総務省とUNICORNに聞く―広告主等向けガイダンスの効果と今後の課題[インタビュー]
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総務省が「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を公表してから早1年が経過した。実際のところ、本ガイダンスはデジタル広告業界にどのような影響を与えたのか。本ガイダンスの普及啓発活動を行ってきた総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 横山椋大 課長補佐*と、デジタル広告の品質管理に関わる課題に率先的に取り組んできたUNICORN株式会社 山田翔 代表取締役に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
*役職はインタビュー当時のもの
「ハックしたい」が見落としているもの
―昨年に公表された本ガイダンスの効果をどのように受け止めていますか。
横山氏:総務省では昨年6月の本ガイダンスの公表後、普及啓発活動に取り組んでおり、昨年度は各企業の広告担当部門や経営層、自治体の広告担当者等を対象としたセミナーを計7回にわたり実施したところ、約1300名の方にご参加いただきました。
その成果として、昨年度実施したWebアンケート調査では、「ブランドセーフティ」や「アドフラウド」リスクに対して対策を行っていると回答した広告主の割合が、それぞれ令和6年度より約2割程度上昇しています。さらに、ガイダンスを読んだことがあると回答した方々にガイダンス記載の「広告主等が実施することが望ましい取組」の実施状況を尋ねたところ、約7割の広告主から、ガイダンスを契機に対策を実施または実施を検討しているとの回答がありました。
少しずつガイダンスの普及が進み、デジタル広告特有の課題に対する関心が高くなっていることが伺え、ガイダンスを読んでいただいた皆様においては、それを踏まえた一定の取組を実施あるいは検討いただいているとの結果が出てきており、非常に嬉しく思っています。
山田氏:本ガイダンスの発表以前より、広告配信に関して厳しい基準を課す広告主様が一定数いらっしゃいましたが、過去1年で独自の品質管理を求める広告主様の数が増えてきたと実感しています。
とりわけ大手広告主様においては、広告配信面の確認や指定、またアドフラウドやアドベリフィケーション関連のツール活用のご要望を示されることが一般的となりました。同じ広告代理店様からの発注でも要件が大きく異なるので、広告主様主導でこうした取組が進められていると想像します。
―大手広告主以外の状況はどうですか。
山田氏:大手かどうかというよりも、広告の目的によって品質管理に対する意識に差が生じると感じています。大手広告主様はブランドの認知度を高めるために広告を出稿されることが多いので、自ずとブランドセーフティに対する意識が高くなります。
一方でいわゆるパフォーマンス型の広告を出稿される広告主様は売上増やユーザー獲得さえ実現できればよしとする傾向が強くなります。そうした傾向を持つ広告主様及び広告代理店様の間では、求める数値をどのように達成させるか、という意識が先行するあまり、結果としてユーザー体験を損ねているという本質的な課題が見過ごされがちです。
―広告の成果と品質のバランスはどのように取るべきだと考えますか。
横山氏:デジタル広告の配信に先立ち、広告配信の目的を明確化し、目的・目標とコストのバランスに応じて広告の効果を測定する指標を決定することが望ましいと考えます。
デジタル広告に関する指標としては、大きく分けて、成果関連指標と品質管理指標の2種類が存在しますが、例えば、広告のクリック等のパフォーマンスに関する指標のみが重視され、クリックを獲得する効率ばかりが優先された場合、ブランド毀損リスクのある媒体・コンテンツへの広告配信や、アドフラウドによる不正な成果の数値が含まれるリスクが高まる場合があるとの指摘がされています。こういった点を踏まえ、デジタル広告の指標設定に際しては、成果と品質のバランスを考慮し、複数の指標を多角的に比較検討いただきたいです。
山田氏:デジタル広告に関わる諸課題の多くは、数値上の成果を絶対視することに起因していると思います。
例えばユーザーが興味を持って押したクリックと誤クリックのどちらも数値上は等しく1クリックと記録されます。デジタル広告はあらゆる挙動が数値化されるため、その数字こそが絶対だと誰もが思い込みがちです。その結果、数値的な目標設定と評価のみに終始し、どの場所にどのように表示されたかがないがしろにされてしまいます。
数値データは客観性があると受け止められがちですが、計測ルールさえ理解すれば、容易にハックないしは不正ができます。定性的な質評価を並行して行うことが必要です。
―ただし、一般的なパフォーマンス広告担当者は必ずしも「定性的な質評価」のノウハウや手段を持っていないのではないでしょうか。
山田氏:特に小難しい手法を用いる必要はなく、広告配信結果を冷静に捉えようとするだけで気付くことが多々あると思います。私たちがよく用いるたとえ話なのですが、おにぎりの相場は200円前後ですよね。もし30円のおにぎりがあったら激安だからと飛びついて買いますか。多くの人は何か怪しいと感じてむしろ躊躇するのではないでしょうか。
ところがデジタル広告配信においては、例えば30~50円が費用の相場である1クリックが1円で売られた際に買い手が群がるという異常な状況が起きています。こうした極端な数値に対して注意を向けるだけでも、広告配信に関わるリスクはかなり低減できるはずです。
横山氏:そもそも広告配信の本来の目的は、広告プラットフォームの管理画面上の数値の最大化ではなく、広告を目にした消費者に自社の商品やサービスを欲しいと思ってもらうことだと考えます。「ハックしたい」という視点からは、広告の受け手である消費者の観点が欠落している懸念があり、その意味でも改めて自らの広告配信の目的を明確にしていただくことが重要だと考えます。
地方公共団体を中心とした底上げに課題
―デジタル広告に関する今後の優先課題を教えてください。
横山氏:昨年度に実施したWebアンケート調査では、本ガイダンスの認知状況等を確認しましたが、その結果から地方公共団体への浸透に課題があると感じております。
地方公共団体は、意図しない媒体への広告配信が行われた場合に、公的団体としての信用を大きく損なうリスクがあります。そこで今年度は、デジタル広告出稿に関する体制をきちんと構築する等、他の地方公共団体の参考となるような取り組みをしている地方公共団体等を見つけ出し、それを全国的に広げていくことを予定しております。
山田氏:デジタル広告を「邪魔」「うざい」と感じる消費者が多く存在することが様々なアンケート調査を通じて明らかになっています。嫌われているにも関わらず、年々着実に成長を遂げている歪んだ市場構造を是正しなければいずれ破綻するでしょう。
広告主だけに是正を求めるのではなく、当社を含めた支援事業者側が広告品質の管理水準を自ら高め、かつ業界に広く浸透させていくことが必要だと考えています。今後は関係省庁との議論を続けながら、業界団体等を通じて新たな仕組みや業界ガイドラインの策定などにも積極的に関与していきたいです。
また広告の品質管理を具体的にどのように行えばいいかよくわからないという広告主様や広告代理店様もまだまだいらっしゃると思うので、当社が持つ管理ツールをオープン化していくという取組も進めていきたいと思います。
横山氏:デジタル広告は、市場の急速な拡大や生成AI等の技術革新による影響が大きく、またその関係主体が非常に多く、商流が複雑です。デジタル広告に係る課題への対処には、多様な主体の参画・協力・連携が不可欠と考えており、それぞれの業界団体の皆様との連携が非常に重要です。
特に本ガイダンスにつきましては、デジタル広告市場の動向等も踏まえ、適宜見直しを行うことが重要と考えており、引き続き業界団体等とも連携しながら進めていきたいと考えています。
―生成AI技術を活用した不正は増えつつあるのでしょうか。
山田氏:既に多く発生していますし、今後はさらに劇的に増えていくと見込んでいます。そもそも当社が配信面の管理をブロックリスト方式からセーフリスト方式に切り替えたのは、極端に多くのクリックやコンバージョンが発生していたサイトを発見したことがきっかけでした。よく見ると機械的に作られた意味不明なドメインで、かつゲームのアイコンだけが並んでいるようなサイトでした。AIによるブラウザ操作を通じて広告主側のサイト上でコンバージョンを発生させていることが考えられたので、正体不明のサイトは最初から除外すべきと考えたのです。
今後は一般的なユーザーの端末上で、不正目的ではなく例えば業務効率化のために人間がAIを動かしてウェブ上フォームから申し込みを行うといったことが増えてくると見込んでいます。当社は既にユーザーの端末からではないアクセスは遮断していますが、実在するユーザーの端末をAIが操作した際にいかに不正を見極めるかについてはさらなる研究開発が必要だと感じています。
このままでは産業自体がなくなる
―広告配信面の管理をあまりに強化すると、複数の媒体やアドネットワークを横断して第三者配信を行うDSPの利点が損なわれてしまうのではないでしょうか。
山田氏:当社は DSP 事業者ではあるものの、当社及び外部の計測ツールの連携を含めて媒体社とも直接的なやり取りを既に行っています。媒体側の支援も行いつつ、配信先の目利きをしっかりと行うことが、DSPには今求められていると思います。
―広告品質の管理を強化した結果として、広告の配信量が減り、広告会社やアドテクノロジー企業が得ることができる広告収入が減ってしまう可能性はないですか。
山田氏:少なくとも当社はこれまで率先して広告品質の管理を行ってきた結果、事業としては成長しているので、品質管理を強化することが即座に広告配信の量や広告収入を減らしてしまうことにつながるわけではないと考えています。
そもそも品質を犠牲にして得た広告収入を維持する正当性がないですし、広告が本当に嫌われてしまったら産業自体がなくなるという危機感をもっと持つべきです。また別に広告費自体が消失するわけではないので、広告配信環境を健全化することで得られる収益も多くあるのではないでしょうか。
―アドテク企業に対して業界健全化のためにどのような役割を期待しますか。
横山氏:運用型広告が日本のインターネット広告媒体費の約9割を占めることを考えると、アドテクノロジーを持つ民間企業が、業界健全化のために重要な役割を担っていることは明白です。
一口に「アドテクノロジー」と言っても役割や特徴は様々ですが、成長市場であるデジタル広告が、これから先も利用者にとって信頼され続けるためには、市場の基盤を支えるアドテクノロジーを持つ企業には責任ある取組が求められると考えます。
山田氏:業界が一体となっての取組を進めていく必要があると感じる一方で、一般論として、不正や詐欺を働く人たちは業界団体とは連携しません。景品表示法や薬機法が施行された際にこれらの法律が対象とする悪質な広告が一気に減ったことから、ブランド毀損やアドフラウドを助長するような考えや商習慣を根本的に是正するには、同様の法律が必要なのかもしれません。
横山氏:広告品質基準を引き上げようという責任感を前面に出すUNICORN様の存在は非常に心強いです。こうした企業を増やしていくための取組を総務省としても引き続き行っていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 共同編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。ExchangeWire主催の大型イベントであるATS Tokyoのモデレーターも務めている。







