏は、責任が誰にあるかに関係なく、AIによる生成かどうかにも関わらず、MFAサイトの排除は微妙な問題だと主張した。イバラ氏は、「確かにリンクファーム(関連リンクだけのサイト)はあまり役に立たないが、例えばテイラー・スウィフトの衣装がカルーセル形式で表示されるサイトで、それぞれのページに広告がある場合、それが良いとか悪いとかを誰が決められるだろうか?ユーザーが新しいページをクリックし続けるなら、それはユーザーの意図だし、それを収益化することが果たしてネガティブだといえるだろうか」と指摘する。「問題のあるサイトに共通する大きな課題は、広告業界全体の悩みの種でもある、ユーザーエクスペリエンス毀損だ」と彼女は結論づけけた。

 

「先見の明あるアドネットワークにとって待望の時」

それはさておき、AI生成のジャンクサイトを積極的に調査することは、アドネットワークにとっても価値ある取り組みかもしれない。現在、広告インプレッションの約21%がMFAサイトに送られており、それにかかるコストは、世界で約130億ドル(約102億ポンド)に上る。アドネットワークがリスクの高いサイトを特定して切り離す責任を負えば、自らの品質を保証するのに役立ち、評判を維持する重要なセールスポイントともなる。スタック・アダプトのハン氏は、「AI生成のジャンク」サイトの収益化を許容していると、インターネットが低品質のコンテンツで溢れかえることになる」と主張し、これは広告在庫の品質を低下させ、広告主とそのブランドの両方に損害を与えかねないと強調した。ハン氏は、介入不足はアドネットワークにトラブルをもたらす可能性があり、AIを利用したMFAサイトの急増は「質の高いオーディエンスを提供するという、アドネットワークの信頼を損なうことになるだろう」と述べた。

RTB Houseのジレスピー氏もこれに同意しつつ、AIが生成するジャンクサイトは、アドネットワークの広告在庫の品質面に再び焦点を当てるかもしれないと語った。「アドネットワークはこれまではとにかくリーチを最大化しようと努力してきた」と彼は言う。「しかし、先見の明のあるアドネットワークであれば、リーチを二の次と考え、品質向上を優先させる、今が絶好の機会だと捉えるだろう」

AI規制は、テック業界とその未来に大きな課題を提起しており、最終的に、アドネットワークが決定的な解決策を提供できる可能性は低いだろう。しかしAI生成サイトのインセンティブは、あくまで収益化にある。そして、アドネットワークは、ある程度これをコントロールする権限を持っている。アドネットワークがこのインセンティブを無効化できれば、インターネット上のコンテンツの品質や安全性の維持に寄与するだろう。もし実現すれば、政府や企業では当面達成できないような偉業となるかもしれない。

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2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。