スナックでも“ぜんぶ議論しよう” ー白船到来!? AIエージェントで広告業界はどう変わる?ー

グラス越し AIかたりて 白き舟
ExchangeWireJAPAN読者にはおなじみの対談企画、「全部議論しよう」・・・だが今回は少し様子が違う。今回の会場は、スナックだ。ただし場所は恵比寿のままだ。東口から西口に移動したくらいのちょっとした変化だ。ただし改札口を出てからの距離は、今回のほうが近い。
このように、変わったような変わっていないような新企画として始まった、「スナックでも“ぜんぶ議論しよう”」。レギュラー対談者の一人に、あの、アタラ株式会社 代表取締役 CEO 杉原 剛氏をお招きした。ちなみに、もう一人のレギュラー出演者は、いつものあの方だ。そして、今回栄えあるゲスト第一弾として、あの、株式会社Shirofune 代表取締役 菊池 満長氏をお迎えし、AIエージェントをテーマに、議論が交わされた。
対談者
- 菊池 満長(株式会社Shirofune 代表取締役)(写真 左)
- 杉原 剛(アタラ株式会社 代表取締役CEO)(写真 右)
- 池田 寛(スナック「支えあい」代表)(写真 中央)
※取材協力:スナック 支えあい(東京 恵比寿)
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之)
新シリーズ!?スナックでも“ぜんぶ議論しよう”
池田氏:どうも皆さん、こんばんは。今回からいつもは「居酒屋」でやっている“ぜんぶ議論しよう”の「スナック」版が新シリーズとして勝手に始まります。
新シリーズを始める理由としては、前々回の、当時Moloco社のTシャツを来て、現在オランダでハッスルしている方や、前回のどう見ても誰かわかるだろうって方など、本来、顔を出せない何らかの事情がある方をゲストとしてお呼びする趣旨が完全にバグり始めたのがきっかけです。
もちろん、趣旨にあったゲストを覆面にしてしまう「居酒屋」シリーズも不定期でやる予定なのでご期待ください。というわけで、新シリーズ第一弾のテーマは「白船到来!? AIエージェントで広告業界はどう変わる?」です。おそらく、この記事を読んでらっしゃる方は何らかの形でChatGPTをはじめとしたAIをフル活用している方が多いのではないでしょうか?
数年前の名前だけ「AI」が踊る時代から、仕事の実務レベルで欠かせない存在まで一気に昇華してしまったAIですが、これから広告業界はどう変わっていくのでしょうか?そんなワクワク、ドキドキなテーマを一緒に楽しみたいと思っています。
いつものように自己紹介から始めますね。まずは、あらためて私からですが、Globalive(Pivot)社に所属し、自分でもLeave it to meという会社をやっている池田 寛です。
本業はアドテク、マーケテックのソリューションを提供する海外企業の日本市場進出を支援する仕事をやっています。
最近は、まさにこの場所ですが、恵比寿にスナック「支えあい」をオープンさせたので、夜の飲食業界の人だと思われていますが、ちゃんとお昼の広告業界の仕事がメインでございます。このシリーズではスナック「支えあい」の人としてがんばろうと思っています。笑
次にスナックシリーズのレギュラーとして勝手にアサインされ、前回の居酒屋対談で「どう見てもわかるだろう」って方としてもご活躍されている(笑)、アタラの杉原 剛さんです。
業界では「剛さん、剛さん」と親しみを持って呼ばれていて、海外のアドテク、マーケテックのトレンドをいち早く我々に提供してくれる大重鎮ですが、いつものように剛さんと呼ばせてもらいますね。では、剛さんお願いします。
あ、忘れてた。とりあえず、乾杯です!
杉原 剛氏:はーい、よろしくお願いいたします。ではかんぱーい!
池田氏:短っ!!笑。さすが海外アドテク、マーケテックの"人間ポータル”です。多くを語らずとも自己紹介が完結してしまうのですね!今回のAIエージェントのテーマでも全ての知見を惜しみなく提供してくださいね。
次は、第一回目の栄えあるゲスト、Shirofuneの菊池 満長さんです。
彼は広告主や広告代理店の方々が日々行っている広告運用を自動化するツール「Shirofune」を提供している会社の代表で、まさにこのテーマにピッタリな逸材です。
普段はみんなから下の名前「満長」の"音読み”で呼ばれていますが、このご時世なので本文では「菊池さん」で記載させていただきますね(爆)。
あと、タイトルに「黒船」ではなく「白船」としている理由は、実は彼らの「Shirofune」は日本だけでなく、世界でも大当たりしつつあるソリューションなんです。
つまり、日本から世界へ飛び出す白船として、輝けるニッポンの星でもあったりするんですよね。では、「菊池さん」、その辺を含めて自己紹介をお願いします。
菊池氏:新卒でインターネット広告代理店に入社しまして、ずっと広告運用そのものや組織・システムづくりをやってきました。
10年ちょっと前に「プロの広告運用をアルゴリズムで再現する」ことを目指してShirofuneというSaaS企業を立ち上げまして、そこから日々アルゴリズムの改善をずっと行ってきています。
おかげさまで日本で9割以上のシェアが取れ、今海外展開をゴリゴリやっています。当初はいろいろ苦労しましたが、先日USで大きな賞を受賞させて頂いたり、ようやく売上がグッと伸びてきまして日々エキサイティングに過ごしております。
そもそも「AIエージェント」ってなに?

池田氏:さて、本題にいきましょう。そもそも「AIエージェント」って何ですか?
杉原 剛氏:まず名称としてグローバルでは「AIエージェント」とか「エージェンティックAI」とか呼ばれています。
池田氏:ヤバいですね。いきなり読者がこの記事を読むのをやめてしまいそうです。「エージェンティックAI」??
杉原 剛氏:(ここがスナックにもかかわらず、ノートPCを出してハイボールを片手に熱弁を振るいだす...)
一応、言葉の定義として、「AIエージェント」は、ある目的を達成するためにタスクを遂行するAIプログラムやシステムを言います。
それに対して、「エージェンティックAI」は自立的に目標を設定・遂行する能力を持つ高度なAIで、単なるタスク遂行にとどまらず、自らサブタスクを分解し、他のAIやツールと連携しながら継続的に行動するものを言うのが一般的です。
ですが、日本では総称して「AIエージェント」と呼んでいる状況になっています。簡単に言っちゃうと、人の手を借りずに複数の作業を自動でこなすAIのことだと僕は説明しています。

資料提供:杉原 剛氏
菊池氏:そうそう、複数の作業っていうのが一つのポイントですよね。単タスクだったら別にそれってエージェント要素があんまないというか、そういうコンポーネントがいくつか合わさってはじめて、AIエージェントぽさがでてくるのだと思います。
杉原 剛氏:(どうやら、ハイボールとノートPCのコラボはもう止まらない...)
もう少し細かく言うと、中身って3つのコンポーネントに分かれていて、1つ目の「推論」するところは通常のLLM(大規模言語モデル)と同じなんですよ。
ChatGPTとか、GeminiとかAnthropicとかを裏側で選べるようになってるのがほとんどなんですが、使い方が異なるんです。普通のLLMの使い方だとLLMに問いかけるのは人間です。
それに対してAIエージェントは、フロントに問いかけるのは人間だったりするものの、AIエージェントがやらないといけないタスクによって、そのタスクを自分で分解して、AIエージェントが自らLLMに投げるんです。そして、次の2つのコンポーネントが通常のLLMとはわかりやすく異なる部分です。
2つ目は、過去の会話やタスクの履歴とかユーザーの好みや意図などを記憶することができて、文脈を継続的に理解できることです。
記憶させておかないと、何か分析する度にこのデータベースのスキームがこうだから、ああだからって毎回学習させるのは企業ユースではとても非効率です。ここがまず違います。
そして3つ目は、外部のデータベースやツールと連携し、必要なデータを取得したり施策を自動的に実行することです。
例えば、Google広告から必要なデータを取ってきて、それを分析して自分で考えて最適解を見つけ出す動きです。そこに人間がちゃんと許可を与えていれば、API経由でGoogle広告も実行させることができます。
この3つをもって「AIエージェント」と呼びます。あたかも裏側で複数人が考えて実行してるような状況を作り出すことができるからこそ「代理人=エージェント」ということです。
わかりやすいでしょ?

資料提供:杉原 剛氏
菊池氏:わかりやすいですね。(おそらく彼には本当にわかりやすいのだと推察される)
池田氏:わかりやすいですね...。(焼酎を一気に飲み干す)
なんとなくですが、「AIエージェント」の定義的なことは理解できた気がしたり、しなかったりしていますが、具体的な話でいうと、いったい何ができるのでしょうか?
杉原 剛氏:(待ってましたとばかりに、ハイボールをおかわりしながら次のスライドに突入する)

資料提供:杉原 剛氏
今年の2月にあるカンファレンスでニュートンリサーチという会社に出会うことができたのですが、米国東海岸にあるベンチャーで、マーケティング特化型のAIエージェント「ニュートン」を開発している会社です。
彼らのソリューションは、大きく分けると、広告主向けのエージェント、代理店向けのエージェント、そして、パブリッシャー向けと、それぞれのAIエージェントを展開しています。
例えば、この絵は広告主向けのエージェントなのですが、全体をコントロールする「全体総合エージェント」がいて、その配下にメディアプランニングのエージェント、施策実行やキャンペーンを最適化するエージェント、そして効果測定をするエージェントなど、業務に特化したエージェントに分かれているんです。
彼らのソリューションに限らず、AIエージェントは大抵こういう構成になっているのですが、「全体総合エージェント」に人間が目標を与えると、それに合うような色んなデータを取ってきて、配下の業務に特化したエージェントが自律的に会話を始めて業務を遂行してしまうんです。
すごいでしょ?
池田氏:すご!(スナックにノートPCを持ち込んでいるという意味も含まれる)
つまり、人間はこの全体総合エージェントと会話しとけばいいってことですよね?クリエイティブ制作など、広告運用に関わることは全てやってもらえるってことですよね?しかも人間より上手に?
杉原 剛氏:そうそう。勝手にやってくれて、アウトプットを出してくれる。全てが連携してつながっているので、施策を実行させたかったら、都度都度人間に実行可否を聞くこともできるのだけど、「これでいいよ、実行して」と人間がGOをかけると、自動的に全部やってくれます。実際にデモを見たんだけど、色んなテンプレも用意されてて、学習も進んでいる感じでした。これが既に現実の世界で採用され始めているのです。
正直、衝撃的でしたよ。
池田氏:ギャー!!(とりあえず叫ぶ)
杉原 剛氏:彼らが言う「中堅以上の知識・経験を持ったストラテジスト、メディアプランナー、アナリティクス担当、データサイエンティスト担当を一挙に獲得するのと同等」というのも納得でした。
ただ、裏側は普通のLLMだから精度は90%ぐらいかな、と。残りの10%は、AIの嘘などのハルシネーションを調べたりする部分は人間が担保しなきゃいけません。
そういう意味ではまだ人間介在型ではあるんだけど、かなり工数は削減できてしまうんです。
菊池氏:私はLLMの最大のメリットはやはり汎用性と柔軟性にあると感じています。業務への適用範囲が非常に広くて、適度にカスタマイズすればかなり多くの領域にフィットしていきます。
ですから、構造としては確かにあらゆるオペレーションに適用できるとは思います。ただ一方で、剛さんが精度が90%くらいと言うように、やはり「揺らぎがある」とか、「完全にコントロールできない」という課題も明確に存在しています。
そうなると、現場での使いどころにはやはり優先順位があると思っています。具体的に言うと、LLMは「間違っても致命的ではない仕事」から浸透していくと思います。
たとえば、Google広告の日予算管理なんかは、いくら自動化が進んでいても、未だに人の手が介在している領域で、「間違ったら終わり」なんですよ。実際に予算を大きく超えてしまえば、最悪の場合、クライアントから補填を求められる可能性もあります。だから、ここに揺らぎのあるAIを使うのは、まだ現実的ではありません。
池田氏:たしかに。90%の精度だとすると、予算が100万円で10万円は失敗して無駄になりますが、90万円はちゃんと正しく使いますねって言ったらブン殴られますね(笑)。
菊池氏:そうなんです。一方で、分析コメントの生成や、メディアプランニングの初期の提案といった業務は、たとえLLMがちょっと的外れなことを言っても、大きな問題になりにくいですよね。
厳密には正解を誰も知らないですし、「あれ?ちょっと違うな」くらいで済んでしまう。たとえば、あるキャンペーンに対して「この施策はリーチ拡大に貢献しました」とLLMがコメントするとします。
実際にはそうでもなかったとしても、それを見た社内担当者が「うーん、微妙だけどまあ使えるか」と判断する。そのレベルであれば、人間が補正しながら使えば業務が前に進むんですよ。
メディアプランニングも似ています。「Googleに40万円、Metaに60万円」という数字が仮に少しずれていたとしても、「これは初期案だから」と割り切れます。
逆に、細かすぎる最適化や金額調整をAIが勝手にやってしまうと、怖い領域にもなり得ます。私はこうした導入の進み方を“地層構造”のようなものと捉えています。
「間違っても致命的でない業務」→「多少のミスは許容される業務」→「絶対にミスしてはいけない業務」という順に、LLMは少しずつ奥へと入り込んでいくはずです。
そして、最初に導入された“間違っても大丈夫な領域”で使われ続ける中で、少しずつ精度が上がっていく。これがLLM浸透の自然な流れだと思っています。
だから我々としては、いきなりすべての業務をAIに任せるのではなく、「AIが得意なところ」から積極的に使っていき、徐々にスコープを広げる戦略が現実的だと考えています。
池田氏:なるほどですね。もっと具体的にどんな業務が楽になるか教えてもらえると、僕みたいな素人は救われるのですが...。
杉原 剛氏:たとえば毎月の広告レポート作成。代理店の担当者からすれば、数字は取れてもその「考察コメントを入れる作業」が手間で、後回しになりがちだったりします。
そこにAIが加われば、分析+示唆出しまで自動化できてしまう。今って、たとえば広告の分析コメントを出すにしても、ただ「ここが良かった」「ここが悪かった」という指摘に留まりがちです。
でも本当に必要なのは、「では次にどうすればいいのか」という“提案”なんですよね。AIをが加わることで「これはどういう意味合いの動きなのか?」、「次に何をするべきなのか?」まで一連で示してくれるようになります。
また、「現在のキャンペーン内でパフォーマンスが悪いキーワードを自動でオフにする」といった処理も実現できます。
さらに、「除外設定が必要な検索語句を自動で抽出し、除外リストを生成して実装する」といったタスクも、AIで完結できます。
広告主、代理店サイドの仕事を例に挙げましたが、パブリッシャー側の業務やデータ活用においても同様で、今まで「人間が頑張ってやっていた細かい作業」を、AIがほとんど肩代わりできるようになってきています。
しかも、それは単なる効率化ではなくて、属人性を減らすという意味でも大きな意味があるんです。
池田氏:素晴らしい。皆さんの仕事がすぐに終わって、早めにスナックに飲みにこれますね。営業開始時間を変更しようかな(笑)。
ワクワク派?それともドキドキ派?

池田氏:これ、AIエージェントが活躍すればするほど、どんどん人がいらなくなりますよね?私ゴトキですら、もうほとんどの仕事でChatGPTを使いまくっているんですよ。
海外の輩とのテキストのやり取りは完全にChatGPTですし、この対談企画のアジェンダだってChatGPTが考えてくれました。本当にここ半年、1年でドラスティックに仕事の仕方が変わりました。
AIエージェントの分野もあと2、3年で変わっていくとか、悠長な話ではない気がしています。とはいえ、日本の場合は、法律的に海外企業のように簡単にレイオフできるわけではないですし、企業風土的にもAIに全部任せてドラスティックな配置転換をするのにも時間がかかりそうな気がします。
逆にそれがAI普及のハードルになってしまう一面もあるかもしれません。そんな中、マーケターの方々の心境やいかに?ワクワクなんでしょうか?それともドキドキして眠れない夜を過ごしているのでしょうか?
杉原 剛氏:海外の事例になるのだけど、グローバルの広告代理店は相当焦っていますし、実際に動きも早いですね。例えば、WPPは既に業務全体で28,000ものAIエージェントを展開しているという記事を読まれた方も多いのではないでしょうか?(おそらく少ないと思われる...)
先ほどご紹介したニュートンリサーチのニュートンもPublicisに採用されることが決定しています。焦っている理由として2つあって、1つは海外の場合は先ほどの日本企業と違い、容赦なく人を減らすことができます。つまり、広告主はその気になれば、すぐにでも完全インハウス化を進めることができてしまうのです。
2つ目は、最終的には広告主というか事業主のデータはAIエージェントに対して継続学習をさせなきゃいけないんですよ。
そうなったときに、ファーストパーティデータは機密情報であるが故にアウトソースさせづらいわけなんです。となると、インハウス化する道を選ぶ可能性が高いということなんです。
そのデータを代理店が預かれるかどうかではあるのですが、相当焦ってますね。彼らは代理店の存続の危機だと言ってますし。
池田氏:日本の広告代理店はどうですか?
杉原 剛氏:日本に限らない話になりますが、大きな課題は「代理店の役割が根本から問われる」ということです。
これまで多くの代理店は「全部任せてください」というモデルで仕事をしてきました。広告主にノウハウを開示せず、すべての運用を自分たちで抱え込む。
もし知見を教えてしまったら、広告主が自分で運用してしまい、契約が離れていくのではないか――そう考えてきたんです。その結果、「伴走しながら教える」モデルにはなかなか転換できなかった。
つまり広告主に寄り添い、自立を支援する形には踏み出せなかったという背景がまずあります。
そして、今の流れからすると企業が今まで以上に自社運用にシフトしていくのは間違いない。代理店にとっては、これまでの「任せてもらう」だけのモデルが通用しなくなる、非常に大きな変化です。
池田氏:ヤバいですね(ヒトゴト)。今後どんな転換を迫られるのでしょうか。
杉原 剛氏:一言で言えば「教えながら伴走できる存在」になれるかどうかです。AIエージェントの登場によって、広告主が自ら手を動かすことは容易になっていきます。その中で代理店は、データや運用を独占するのではなく、広告主がどうAIを活用し、成果を最大化するかを支援する立場へと進化しなければならない。これまでの「やっておきます」モデルから、「一緒にやりましょう」モデルへの移行。これこそが、AIエージェント時代に代理店が生き残るために避けられない課題だと思います。
池田氏:あれ、そういえば、剛さんってアタラ社の人ですよね?自社の今後のビジネスをどう捉えていらっしゃるんですか?ワクワクしてますか?ドキドキしてますか?
菊池氏:池田さん、とっても良い質問ですね。(既に顔が赤い)
杉原 剛氏:前提として、僕らは広告代理店ではありません(キリッ)。僕らはコンサルティング会社です(キリッ✕2)。
施策実行における体制構築の支援や、各種トレーニングを主体にしたビジネス展開をしているので、これからAIエージェントが普及し始めたとしても、そのニーズは変わらないというか、むしろAIエージェントを上手く使いこなしてもらうためにそのニーズは増していくと考えています。つまり、ワクワクしています。(ここで濃いめのハイボールをおかわりする)
池田氏:大変失礼しました。菊池さん、君も謝りなさい。
菊池氏:剛さん、ごめんなさい。
池田氏:そんな中で、菊池さん、AIエージェントによって業界が一気に様変わりしそうな感じですが、君はいったい何をやっているの?当然、ワクワクしてる人だと思っているのだけど。
「Shirofune」とはいったい?

菊池氏:僕はワクワクもドキドキもしています。でも、どちらかというと「ドキドキ」に近いです。僕らが今提供している「Shirofune」は、実はAIエージェントではないんです。
池田氏:AIエージェントじゃなかったんかーい!。
いちおう、大きめのリアクションをしておきます。
菊池氏:そうなんです。僕らはいわゆる「部分的に任せられるソリューション」を提供しているんです。タスクを一部自動化して人間の業務を肩代わりする。そういうソフトウェアを構成しています。
10年前に作り始めた頃から、自律的に判断するわけではありません。例えば、ユーザーが「この予算で、このパフォーマンスを達成してほしい」と入力すれば、その範囲で予算を守りながら、必要な成果を人間と同等かそれ以上の精度で実現する。そういう仕組みです。AIというと今は大きなブームになっていますが、僕らにとって最初の大きな波はディープラーニングの登場でした。アルファ碁が出てきた2015年前後の頃ですね。それまで「人間の方がうまくやれる」とされていた確率計算の領域をAIが凌駕した。あれは広告運用においても衝撃でした。
GoogleやMetaが高度な入札調整を無料で自動化するようになったとき、従来のサードパーティ製ソフトの多くは価値を失いました。でも、僕らは生き残った。なぜかというと、結局は「成果を出す責任」を担う管理者が必要だからです。GoogleやMetaがどれだけ自動化しても、予算を預かり、顧客の目標を達成するために調整する業務は残る。その部分を僕らは自動化してきました。
池田氏:そこにAIという大波がやってくるんですね。たしかに、今がAIを使ってないとすると、その波にさらわれてしまうかも?って「ドキドキ」してるんですか?
菊池氏:まさに。今回のAIエージェントの進化は、僕らにとって第2の大きな波です。Generative AIが登場し、「目標を入力すればすべて自動でやってくれる」世界が見えてきた。これは僕らにとってチャンスというよりは危機感の方が強いですね。なぜなら、これまで数万時間かけて作り上げた自動化アルゴリズムが、AIエージェントに置き換わってしまう可能性があるからです。
池田氏:とはいえ、さっきの話だとAIの精度は100%ではないので、ある意味限界がありそうな気がします。
菊池氏:そうなんです。先ほどの話にもありましたが、例えば「精度90%」と聞くとすごいと思うかもしれません。でも、1万件の案件を任せたら1000件は失敗するということ。予算管理や広告運用の世界では、それでは任せられない。99%でも全然足りなくて、通信キャリアのサービスレベルのような表現で言えば「シックスナイン(99.9999%)」が求められる世界なんです。(何故か場がざわつく)
LLMは柔軟性があり、大雑把な依頼にも答えられる革命的な技術です。
ただし自律性が高いがゆえに「揺らぎ」がある。聞くタイミングや質問の仕方で答えが変わるし、100%の正確性は担保できません。
これは進化で解決できる性質ではなく、技術の特性そのものなんです。僕らが常にやってきたのは「人間の業務を同じ精度か、それ以上で自動化すること」です。
人間がやっていることが残る限り、それをプログラムで再現し続けられる。逆に言えば、人間の業務が完全になくなれば僕らの役割もなくなる。
だから重要なのは、AIが得意な領域と不得意な領域を見極めること。どこまでをAIに任せ、どこからを僕らが引き取って成果物として仕上げるのか。その線引きをするのが今のフェーズだと思っています。
AIは確実に生活も仕事も変えていきます。ただし万能ではないし、必ず限界がある。ディープラーニングが予算調整を消し去れなかったように、今回も人間の仕事は必ず残るはずです。僕らの使命は、その残った領域を見極め、自動化で支援していくこと。AIエージェントの波に怯えるだけではなく、どう組み合わせていくかが問われているのだと思います。
AIエージェント普及に向けた今後の課題
池田氏:いい感じでトークが盛り上がると同時に、いい感じで酔っ払ってきましたね。どうします?この辺でカラオケでも唄いますか?(シーン...)わかりました、もう少し続けましょう。とっても素晴らしい部分が多いAIエージェントですが、実際の普及に向けての課題などあったら教えて下さい。
杉原 剛氏:AIの精度の話はたくさんしているので、それ以外でいうと、2つあると思っています。1つ目はコストの課題です。AIは便利なんですが、実は「とてもお金がかかる」。
特にLLMは、処理するテキストを「トークン」という単位に分解して課金される仕組みになっています。自然言語の文章を形態素解析のように細かく区切って、そのトークン数に応じて料金が発生する。
だから、指示が長ければ長いほど、あるいは自律性が高ければ高いほど、AIはより多くの可能性を検討してトークンを消費するので、コストも処理時間も一気に膨らむんです。
実際、1処理あたり数千円から1万5千円ほどかかることもあり、月に数百万円のランニングコストになるケースも珍しくありません。開発費用ではなく継続的な利用料として発生するので、ベンダーもユーザー企業も相当な負担になります。
だから大切なのは「AIにどこまで任せるか」をきちんと設計することです。100のタスクを丸ごとAIに任せれば、コストと時間は跳ね上がる。逆にタスクを細かく分割し、AIにやらせる範囲を50に絞れば、コストを抑えつつ信頼性とコントロール性を確保できる。結局、AIを“万能の自動化装置”と見なすのではなく、“便利な関数”としてどこに活用するかを見極めることが非常に重要になってきます。
池田氏:たしかにコストの面は盲点でした。調子に乗って全部AIに任せてしまうと、めちゃくちゃお金かかりますね!
杉原 剛氏:そうなんです。そして、2つ目が、組織やガバナンスの面です。ここが特に日本企業にとって最大の課題だと思います。AIの導入は「技術」ではなく「組織設計」の問題なんです。DXのときと同じで、まず基盤となるデータ環境を整える必要があります。そしてAI推進部隊を立ち上げ、CEOや推進室長のようなリーダーが責任を持って推進する「全社プロジェクト」としての体制を作らなければならない。
さらに、ガバナンスが非常に重要です。AIは強力で便利だからこそ、自由に任せすぎると暴走するリスクがある。コスト管理もそうですし、倫理的なリスクもある。誰がどこまでAIに権限を与えるのか、どう責任を取るのか、明確なルールがなければ「便利だけど危険」という状況に陥ります。つまり、AI活用は「技術導入プロジェクト」ではなく「組織変革プロジェクト」なんです。データ、組織、人材配置、ガバナンス、すべてを揃えないと失敗してしまいます。
池田氏:なるほどぅ...簡単にはいかなそうな気がしますね。ただでさえ日本企業は簡単にレイオフできない課題もありますしね。それでまたグローバルに置いていかれてしまうのは残念すぎます。では、どのようにするのが良いのでしょうか?
杉原 剛氏:「どこまでAIに任せるかを設計し、ガバナンスの下で活用すること」です。そこを見誤るとコストが膨らみ、組織に混乱が生まれる。逆に設計と統制ができれば、AIは企業を飛躍的に強くします。AIエージェントの普及は避けられない流れです。ただ、それを「どう安全に、持続的に使うか」が本当の勝負だと思っています。
池田氏:これは、つまり、”コンサル会社”である剛さんの会社(アタラ社)に相談すべしってことですね!(爆)でも、今後の代理店の方を含めたマーケターの仕事のヒントになる話ですね。AIエージェントの仕組みを熟知して、無駄な使い方を指摘してあげたり、安心して推進できる環境構築のアドバイスをするとか、今までとは違った角度のノウハウが求められそうですね。
今後のShirofuneの展望
池田氏:そろそろ、最後の質問に移りたいと思います。このスナック対談の第一回目のゲストである菊池さんに今後のShirofuneの展望について、好きなだけ語ってもらいましょう。剛さん、いいですよね?
杉原 剛氏:もちろん。(既に酔っ払っている)
菊池氏:創業時から「ここで勝つ」と決めていたポイントが三つあります。
池田氏:あ、ガチでいく気ですね。どうぞ。(既に酔っ払っている)
菊池氏:ガチでいかせてくださよ。笑
1つ目は「横断性」です。Google、Metaなど、色んな広告プラットフォームが存在する中、各社ともそれだけを使えばそれなりに目的は達成できるプラットフォームです。それを我々が中立な立場で横断的に活用できるようにすることです。
2つ目は「シンプルさ」です。広告プラットフォームは多機能で複雑になりがちですが、Shirofuneは「成果を出すために本当に必要なものだけ」を提供してきました。複雑さを排し、誰でも簡単に使えることが強みです。
3つ目は「更に良いアルゴリズムを作ること」です。もともとはポートフォリオ理論のような数理計算を超えるアルゴリズムを作るところから始めました。ここはディープランニングやLLMの登場などもあり試行錯誤を続けながら、今もアップデートを続けています。
おかげさまでShirofuneは日本国内だと圧倒的にご利用いただいている存在になれておりまして、海外展開も順調と言っていいと思います。
特に海外のユーザーも広告運用においては、日本企業と全く同じ課題を持っており、日本よりもツールに任せる心理的なハードルが低いのか、テスト導入でしっかり結果が出ると、いきなり全面的な導入をしてくれるんです。
また、特に大手の代理店などはAIエージェントブームで生産性を倍増させよう、という機運になっているが、新興のAIエージェントソリューションが自動化をやりきれず、AIではなく安心して自動化できるShirofuneにお鉢が回ってくるという風の流れも感じています。
なので、本業は本業としてしっかりやっていくのですが、先ほどお話ししたこの三つの柱のうち、複数の媒体を「横断的に扱える」という部分で今のオープンインターネットの課題解決に貢献できるのではないか、と思っているんです。
池田氏:お!なんか良い話になりそう。今って、広告出稿といえば、Googleさん、Metaさんだったり完全にWalled Gardenに偏重した予算配分になっていて、いわゆるオープンインターネットのパブリッシャーさんに栄養が行き届いてないのです...そうなると、記事のクオリティも維持できなくなるし、収益を増やすための短期的な施策としてユーザビリティを犠牲にした広告フォーマットを追加したりして、ユーザーも離れていく。
まさに最悪の悪循環に陥ってます。このままでは、オープンインターネットのパブリッシャーさんが「絶滅危惧種」のような扱いになってしまいそうです...(もう一杯飲む。)
昔は広告主さんとパブリッシャーさんとの距離がもっと近かったと思うんです。
菊池氏:まさにそこです。「パブリッシャーと広告主をどうつなぐか」が鍵になると思っています。
いまの業界の構造では、海外のプラットフォーマーを中心に中間業者にかなり力が偏っていて、パブリッシャーが十分に収益を得られていない。その結果、良質なコンテンツが作れなくなり、国民が得られる情報の質も下がってしまう。これは社会課題です。
だからこそ僕らは、パブリッシャーが持つコンテンツの価値を広告主にダイレクトに届け、高いCPMで適正に買ってもらえる「新しい場」を作りたい。
そうすれば情報流通の歪みを解消できるし、オープンインターネットをもう少し健全に保つことができると考えています。
池田氏:最高!でも、「Shirofune」からすると、WalledGardenの媒体で十分効果を得られているツールなので、そこにオープンインターネットの媒体を加える手間は優先度的にありなのですか?AIの大波に対応することのほうが重要で、営利企業としてそれをやるのは難しくありませんか?
菊池氏:池さん、志ですよ!(キリッ✕10)。
確かに株式会社は株主の利益を最優先にしなければならない構造があり、長期的な取り組みは難しい。3カ月や1年で成果を出せなければ経営者は評価されません。
でも、僕らは外部株主を持っていません、だからこそ、長期的に価値があるものへの挑戦ができるんです。もちろん、その裏返しで短期的に利益をあげてフェラーリを買うみたいな道との戦いもあります。
オープンインターネットを絶滅危惧種にしてはいけないような気がしていて、僕はそのための新しいエコシステムが求められていると感じています。。
AIや自動化は確かにすごいですが、それだけでは解決できない課題がある。パブリッシャーと広告主が正しくつながる仕組みを整えなければ、生活者に届く情報の質が下がり、社会全体が貧しくなってしまう。そして社会の役に立つような仕組みであればビジネスとしてもしっかり成立するはずです。
池田氏:酔っ払っているせいか、涙腺がゆるんできました。来年あたりにフェラーリに乗ってないことを祈るばかりです。ぜひその挑戦に私たちも力になりたいです。ね、剛さん!

杉原 剛氏:よし!やろう!!
酌果てど 知の火は消えず 白き舟
この後も三者による語らいは続いたが、近い将来、この対談が、日本のオープンインターネット業界に大きなインパクトを与える新しい取り組みが進められるきっかけになるのかもしれない。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。




