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コンテクスチュアル広告の復活:プライバシー優先の世界への適応

「CTV、デジタルOOH、デジタルオーディオ、これらはすべてコンテクスチュアルだ」。今年のATSロンドンで、ビデオ配信事業社Connatixのビル・スワンソン氏は、こう宣言した。広告業界がクッキー廃止に向け苦悩する中、コンテクスチュアル広告が勢いを取り戻しつつあり、その流れはますます強まっている。

今年、世界のコンテクスチュアル広告の支出は2,273億8,000万米ドル(~1,862億4,000万ポンド)と推定されており、2030年までにさらに倍増すると予想されている。この記事では、コンテクスチュアル広告がプライバシーファーストの状況下でどのように復活を遂げるのかを探り、この広告手法がもたらす利点と課題を分析する。

 

データ、配信先のすべてのデータ

コンテクスチュアル広告は、プライバシーファーストの観点からは何の問題もない。この手法は、ユーザーの行動ではなく、広告が配信されるメディア環境に焦点を当てている。そのため、ユーザーをトラッキングするという、プライバシー上の懸念を完全に回避できているからだ。

だがこれは、コンテクスチュアルを活用する広告主がターゲティングデータを精査する際に、これまでとは違うアプローチを取る必要があることを意味する。コンテクスチュアルキャンペーンの成否は、広告が配信される可能性のあるメディアの環境をいかに明確に理解できるかにかかっており、成功のためにはその能力が不可欠だ。また、コンテクスチュアル・ソリューションには広告のパーソナライゼーション機能がないため、これが広告主にとって課題のひとつになっている。消費者の70%以上が、広告にパーソナライズされた体験を期待している。コンテクスチュアル広告の、特定のデモグラフィックや特定グループにリーチする能力の限界は、広告主にとって大きな障害となりそうだ。

さらに、ウェブページのコンテンツを迅速かつ正確に理解するには、変化に即応できる高度なアルゴリズムが必要であり、これを実現できる決定的な汎用ソリューションはまだない。だが、昨年来のAIの急速な進化は、この壁を乗り越えるのに役立つかもしれない。AIのプログラムは、各コンテンツのテーマやトーン、感情を精緻に理解し、タイムリーで適切な広告を提供するために必要な詳細なデータの処理が可能だ。このテクノロジーはまだまだ進化を続けている。こうしたデータを、人間と同等の理解力で分析できるAIの力を借りることで、コンテクスチュアル広告は、プライバシーを最優先にしつつも、従来と同等の効果を提供する可能性を秘めている。

 

アテンション・プリーズ

アテンション(注目率)は、広告業界において常に重要な指標のひとつだったが、オーディエンスが細分化するにつれて、消費者のアテンションを集めることはますます難しくなってきた。個人の注目を集め、維持することを望むマーケターは、コンテクスチュアル広告で大きな課題に直面している。個人データに頼らないコンテクスチュアル広告は、個別に訴求して注目を集めるのには適していないからだ。しかし、特にニュースサイトのようなコンテンツの多い環境では、ページの背景に溶け込んでしまわないよう、目立つクリエイティブを制作することに専念できるというメリットもある。また、コンテクスチュアル広告には、色々な手法がある。例えば、ナイキジャパンの「Own The Floor」キャンペーンは、東アジアのダンスコンテンツの人気に着目し、インパクトのあるビデオ広告とOOHを展開した。また、コーヒーの新興企業であるグラインド社は、ロンドンの地下鉄でOOHキャンペーンを展開し、各地の特徴に合わせた広告コピーで朝の時間帯の通勤客の注目を集めることに成功した。「エージェンシーは、どうすればより消費者の注目を集められるかを真剣に考え始めている。そのため、広告の配信先がより重要な要素になってきた」とCMSサービス企業、スマートフレームのジヴィル・ヴァイスビライテ氏は言う。「(広告主が考える)勝利の方程式は、文脈、広告枠、創造性だ」

 

Seedtagとニールセンの'Building Consumers' Connections Through Contextual'レポートによると、消費者はコンテクスチュアル広告に対して、他の広告よりもポジティブな反応を示す。

 

コンテンツは本当に王様なのか?

コンテクスチュアル広告のメリットは、プライバシー尊重だけではない。ウェブページのコンテンツのリアルタイム情報を活用するコンテクスチュアル広告は、大量の個人データを集める必要がある行動ターゲティング広告よりも、一般的に費用対効果が高い。さらに、この広告手法は過去データよりもリアルタイムのデータに重点を置いているため、消費者の日常のニーズにより対応しやすい。例えば、オンラインショッピングで新しい携帯電話を購入した人は、次の日にはスポーツ用品を探しているかもしれない。だが、行動ターゲティングでは、ケトルベル(筋トレ用品)を探している消費者に、Carphone Warehouse(携帯販売店)やBackMarket(中古携帯ショップ)の広告を表示することになる。だが、コンテンツターゲティングなら、消費者の見ているコンテンツに、関連する広告を表示することができ、消費者のショッピング体験を向上させることができる。コンテクスチュアル広告を見た消費者は、デモグラフィックターゲティングされた消費者よりも、32%も行動する可能性が高い。関連性のインパクトは、決して誇張ではないのだ。

とはいえ、コンテクスチュアル広告に欠点がないわけではない。キャンペーンの測定は依然として課題だ。スワンソン氏は「さまざまな測定指標があるが、パブリッシャーは、バイヤーが何を求めているかに左右されがちだ」と指摘する。標準化された測定指標がなければ、業界がキャンペーン・パフォーマンスを統一的に把握することは難しい。ゼニス・グローバルのダニエル・シシェル氏は、スタンダードが確立していないため、エージェンシーは「広告が関連性の高いコンテンツに表示された場合は、関連性の低いコンテンツに表示されるよりエンゲージメントが高い」ことをクライアントに納得してもらうため、カスタムレポートを作らざるを得ないのだ、と指摘する。

さらに、コンテクスチュアルキャンペーンでは、一般的にブランドセーフティを確保する対策が講じられるが、その手法に対し、一部のパブリッシャーからは依然として異論が出ている。また、コンテンツからデータを抽出する行為についても、一部のパブリッシャーからは補償を求める声が出ており、中にはコンテンツの盗用だと断じる者さえいる。この記事を書いている時点では、ソリューションベンダーとパブリッシャーの間で、この押し問答に終止符が打たれる兆しはほとんどない。4月に、ガーディアン紙(The Guardian)がソリューションベンダーのイルマ(illuma)と提携したことが話題になったが、パブリッシャーに報酬を支払う契約は、この他にはまだ聞いたことがない。

結局のところ、コンテクスチュアル広告には欠点はあるものの、プライバシーファーストの未来に向けて、多くの可能性を秘めていることは間違いない。サードパーティCookieの廃止が近づき、マーケターは広告環境の重大な変化に備えなければならない。とは言え、多くのことがまだ流動的だ。コンテクスチュアル広告は、業界がこの重大局面を乗り切るための、安全で信頼できる(欠陥はあるが)方向を示しているのかもしれない。さらに、コンテクスチュアルは、OOHのような進化するテクノロジーに歩調を合わせて歩んできた広告手法でもある。そう考えるなら、今後AI(人工知能)の進歩がコンテクスチャルの欠点を補い、オムニチャネル・キャンペーンの可能性を広げることも十分にありえるだろう。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。