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ZOZOTOWNが語るリテールメディア成長への突破口ー「購入の瞬間」にこそチャンスーATS Tokyo 2023イベントレポート(9)

デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2023」が12月8日、都内にて開催された。

 

「『購入の瞬間』に隠れたマーケティング活用の可能性を引き出す」をテーマとしたセッションには、株式会社ZOZO グループ事業戦略部 ディレクター 山口 琢也氏、Rokt合同会社 アジア事業開発統括兼日本代表 三島 健氏が登壇。購入完了画面での広告表示に特化したRoktのソリューションの導入事例を紹介した。

 

ZOZOTOWNの成長を支えるリテールメディア広告

 

国内最大級のファッションECであるZOZOTOWNでは、新たな収益源として2018年より広告事業を開始。オンライン上での「物販の場」として捉えられてきたECサイトを、広告メディアとして活用してマネタイズに繋げる構想は、当時の業界にも驚きを与えた。

 

「年間に1千万を超えるお客様にご購入いただき、購入件数でいうと5,300万件と、非常に人通りの多いメディアとなっている。ただ、あくまでもメインはリテールのため、いかに通常の購買体験を阻害せずに、ユーザー様と広告主様、そして当社ZOZOにとって三方よしの広告を成立させるかを重要視している」と山口氏は語る。

 

ZOZOTOWNのようなリテール企業が、自社の持つ顧客タッチポイントをメディア化して広告主に開放し、マネタイズにつなげる「リテールメディア広告」は、米WalmartやAmazonの成功事例が広く知られるが、近年国内でも急速に普及が進む。

 

サードパーティークッキー規制などの影響で従来のマーケティング手法が通用しなくなる中、ECなどで蓄積したファーストパーティーデータを活用することで一人ひとりの顧客にとって関連性の高いコンテンツを配信することができる点や、そもそも買い物行動中の顧客にリーチできるため、ユーザーからの高いエンゲージメントが期待できる点などが魅力だ。

 

同社が「ZOZOAD」と呼ぶ検索連動型の広告は、まさにリテールメディアの代表的な形だ。ユーザーが検索したキーワードに基づき、広告出稿する出店ブランドの商品の中から適切な商品を上位表示する仕組みで、いわば「EC内におけるリスティング広告」とも言える。ZOZOの出店者のうち既に6割以上がZOZOADを活用し、事業規模も右肩上がりで順調に拡大しているといい、ユーザー体験、出店者にとっての広告効果それぞれの観点で広く受け入れられていることがうかがえる。

 

一方で、今後ZOZOが広告事業を伸ばしていく上でのポイントを三島氏から問われた山口氏は「ご出店いただいているブランド様が広告主となる広告というのはどこかで限界がくる」と語り、次のように続ける。「出店者様ではない外部の広告主様の広告というのは非常にチャンスがある、そこを伸ばしていきたいという思いがあります。」

 

リテールメディアの限界を突破する「購入の瞬間」のアプローチ

 

出店しているブランド以外の広告(ノンエンデミック広告)をどのように取り入れて収益性を一段伸ばしていくか、というのはリテールメディアにおける大きな関心事となっている。一般的に、リテールメディアのエコシステムを支えるのは、買い物プラットフォームを提供する小売事業者と、そのプラットフォームに出店するメーカー、そして消費者の三者。つまり、そもそも小売事業者が取り扱わないジャンル・カテゴリのメーカーや、非メーカー系の広告主が参画しづらい構造となっている。

 

「外部広告主を表示する難しさというのが、非常に収益性は上がるが、サイトの購買体験が下がったり、ユーザビリティが下がったり、ここのトレードオフの関係が常に付き纏っている。ここをどう上手くバランスさせるのかというのが、目下我々の課題となっている。(山口氏)」

 

こうした課題へのアプローチとしてたどり着いたのが「購入の瞬間」というタイミングの活用だった。「サイト内の色々なタッチポイントの中でも、購入完了画面、サンクスページであれば、すでにお買い物を終えたあとに通るページなので一番お客様の購買行動を阻害しない。何かチャレンジできそうだなと模索していたところに、Roktというパートナーと出会い、このサンクスページへの外部広告を導入した。(山口氏)」

 

ZOZOTOWNの購入完了画面で表示される外部広告主によるオファープレイスメントの例

 

購入完了の瞬間を活用するメリットを、三島氏は次のように語る。「ECで購入したタイミングというのは消費者の満足感だとか、幸福感が非常に高い瞬間になっている。同時に、ものを買った直後のタイミングというのは、視覚的な意識がスマホやデスクトップに集約されている瞬間でもある。トランザクションの後だからこそ得られる、正確な会員情報、決済情報、商品情報、ショップ情報などのファーストパーティーデータを活用することで、顧客にとってレレバンス(関連性)の高い広告を選び出せるのもポイント。ZOZOTOWNでも、こうしたトランザクションの瞬間に得られるファーストパーティーデータをRoktのAI・機械学習エンジンがリアルタイムに分析し、直後に表示されるサンクスページ上で、お客様にとってベストなオファーを提示しています。」

 

リアルでもオンラインでも、追求すべきは「レレバントな体験」

 

Roktの導入によって得られた成果として山口氏は収益性の高さに加え、広告主の質の高さを指摘。「社内の色々な懸念を跳ね退きながら導入しましたが、実際導入してみて一番の魅力は広告主様の質が非常に良いというところ。色々な広告主様が当然表示される中で、RoktのサービスはZOZOTOWNのサービスに適した広告主様というのをしっかりと厳選いただいた上で、かつ、ユーザーの興味関心のある広告をしっかりと出していただき、サイトのブランディングを阻害しないのが大きな魅力」と語った。

 

実際にZOZOTOWNの購入完了画面上でパフォーマンスが好調な広告として、ハウスメーカーのキャンペーンの事例が紹介された。「アパレルサイトとハウスメーカーというのは思ってもみない組み合わせである」というモデレーターの投げかけに対して、山口氏は「一見すると違和感を覚えるが、購買データやアクセスログを見ると、私たちが想像し得ないような相関性が見えてくる。まさに機械学習やAIの力で成し遂げられること」と回答し、以下のように講演を締めくくった。

 

「リアル店舗でもお買い物が終わった後に、帰り際に店員さんから気の利いた情報を教えていただくケースはあると思うが、我々はそれをウェブの世界で実現しているに過ぎない、という風に思っている。ここでミソなのが、我々が一方的にお伝えしたい情報を伝えるのではなく、やはりユーザーが興味関心を持ってるものに応じた気の利いた情報を提供するというようなことをすべきであるというところ。広告によるプラスアルファの体験というものを提供することによって、リテールメディアとしての価値というのはもっともっと上がっていく。その意味でもこの購入完了ページというのは各社、非常にホットかなと思うので、ぜひ当社の取り組みが一つでも参考になれば。」

 

※ZOZOTOWN登壇セッションはこちらからも視聴可能

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。