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サードパーティーCookie廃止の先へ―Googleのプライバシーサンドボックスで変わるパーソナライズ広告

サードパーティーCookieの廃止が進んでいる中、筆者が所属するRTB Houseはこの変化に適応するため、新たな取り組みを進めている。

当社はディープラーニングを駆使して、効果的なダイナミックリターゲティング広告の配信サービスを提供している。現在、特に注力しているのはGoogleのプライバシーサンドボックス内における「Protected Audience API」に焦点を置いた次世代技術の開発である。この取り組みから得られるサードパーティーCookie廃止に関する最新の知見を紹介しよう。

 

(Sponsored by RTB House)

 

Cookie代替のターゲティング手法の比較とProtected Audience APIへの期待

 

GoogleがサードパーティーCookie廃止を決定した背景には、世界的なプライバシー規制の強化と、FirefoxやSafariといった主要なWebブラウザのプライバシー保護機能強化がある。Googleは当初2020年に2年以内の廃止を目指していたが、現在は2024年後半に延期している。現在、ターゲティング広告に向けたCookie代替手段が求められ、以下のようにいくつかの手法が登場しているが一長一短である状況となっている。

RTB Houseが注目しているのはProtected Audience APIだが、これはまだ広く普及していない。プライバシーサンドボックスには、ほかにもTopics APIやAttribution Reporting APIが一般に公開されており、2023年5月頃まではChromeの設定を通じてユーザーが自ら利用を申し出る形だったが、現在はほぼ全てのChromeユーザーがこれらのAPIを利用可能となっている。しかしながら、サードパーティーCookieの廃止はまだ完了していない。2024年第1四半期にChrome の1%のユーザーに対してサードパーティーCookieを無効化し、2024年後半に完全廃止を予定している。

Protected Audience APIを用いた広告配信システムは現在、実用段階にはなく、Cookieベースの現行モデルとのパフォーマンス比較は困難であるが、従来のCookie利用システムと比べて有利な点もある。従来システムではCookie同期によるユーザー情報の損失が問題だったが、Protected Audience APIではユーザー情報の損失がない仕組みだ。全Chromeユーザーをカバーし、より正確なデータに基づく効果的な広告配信が期待されている。

 

RTB Houseが行ったProtected Audience APIの実証内容

 

RTB Houseは、GoogleがサードパーティーCookieの廃止を発表して以来、この変化に対応するためにW3Cなどの業界団体と協力し、Cookieレス技術に関する議論と技術提案を行ってきた。実は、独自に提案した技術がプライバシーサンドボックスのProtected Audience APIの一部として採用されている唯一の企業だ。これまでRTB Houseでは、以下のようなProtected Audience APIを活用した3種類の広告配信のテスト行ってきた。その内容と結果を紹介する。

 

・パブリッシャーとの直接接続
RTB Houseは、特定のパブリッシャーと直接契約を結び、そのサイトの全てのインプレッションを優先的にRTB Houseに送るようにした。2022年には日本でもテストを展開し、プライバシーサンドボックス機能をアクティブにしたChromeユーザーを対象に行ったが、サンプル数は限定的だった。

 

・Protected Audience API -over-RTB
このアプローチでは、通常の広告入札プロセスにおいて、広告リクエストが来た際にユーザーがプライバシーサンドボックス機能をオンにしているかを確認し、オンの場合はRTB Houseがその広告枠を先に入札して確保する。入札に成功した後、RTB Houseのシステム内でProtected Audience APIを使用して、複数の広告主から最適な広告を選出するオークションを実施した。この方法を通じて、Protected Audience APIを用いた広告配信が実際に機能することを確認した。

 

・SSP経由での入札リクエストと入札テスト
Protected Audience APIを使用した入札リクエストをSupply-Side Platform (SSP)経由で行い、GoogleのAdExchange (AdX)を通じて入札テストを実施した。この方法は、Google AdXが唯一Protected Audience APIに対応しているため、規模は限定的であったが、実際にAPIを通じて入札と広告表示が可能であることを確認した。

 

RTB Houseのテストは2023年1月時点で1億2000万インプレッションに達し、全広告主の46%がProtected Audience APIを利用した広告表示を行った。しかしこれはRTB House が扱うCookieベース広告の1%未満に過ぎず、広告パフォーマンスの全面的な評価には至っていない。2024年第1四半期にChromeユーザーの1%でサードパーティーCookieが排除されるため、より詳細なパフォーマンス評価を行う。

 

Cookieレスへのスムーズな移行は、新技術への関心がカギ

 

サードパーティー・Chromeの廃止はアドテク事業者に最も大きな影響を与えるだろう。この変更は、広告出稿側の自動購入プラットフォームであるDSP(Demand-Side Platform)や、パブリッシャーやウェブサイト運営者が広告スペースを自動販売するSSP(Supply-Side Platform)を運営する事業者たちにとって特に顕著である。さらに、DSPやSSPと密接に関わるパブリッシャーや広告主も、Cookieレス環境への適応としてプラットフォーム選択の重要な決定を迫られる。

パブリッシャーはSSPやDSPと連携し、Cookieレス技術のテストに積極的に参加する必要がある。この取り組みは、持続可能性とプライバシー規制への対応を目的としており、最適なマネタイズ手法の選定を目指す。SSPはパブリッシャーの自発的な参加を歓迎しており、複数の新技術を試すことで最良の解決策を見つけて判断したい。

広告主はサードパーティー・Cookie廃止に備え、まず自社のデジタルマーケティングでサードパーティー・Cookieの使用状況とその影響を把握する必要があるだろう。その後、様々なCookie代替技術を調査し、プライバシー、規制遵守、ユーザーエクスペリエンスの向上の観点から評価する。さらに、自社で持つファーストパーティーデータやコンテクスチュアルターゲティングなどの代替手法も検討したい。対応策の策定や実装で障壁に直面する可能性があるため、信頼できるテクノロジーパートナーと一緒に進めることが望ましい。

RTB HouseはProtected Audience APIを利用した新しいターゲティング手法のシステムを開発し、世界中のパブリッシャーや広告主にその成果を披露している。私たちの活動のなかから感じることは、日本企業は新技術を理解する速度が早いものの、質問内容は広告成果のレポート機能に関するものが多く、比較的保守的な傾向にあることだ。これに対して、海外企業は新たな可能性に関する質問が目立つ。デジタル広告技術の進化に伴い、Cookieレスの新時代においても、未来志向で新しい技術や手法に対する興味が重要と考える。

2024年はChromeが完全にCookieレスへ移行する重要な時期である。そのため既存の広告戦略を見直し、新旧の手法のパフォーマンスを比較する機会をもたらす。RTB HouseはProtected Audience APIの主要機能を提案した企業として、Googleと密接な関係を構築している。Googleもまた、市場が必要とする機能に関する理解を深めたいと考えている。Webマーケティングに関わる人たちは、積極的に検証に参加し、今後の変化を理解しながら、自社のニーズに応える解決策をフィードバックしていくことが重要ではないだろうか。

 

コラム執筆者 

 

奥内鉄治
RTB House Japan カントリーマネージャー

 

 

 

毎日新聞社、FOXインターナショナルチャンネルズ、Yahoo Inc.などを経て、2017年RTB Houseの日本事業に参画。20年以上デジタル広告の領域を歩む。2021年より現職

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