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Outbrain Japanのトップが語る、日本のデジタル広告市場の市況と今後の成長への道筋[インタビュー]

コロナ禍やウクライナ危機、そして円安の進行など、社会経済の環境が大きく変動する中で、デジタル広告業界は足下でどのような動向をたどっているのか。
今年10月にOutbrain Japanの代表職となるジェネラルマネージャーに就任した益田敦司氏に、お話を伺った。

(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)

 

-簡単にご経歴をご紹介お願いいたします。
Outbrainには2018年9月に入社して、2022年9月まではパブリッシャー部門の責任者をしておりました。
それ以前は、2014年2月からMicrosoftのアドバタイジング部門でパブリッシャー側の仕事を、その後広告事業がVerizonグループに移管され、AOLや社名変更したOathにおりました。それまでは約14年ほど、大手日系企業などにてデジタル広告周りの事業に携わっておりました。

 

経済環境とクッキーレスが及ぼすデジタル広告市場への影響

-デジタル広告市場の市況感についてお聞かせください
2022年はデジタル広告業界は絶好調という感じではないかな、と思っています。2020年に新型コロナウイルス感染拡大による大きな落ち込みがあり、その後2021年後半以降は一旦景気が回復してきた感覚を、皆さん感じていたと思います。そして2022年1-3月期までは各社好調でしたが、2月にウクライナ侵攻が発生して以降、自動車や製造業各社の広告費に影響が出始めたとお聞きしています。

デジタル広告市場は、経済環境の影響を受けて決して市場がマイナスになったというわけではなく、伸びきらないというのがここ半年から9か月間のイメージです。

経済環境のほかに、もう一つ業界に影を落としているのが、クッキーレスに関連する動向です。Googleは今年7月にサードパーティ・クッキーのサポート停止の実施について、2年間の延長を発表しました。これによりChromeブラウザにおけるクッキーレスの開始までは2年間の猶予が出来たわけですが、実際にクッキーレスは大きく進行しています。日本のデジタル広告市場におけるモバイルの比率はすでに全体の7割から8割。かつ日本においては半分以上がiPhoneであるという環境です。Googleの動向に関わらず、クッキーレスは進行しており、市場に影響を及ぼしているのです。

私たちのビジネスは、サードパーティ・クッキーに大きく依存しているというわけではありませんので、影響は比較的軽微ですが、これまでサードパーティ・クッキーに依存をしてきた広告ネットワークは影響を受けており、一部のメディアでは広告単価が従来の1/3程度の水準にまで下がったというようなケースもしばしばお聞ききしています。
広告主の中で、全国旅行支援がこの秋に展開されていた旅行業界などでは、紙媒体は比較的恩恵を受けたという話を聞くものの、デジタル広告はあまり恩恵を受けていないという印象です。外出自粛が解かれて、人々がみな旅行に行きたがっている現状においては、あまりプロモーションを打たなくても人が動く状態にある、というのが現実なのかもしれませんね。

一方で、今デジタル広告の出稿が増えているのは、コロナ禍でネットでモノを購入することが定着したEコマース、そして人材系企業です。世の中が総じて人材不足になり、人を欲している業種・業態が多いということなのでしょう。
そして、当社の大手顧客層である自動車メーカー様などは、車両供給の問題がある事を考慮すると堅調に推移しているといえると思います。

私たちが提供するレコメンデーション型のネイティブ広告(以降ネイティブ広告)は、デジタル広告費の中のディスプレイ広告の一部として位置づけられております。ネイティブ広告の景況は、この領域の需要動向と連動しています。現在の市場規模は、正確には定かではないものの、数百億円規模であると推測されており、日本のデジタル広告市場と連動して、堅調な成長を続けています。

 

量的な成長から質的な成長へ

-Outbrainの事業の現状についてもお聞かせください
日本のビジネスは現状堅調に推移しています。ただ、当社のような外資系企業では多く見られると思いますが、年間目標をドルベースで設定されているので、円安の進行によりドルベースでみると日本における実質的な成長が目減りして見えてしまい、見方によっては売上の成長が鈍化しているように見えてしまっているというのも事実です。

-海外と日本との市場の違いについて何か感じられることはありますか?
ネイティブ広告の使われ方については、北米と、欧州・日本とで違いがあります。北米においてネイティブ広告は主にパフォーマンスマーケティングを目的として使われています。
欧州・日本においては、ブランド広告主がメッセージを正しく伝えるというような目的で使うケースが多く、自動車メーカー様のようなブランド広告主が一定以上の割合を占めています。
日本においても、最近出稿を増やされている外資系BtoB事業者様においては、パフォーマンスマーケティングを中心とされているケースもあります。

もう一つ日本と海外との違いについて挙げるとすると、日本を含む東アジアのメディアは、1ページ当たりの広告枠数が多い傾向がみられるという特徴があります。
これにより、日本と欧米それぞれのメディア収益を比べると、日本のRPMの水準は海外と比べると低い傾向にあり、概ね1/3程度であるといわれています。これは1ページ当たりの広告枠の数が3倍以上あるということの所以です。

-媒体社側の導入状況についてお聞かせください。媒体社へのネイティブ広告は、ほぼ導入がなされた状況であるという認識で間違いないでしょうか?
そうですね、概ね各パブリッシャー様でネイティブ広告は採用頂いていると思います。今後は、これまでがシンプルな収益化や内部回遊の為の手法としてネイティブをご利用頂いていたとすると、そこからもう一段階高いレベルに向けて、媒体社各社の課題やニーズに合わせて、ネイティブ広告プラットフォーマーのソリューションが選択されていくフェーズになっていくと思っています。例えば、サブスクリプションモデルで提供してきたコンテンツプロバイダーなどが、新たに広告モデルを開始するなどのケースなどが考えられます。

 

テクノロジーの進化、クッキーレスソリューション、ビデオが成長への道筋

-ネイティブ広告の今後の成長要因についてお聞かせください。
今後デジタル広告市場の成長を促進していくのは、テクノロジーの進化と、クッキーレスソリューションであると考えております。Outbrainでは、サードパーティ・クッキーを全く使用していないということはないのですが、クッキーに依存することなくパフォーマンスを出すことが出来るのです。

-逆に、成長のボトルネックはどのようなことでしょうか?
日本の市場においては、全PV数については上限に近づいているか、達しているという感覚があります。したがって、モバイルとPCとの間、あるいはメディア間でPVを取り合いしてしまっているという状況にあります。そして、単なる量的な争いにおけるビジネスの拡大は、日本という市場においてはなかなか難しくなってきています。

ですが、逆にそのような環境下は本来我々が得意な領域であり、ユーザーに色々なコンテンツを見ていただくなかで、量を増やしていくということもできますし、精度の高いレコメンドにより広告効果を高めていくということもOutbrainが取り組むべきこと。そのようなことで、メディアのビジネス課題を解決していく必要があると考えております。

もう一つは、ネイティブ広告が、広告の中でもお行儀が悪いといわれることがあるということについてです。
私たち自身は広告審査をしっかりとやっているという自負もあるのですが、やはり皆でコンテンツレコメンデーションの領域がユーザーにとって有益なものであり続けない限りは、そのうち誰にも見られなくなってしまいます。このことは、最大のボトルネックです。

-今後の注力領域について
広告フォーマットのパターンを広げていき、広告表現の種類を広げていくという点に、引き続き取り組んでまいります。

これまでは「静止画+テキスト」の比率が高かったのですが、ビデオを導入したり、カルーセル型で記事を見せるようなソリューションを展開していきたいと考えております。
引き続き、単に広告としてのみではなくレコメンドサービスとしてユーザーに価値を届けるという点を強化しながら、選択肢を拡げていきたいと考えております。

そして、他社のプラットフォームとの連携により、Outbrainのソリューションをお客様により効果的にお使いいただく、といったことにも取り組んでいきたいと考えております。
これまでOutbrainは、CPC課金での広告配信を主なサービスとして提供してまいりましたが、その先のコンバージョンをゴールに設定した取り組みや、エンゲージメントの指標をもとに最適化を図るというような手法も、他のソリューションベンダーのテクノロジーを活用して実施するなど既に開始しており、順次アップデートを行っております。

今後提供を予定しているビデオソリューションでは、単にビデオ広告枠を作ろうとしているのではなく、ビデオコンテンツと広告とをセットでメディアにご提供するようなサービスを考えております。ビデオをやりたいのだけれども、なかなかビデオのインベントリーを作るのは大変です。
コンテンツレコメンデーション事業者としては、やはりビデオもユーザーのためになってほしいと考えており、ビデオコンテンツ事業をお持ちの方から、ビデオを仕入れて、ビデオコンテンツを持っていない会社に提供し、そこに広告を入れてもらうというビジネスモデルを展開しようとしております。

そうすると広告主にとっては新しいビデオインベントリーが生まれてユーザーと出会える機会が増えます。メディアからすると、新しい広告枠が増えて売り上げが増えます。ビデオコンテンツホルダーにとってはマネタイズの機会を提供することが出来ます。もともとスイスに本社のあるVideo Intelligenceという会社のソリューションをOutbrainが2022年1月に買収しました。日本人でも見ただけで面白さがわかる海外で流行しているコンテンツを皮切りに、流通させていければと考えております。そしてゆくゆくは、日本の地域メディアなどのコンテンツも手掛けるなど、1次コンテンツを作っている方に、新しいビジネス機会が生まれたらいいなと考えております。

このようにネイティブ広告は日々進化しており、今後も堅調な成長が期待されております。ぜひご注目頂けますと幸いです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長   慶応義塾大学経済学部卒。 外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。 2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。 2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。