デモCM制作のハードルをAIで下げる――TBSラジオ「デモCMジェネレーター」に見る音声広告の現在地【インタビュー】
by on 2026年9月08日 in ニュース

ワイヤレスイヤホンの普及や「ながら聴取」の広がりを背景に、ラジオやPodcastを活用した音声広告への関心が高まっている。株式会社TBSラジオは2026年6月23日、企業名や商品名を入力するだけで、AIが20秒の音声デモCMを生成する新機能「デモCMジェネレーター」の提供を開始した。
同機能は、音声広告の出稿経験がない企業や広告代理店に広告の仕上がりを短時間で体験してもらい、制作・出稿の最初のハードルを下げることを目的としている。
本稿では、同機能の開発背景と仕組み、デジタル音声広告市場の現在地、今後の展望について、同社 総合戦略局 デジタル戦略部長 原田 俊亮 氏(左)とデジタル戦略部 門田 歩 氏(右)に話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJAPAN 町田 貢輝)
営業現場の「作りたいけれど作れない」から生まれたツール
TBSラジオは2025年4月、月間再生数3,500万回超(*1)のTBS Podcastや、radikoアド、YouTube広告収入など、デジタル領域の収益拡大を担う専門部署としてデジタル戦略部を新設した。同部でインサイドセールスにも携わるのが、部長の原田俊亮氏と、営業企画を担当する門田歩氏である。
「デモCMジェネレーター」の発端は、社内向けのツールだったと原田氏は明かす。同社では20人弱の営業担当者がクライアントへの提案を担っており、「デモCMを作りたい」という要望が寄せられる一方で、CM制作に充てられる人的リソースは限られ、完成までに時間を要していた。
そこで、営業担当者が手元で20秒、40秒、掛け合いなど、複数パターンのデモCMを簡易に作成できる仕組みとして開発したのが始まりだったという。
また、セールス情報サイト「TBSラジオプロモーションガイド」に寄せられる広告主・広告会社からの問い合わせの多くが「音声素材を持っていない」「作ったことがない」という内容だった。そこで、まずはツールを幅広く体験してもらうことがリード獲得につながると判断し、外部向けに公開した。
門田氏は「最初のきっかけは、問い合わせが増えている一方で、実際に音声広告を出稿するまでにはハードルがあると感じたことです。デモCMを通じてそのハードルを下げ、さらに問い合わせにつなげたいと考えました」と狙いを語る。
原田氏は、デジタル系の広告代理店には「動画の制作ノウハウはあっても、音声はどう作ればよいのか分からない」という声が多いと話す。そのため、「デモCMジェネレーター」を活用してもらい、音声広告を検討する初期段階で悩む時間を減らすことも、大きな狙いだと説明する。
デモCMジェネレーターのHP画面
(*1)出典:TBSラジオプロモーションガイド公開情報(tbsrsales.jp)より
企業名を入れるだけで20秒のデモCMが完成
「デモCMジェネレーター」の使い方はシンプルだ。TBSラジオが運営する広告主・広告代理店向けの会員制ビジネスサイト「TBSラジオプロモーションガイド」に設けられた「デモCMジェネレーター」の生成画面で、企業名や商品名を入力し、ナレーションのトーンとBGMの雰囲気を選択して生成ボタンを押すと、約1分で20秒のデモCM音源が完成する。
生成画面はログインせずに操作できるが、生成音源を確認するには無料の会員登録が必要となる。デモCM素材は、月間20本まで無償で作成できる。
技術的には、コピーを生成するAIと、それを音声化するAIなど、複数のAIを裏側で組み合わせているという。企業名を入力するだけでも、生成AIがその企業や商品について調べたうえで、コピーの叩き台を作成する点が特徴だ。
取材当日、原田氏らはExchangeWire Japanを題材にデモCMを実演し、媒体名を入力しただけで、その特色を踏まえたナレーション原稿が短時間で仕上がる様子を見せた。
生成された音源には、他媒体での無断転用を防ぐための音声透かしが施されている。
原田氏によれば、これは無断利用そのものへの対策というよりも、使用しているBGMの権利処理上の理由が大きいという。TBSラジオが運営する媒体で使用する分については権利処理が済んでいる一方、他媒体で使用すると別途費用が発生するため、転用を防ぐ加工を施しているそうだ。
また、あくまで「デモ」と位置づけているのは、AIが生成する音声に、細かな発音やイントネーションの不自然さが残る場合があるためである。実際に広告として出稿する際には、改めて社内の広告審査(考査)を行い、必要に応じて発音やイントネーション、トーンを調整することができる。
広告主とTBSラジオの双方が内容に問題ないと判断した場合は、「デモCMジェネレーター」で生成した素材を、そのまま出稿用の広告素材として使用できることもあるという。
ExchangeWire Japanの文言だけで「デモCMジェネレーター」が作成した20秒デモCM
公開直後から反響大、想定外の使われ方も
提供開始から間もないものの、TBSラジオプロモーションガイドへの登録者は増加しており、デモCMをきっかけとした商談も始まっているという。当初は広告代理店による利用を主に想定していたが、実際には広告主が直接試すケースも多く、原田氏にとって想定外の反響だった。
さらに意外だったのが、生成AIに慣れたユーザーによる使い方だ。企業名を入力する欄に、あらかじめ用意した詳細な広告コピーをそのまま入力し、事実上のプロンプトとして活用するユーザーもいるという。
原田氏は「自分たちで作った広告コピーを、そのままビジネス用に使っているようだ」と明かしつつ、「TBSラジオへの直接的なメリットにはならないかもしれないが、そうした形で頻繁にサイトを訪れてもらえること自体は良いことだと捉えている」と話す。
デモCM制作にかかる期間の短縮効果も大きい。従来は、営業担当者がCM制作担当者と打ち合わせを行い、広告コピーを用意したうえで、ナレーターやスタジオを手配して収録する必要があったため、少なくとも数日、長ければ1週間程度を要していた。それが「デモCMジェネレーター」の活用により、約1分で広告のイメージを確認できるようになったという。
このように、「デモCMジェネレーター」は、広告主や広告代理店が音声広告の具体的なイメージを短時間でつかみ、出稿を検討するきっかけをつくる役割を担っている。その背景には、Podcastを中心に音声広告への関心が高まっていることがある。
3STEPで簡単に音声デモCMを作ることができる
高まるPodcastへの関心と、音声広告ならではの強み
音声広告市場の現状について、原田氏はPodcastへの関心が高まっていると説明する。
背景の一つが、ワイヤレスイヤホンの普及である。移動中や家事中など、ほかのことをしながら音声コンテンツに触れる機会が増え、これまでメディアとの接触が難しかった場面にも音声が入り込めるようになった。
広告主や広告代理店からの問い合わせも増えており、Podcastで何ができるのかを具体的に検討する動きが広がっている。Spotifyなどの存在も、音声広告の認知拡大を後押ししていると見る。
音声広告ならではの価値について門田氏は、スキップされにくい点を挙げる。Podcastにはスキップ機能があるものの、音声広告はそもそもスキップしようと思われにくく、広告への嫌悪感も抱かれにくいと説明する。
また、話者への愛着からファンコミュニティが形成されやすい点も音声メディアならではの特性である。自社のファンを増やし、繰り返し商品を購入してもらいたいと考える企業から、「Podcastをどのように活用すればよいか」という相談も増えているという。
TBS PodcastのHP画面(https://www.tbsradio.jp/podcast/)。
SpotifyやAmazon Music、radiko等で聴取可能だ
進化する音声広告の効果測定
デジタル化やアドテクノロジーの進展について、原田氏は、Podcast広告が長年抱えてきた「データが戻ってこない」という課題が、ようやく解消されつつあると説明する。
複数のプラットフォームに配信されるPodcastは、DSP側が必要とするユーザーデータを得にくく、プログラマティック化が難しいとされてきた。
TBSラジオでは取材時点で複数のDSP(*2)との接続テストを開始しており、統合マーケティング施策の一環として運用できる仕組みが間もなく整う見込みという。DSP経由であれば、TVerやYouTubeなど、他のデジタル広告と同様の効果測定が可能になる。
DSP経由以外の直接販売についても、海外の効果測定技術の導入を進めている。
原田氏は、米国で広く利用されているPodcast効果測定ツール「Podscribe」を、国内ではおそらく初めて本格稼働させる予定だと説明する。これにより、精度が向上したIPアドレスの分析とユーザーエージェントの情報を組み合わせ、これまで把握が難しかった広告接触後の行動データを計測できるようになる。
また、純広告では、広告を聴いた人が広告主のサイトを訪れたかを計測する仕組みを2026年初めから導入している。TBSラジオは、広告メニューに応じて複数の測定手段を整備し、Podcast広告の効果を可視化する取り組みを進めている。
音声広告市場の拡大に向けて
デジタル音声広告市場が抱える課題として、原田氏は二つを挙げる。
一つ目は、プレイヤーの少なさだ。
YouTubeなどと比べて収益化の手段が限られているため、新たなプレイヤーが参入しにくく、市場も拡大しにくい。そのため、TBSラジオは、まず音声広告市場そのものを拡大することが重要だと捉えている。
二つ目は、出稿プロセスの複雑さである。
SNS広告などは管理画面上で出稿まで完結できる一方、音声広告では、制作や審査、入稿などの各工程に多くの人が関わっている。TBSラジオは、将来的に広告枠の購入やカード決済までオンラインで完結できる仕組みを目指し、出稿プロセスを簡素化していく考えだ。
市場の拡大に向け、TBSラジオはリスナー層とコンテンツの幅を広げる取り組みも進めている。radikoでは40〜50代の男性がリスナーの中心である一方、Podcastでは20〜30代や女性のリスナーが多いという。こうした違いを踏まえ、ラジオでは届きにくかった若年層を意識したキャスティングや番組企画を増やしている。
また、近年広がりを見せるビデオPodcastへの対応も強化していく。原田氏は、話し手の間合いや番組の構成、企画の組み立て方など、コンテンツを面白くするために放送で培ってきた制作ノウハウが、TBSラジオの強みだと説明する。TBSラジオは、こうした番組制作の知見に加え、TBSグループ内のテレビ局やBS局が持つ映像制作の知見も生かしながら、ビデオPodcastに取り組む方針だ。
ターゲティングとDSP接続を拡大
今後の展望として原田氏は、2026年秋にもTBS Podcastの広告在庫で、年齢や性別などの属性に基づくデモグラフィックターゲティングを初めて商品化する計画を明かした。あわせて、番組やエピソードで扱われている話題に応じて広告を配信するコンテキストターゲティングも投入する予定だという。
また、DSPとの接続により、Podcastの広告在庫をデジタル広告在庫として扱える環境も整いつつある。原田氏は「自社メディアだけでも1億インプレッション程度の規模がある」としたうえで、主要なDSPとの接続を、今後も進めていく考えを示した。
門田氏は、「デモCMジェネレーター」を音声広告に関心を持ってもらう入り口として活用し、広告主や広告代理店からの問い合わせをさらに増やしたいと話す。ラジオ広告を知っていても出稿した経験がない企業や広告代理店は多いが、配信方法や効果測定、音源制作について説明すると「思っていたよりも活用しやすい」と受け止められることが多いという。
最後に原田氏は、主要DSPとの接続によって、これまで広告主や広告代理店がアクセスしにくかったPodcastの広告在庫も活用しやすくなるとして、「ぜひ活用していただきたい」と期待を寄せた。
「デモCMジェネレーター」で音声広告を検討する入り口を広げるとともに、ターゲティングや配信、効果測定の環境を整備する。TBSラジオは、制作から配信、効果測定までの各段階にある障壁を下げることで、音声広告の活用拡大を目指している。
ABOUT 町田貢輝
ExchangeWireJAPAN 編集担当 日本大学法学部法律学科卒業。編集プロダクション、出版社でエンタメ、健康、IT関連の雑誌と書籍の編集・進行管理に従事。2024年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。DX領域のメディア運営全般ならびに、調査研究を担当する。





