可処分時間を起点に再設計-ニューステクノロジーが考える第三のリーチメディア構想[説明会レポート]
株式会社ニューステクノロジーは、東京・南青山にある同社オフィスにて事業戦略説明会を開催した。 「ニューステクノロジー事業戦略2026〜可処分時間を起点に再設計する、第三のリーチメディア構想〜」と題した本説明会では、三浦純揮 代表取締役がタクシーサイネージをはじめとした同社事業に基づき、広告主の抱える課題やニーズなど、現在の広告市場環境について語った。 「4マス」ではない、新しいメディアを創る ニューステクノロジーはメディア事業を中心に事業展開をしている。いわゆる「4マス」ではなく、新しいメディアを創っていくことを一つの会社方針としている同社だが、その筆頭として挙げられるのが、タクシーサイネージ「GROWTH」である。 現在、都内を中心に約11,500台のタクシーの後部座席にタブレット型のサイネージを設置している。三浦氏は東京のタクシー市場について「会社経費で頻繁にタクシーを利用する人が多い」としながら「30代~50代の可処分所得が多い層や企業の意思決定層へリーチしやすい」ことを媒体のポイントとして取り上げた。2025年9月には初の海外進出として「GROWTH TAIWAN」を新たに開始 。台湾の大手広告代理店と合弁会社を組んで、既に3,000台規模のネットワークを構築している。 また、2021年から事業を開始した喫煙所サイネージ「BREAK」は、首都圏オフィスビルの喫煙所を中心に設置が拡大し、現在は428施設・530面に展開している。 「大手オフィスビルに狙いを定めて展開しているため、上場企業の社員に向けたリアルなアプローチも可能となっている」と三浦氏は成果を語り、「BREAK」が事業開始以降、過去最高益を更新する見込みであることを報告した。 隙間時間=可処分時間に変える これらの事業展開に置いて、同社が強く意識しているのが「可処分時間」の存在である。 三浦氏は時代とともに可処分時間の定義が変化し「通勤・移動・休憩など日常的に発生する 『隙間時間』も可処分時間である」と再定義。 家事などを除き自由に使える時間(従来定義の可処分時間)だけではなく、タクシー移動や喫煙所の休憩も可処分時間の一つと捉えたうえで、次のように述べた。 「喫煙所の利用は1回6分程度だが、1日の仕事中に平均5回は行くとされており、そこでは計30分の可処分時間が生まれている。そこをメディアとして抑えたのが、喫煙所サイネージの『BREAK』である。また、我々のビジネスモデルは広告費で売上を立てているので、ターゲット属性が明確な場所・メディアになっていることは1つのポイントとして見ている」(三浦氏) 外資プラットフォームに対する「市場構造の優位性」 三浦氏は同社の強みとして、グローバルにデジタル広告で圧倒的優位性を誇っている企業が、容易に参入できない領域で事業を展開している点を強調した。 サイネージを置いているロケーション(場所)を所有している企業は、交通事業者やビルオーナーなどの日系企業が大半であり、事業形態・特性もロケーションによって異なるため、大手事業者が提供するシステム横断的な事業展開がしづらく、個別最適化が求められる。 そのうえで「我々のビジネスモデルはメディアを作るイニシャルの費用は一切いただかない」と三浦氏は前提を述べ、タクシーであれば、タブレット・通信のSIMカードおよび通信費・その他サイネージの配信の仕組みなどは全てニューステクノロジーが負担したうえで、広告収益の一部はロケーションオーナーに還元もしている。 ローカルに根差した運営を続けながら、ロケーションオーナーにとっては新たな収益源の確保や広告収益を元にしたサービス改善を続けることも可能となっているため、同社の競争優位性が高くなっているという。 「第三のリーチメディア」を創る 前年同期比で同社の売上が128.3%、総利益が143.6%に成長を続けていることを三浦氏は報告し、その背景として「デジタル中心の広告投資は一定の成果を上げたが、(広告主が)頭打ちを感じている」ことを課題の一つに挙げた。また、各企業が提供しているサービス自体も、多くの人に使ってもらうマス向けのサービスではなく、ビジネス層など特定セグメントのみを対象としたサービスが増えている。 これらの課題・ニーズに応えてきたことが同社の成長の背景として振り返りながら、三浦氏は最後に、テレビ・デジタルに次ぐ、「第三のリーチメディア構想」について話した。 「タクシーのGROWTH、喫煙所のBREAK、ニューステクノロジーのYouTubeチャンネル『McGuffin』を合わせると、計1,500万人規模の月間リーチを実現しており、ラジオや雑誌のリーチ規模は超えて来ている。市場としてデジタルが伸びているとは思うが、オフラインもまだまだ増やしがいがあるとは思っているので、可処分時間を軸に新規メディアを作ることは今後も継続しながら、既存メディアのリーチ基盤も継続的に拡張していきたい」(三浦氏)
楽天インサイト、AIツール「楽楽プロファイル」で生成したターゲットプロファイルをAIにより擬人化し、対話ができる「インタビュー機能」の試験運用を開始
楽天インサイト株式会社(以下「楽天インサイト」)は、アンケート結果を基にターゲットのプロファイルを自動生成するAIツール「楽楽プロファイル」において、生成したプロファイル結果をAIによって擬人化することで対話ができる「インタビュー機能」の試験運用を本日開始した。 「インタビュー機能」は、アンケート調査結果に基づくプロファイルと対話することで、アイデアを生み出す新体験を提供することができる機能。擬人化したプロファイル結果とチャット形式で対話し、アンケート調査結果の属性情報だけでは把握が困難なターゲットの価値観や行動背景、意思決定の理由を深掘りすることが可能で、分析結果を起点としたリサーチャーやマーケターのアイデア発想をサポートする。 また、擬人化されたプロファイル結果と対話する際に、具体的にどのような質問をするべきかをフォローする役割として「先輩AI」を搭載。「先輩AI」は、AIを活用した調査の先輩としてインタビューの進め方をサポートする「アイ先輩」と、創造工学の専門家である石井 力重氏監修のもと、AIが結論を導く存在ではなく、人と協働しながら思考を深める「人機共想」のパートナーとして発想を広げる視点でサポートする「リッキー先輩」の2人のAI人格から目的に応じて選択することができる。 本機能の試験運用においては、楽天インサイトで調査依頼を行った実績がある企業・団体を対象に、アンケート調査結果に基づくターゲットプロファイルとの対話体験を提供する。なお、すべての企業・団体などを対象とした本格提供開始時期は2月中旬を予定している。 楽天インサイトがクライアントに対して行ったマーケティング活動における課題のヒアリングでは、「アンケート調査は欠かせない一方で、調査結果を十分に活かしきれていないケースもある」との意見があった。 AIによって生活者像を擬人化し、対話形式でインサイトを探るアプローチの内容を調査のエビデンスとして直接活用することに対しては慎重な見方もある。一方でこれまでのアンケート調査では、数値や傾向は把握できても「なぜその選択をしたのか」「どのような価値観や背景があるのか」といった生活者の意思決定理由まで踏み込んだ示唆を導き出すことは容易ではないため、分析結果を起点に新たな視点や問いを生み出すという点において、擬人化AIとの対話が発想を広げる手段として有効であると考え、本機能の開発に至った。 楽天インサイトは、「リサーチ」と「AI」を融合することで、「考える力」そのものを進化させる新しいマーケティングスタイルを提案していく。 ■「インタビュー機能」概要 試験運用開始日: 2026年1月30日(金) 本格提供開始時期: 2026年2月中旬(予定) 概要: アンケート結果を基にターゲットのプロファイルを自動生成するAIツール「楽楽プロファイル」において、生成したプロファイル結果をAIによって擬人化し、対話できる機能 利用料: 無料(試験運用においては、楽天インサイトのインターネットリサーチを過去に実施したことがある企業・団体のみ利用可) 問い合わせフォーム: https://insight.rakuten.co.jp/inq/research/ ※楽天インサイトの営業担当者がいる場合、担当者経由で申し込むことが可能です。 特長: 1.調査結果と大規模かつ多面的な生活者データとの連携 調査結果と、約40万人を対象に約1,700項目に及ぶ生活意識、趣味嗜好、商品カテゴリー関与、ブランド関与、メディア接触などの大規模かつ多面的な生活者プロファイルデータを連携することで、単なる属性情報にとどまらず、対話の中で価値観や行動背景までを引き出すことが可能 2.発想支援に特化した、「人機共想」型AI設計 AIを、結論を導く存在ではなく人と協働しながら思考を深める「人機共想」のパートナーとして設計。対話の進め方を支援する「アイ先輩」と、発想を広げる視点を提供する「リッキー先輩」の2人の「先輩AI」を搭載 活用シーン: 1.アンケート分析結果から、新たな切り口を見つけたいとき 集計や分析は終わっているものの示唆が出揃わず、企画の方向性に課題があり解決を目指す際に、ターゲットプロファイルと対話することで、数値の裏にある背景や理由を言語化し、分析結果に対する解釈の幅を広げることができます。既存の分析に新たな視点を加え、議論の起点を生み出します。 2.発想ワークやインタビューの代替として、思考の刺激を得たいとき ワークショップや追加調査を実施する余裕はないものの、企画を深めるために生活者視点の気づきを得た際に「インタビュー機能」を活用することで、調査結果に基づくターゲット像との対話を通じて、仮説の揺さぶりや新たな問いを発見し、短時間で発想を前に進めることができます。 ■石井 力重(いしい りきえ)氏コメント AIは単に「答え」を出してくれるだけの存在ではありません。今回の機能には、私が長年培ってきたアイデア発想のロジックをプロンプトに組み込み、AIが人の思考を刺激し、共に新しい切り口を見つけ出す「共想」のパートナーとなるよう設計しました。データの向こう側にいる生活者と深く対話することで、一人ではたどり着けない「発想の拡張」をぜひ体験してください。 ■石井 力重(いしい りきえ)氏プロフィール アイデアプラント 代表/早稲田大学・名城大学 非常勤講師/日本創造学会 理事 創造工学の専門家として、600件以上の企業や教育機関で延べ3万人以上にアイデア創出法を提供。アイデアプラント代表として、アイデア発想ツールの開発やアイデアソンのデザイン、ファシリテーションに取り組み、業界や学会で高い評価を受けている。
東京都「都内中小企業×外国企業ビジネスマッチングイベント」開催 インフルエンサーマーケティング×ソーシャルメディア分析のFeaturing Corp.など参加
東京都が実施する「都内中小企業と外国企業とのマッチング商談会」が2月2日~4日にオンラインで開催される。 商談には、インフルエンサーマーケティングやソーシャルメディア分析に特化したAll-in-Oneプラットフォームを提供するFeaturing Corp.を始めとする外国企業が参加。Featuring社は、日本国内の広告代理店やインフルエンサーマーケティングをデータベースで管理・実行したい企業との商談を希望している。 以下の開催時間に加えて、2月中であれば個別にオンライン商談を設定可。 詳細については、下記のフォームまたはメールアドレスまでお問い合わせください。 ■都内中小企業と外国企業とのマッチング商談会(東京都主催) https://fc-sme-matching.metro.tokyo.lg.jp/ 開催日:2026年2月2日(月)~ 2月4日(水) 開催時間:2月2日(月) 13時~17時 2月3日(火) 9時~17時 2月4日(水) 9時~17時 ※ご要望に応じて2月中の別日にも開催可 開催形式:オンライン(参加費無料) ■補足事項: 1社45分 商談会は事前マッチング制のため、マッチングが成立した方のみ参加いただけます。 必要に応じて、商談会には通訳がつきます。 商談会はすべてオンラインで実施します(参加費無料)。 ■申し込みフォーム: https://x.gd/ZdkCx ----本件に関するお問い合わせ---- 「都内中小企業と外国企業とのマッチングイベント」運営事務局 シード・プランニング 担当:角田 TEL:070-7416-1252(平日:9時~17時) E-mail:businessmatching@seedplanning.co.jp
CARTA HD、リテールメディア広告市場は2029年に1兆3,174億円規模へ成長すると予測―デジタルインファクトと共同調査を実施
株式会社CARTA HOLDINGSは、株式会社デジタルインファクトと共同で、国内のリテールメディア広告市場に関する調査を実施した。 リテールメディア広告市場(※1)は、大手EC事業者が中心となり市場全体をけん引して成長を続ける一方、店舗を持つ小売事業者においては、DX化の進展によるデータ資産の収益機会の拡大を背景に、広告ビジネスの取り組みが進み、同市場における新しい成長領域として注目が集まっている。 本調査では、広告主によるリテールメディア広告への支出総額を市場規模とし、2025年までの推計および2026年から2029年までの予測を行った。 その結果、2025年の国内リテールメディア広告市場は前年比129%と高い成長により6,066億円となり、今後もEC事業者および店舗事業者による取り組みの拡大を背景に、2029年には1兆3,174億円規模に拡大することが見込まれる。 調査結果の詳細は以下の通り。 生活者のECサイト利用額は引き続き拡大を続けており、大手EC事業者が提供するリテールメディア広告に対する需要は引き続き高い水準で推移している。 リテールメディア広告は、広告主より購買データに基づいた広告効果が可視化できる点を高く評価されており、大手広告主においては、従来の営業部門による販促費にとどまらず、広告宣伝・マーケティング部門による広告宣伝費からの投資が本格化しつつある。 大手EC事業者においては認知・獲得から購買までのフルファネルをカバーする広告商品を拡充し、大手広告主の投資を促進している。 また、大手店舗事業者においては、リテールメディアビジネスに向けた環境整備が引き続き進展してる。一方で、事業者間では、リテールメディア事業への取り組み姿勢や成長スピードに差が見られるようになっている。 広告事業者は、リテールメディアネットワークの形成や、店舗事業者の広告事業開発の支援により、広告主の投資対象としての魅力を高め、EC事業者や店舗事業者の収益化に寄与している。 これらを背景に、2025年のリテールメディア広告市場は6,066億円、前年比129%となる見通しだ。 またその内訳は、EC事業者が5,236億円、店舗事業者が830億円である。 引き続き、大手EC事業者が提供するリテールメディア広告に対する広告主からの高い需要が継続するとともに、店舗事業者が提供するリテールメディア広告への需要も拡大することで、市場は高い成長を持続し、2029年には2025年比約2.2倍の1兆3,174億円規模に拡大すると予測される。 店舗事業者のリテールメディア広告市場では、大手企業を中心に、リテールメディア事業部門の組織化が進み、広告ビジネスへの本格的な投資が進展している。 広告事業者との提携により、広告配信基盤の構築や運用体制の整備が進み、リテールメディア広告に取り組む環境が整いつつある。また、広告会社などを通じて企業の広告宣伝・マーケティング部門からの予算獲得を目指す動きも進展しており、リテールメディアネットワークへの参画を通じて、小売単体では獲得が難しかった広告主予算の取り込みを図る動きも見られる。 デジタル広告は、店舗事業者と取引関係を持つメーカー企業からの広告出稿が引き続き堅調で、アプリ向けのクーポン広告やECサイトにおける検索連動型広告を中心に需要が拡大した。 デジタルサイネージは、その高い訴求力による大きな認知効果が見直されている。 そのような背景のもと、コンビニエンスストアをはじめ、一部の大手企業による積極的な投資による環境整備が進み、大手広告主からの投資を呼び込み需要が拡大した。 現在は、ターゲティング精度や広告効果測定手法の整備が十分でない点や、広告主や小売事業者内での部門構造等が投資判断の分かれ目となっており、今後は業界全体での環境整備が進むことが期待される。 これらを背景に、2025年の店舗事業者におけるリテールメディア広告市場は830億円となった。 その内訳は、デジタル広告が620億円、デジタルサイネージが210億円である。今後も、リテールメディア事業を支えるテクノロジーの進展が多くの店舗事業者の参入を後押しし、広告主による継続的な需要の高まりのもと、2029年には2025年比約2.3倍の1,939億円に達すると予測される。 ※1:広告主によるリテールメディア広告への年間支出総額を対象とする。リテールメディア広告は、店舗を持つ小売企業(店舗事業者)並びにEC専業の小売企業(EC事業者)が提供する各種オンラインメディア広告(※2)の総称。店舗に設置しているデジタルサイネージ広告も含む。 ※2:アプリ、ECサイトなどのオウンドメディアにおける商品告知広告やクーポン、メールマガジンのほか、匿名化された小売企業の顧客データを活用したターゲティング配信が可能なオンライン広告(※3)など、広告商品の企画・運営に小売企業が関与する広告プロモーションを対象とする。 ※3:複数の小売企業の顧客データ・購買データなどを一括で取りまとめ、これを活用したターゲティング広告を配信するリテールメディアネットワーク事業者への広告支出を含む。 ■調査概要 ・調査主体:株式会社CARTA HOLDINGS ・調査時期:2025年9月から2026年1月 ・調査方法:広告業界・小売業界関係者へのヒアリング、調査主体ならびに調査機関が保有するデータ、公開情報の収集 ・調査対象:リテールメディア広告市場 ・調査機関:株式会社 デジタルインファクト
“広告”を社会の装置として再定義する-アドテク時代に失われた意味を問い直す-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
ATS Tokyo 2025 の最終セッション「広告の役割[再考]、アドテクは[広告]の意味を殺していないか?」では、同志社大学大学院ビジネス研究科教授の高広伯彦氏が登壇した。 本セッションは、高広氏の講演と ExchangeWire JAPAN 編集長・野下智之との質疑応答で構成され、広告の歴史的役割、制度との関係、都市形成への関与、社会問題との接点、そしてアドテクが支配する現代における広告の「意味の喪失」が議論された。 効率化が極端に進む広告環境の中で、人間中心の広告文化をどのように取り戻すか-その核心に迫る内容となった。 セッション登壇者 同志社大学大学院ビジネス研究科/教授/高広 伯彦 氏 ExchangeWire JAPAN/編集長/野下 智之 引札が変えた商いの構造-「相手の得」を伝えるという広告の原点 高広氏は冒頭、日本型ビジネスに根付く利他的行動に触れながら、広告の起源を捉え直した。日本では、短期的な利得ではなく、関係性を重視した利他的行動が商習慣の基盤にあった。広告もまた、相手にとっての利益を提示する行為として成立してきたという。 その象徴として紹介されたのが、江戸・日本橋の三井越後屋による「引札」である。そこには「現金安売掛値なし」「配達はいたしません」と記されていた。当時の呉服商は掛け売りが一般的であり、番頭が年末に集金に回る仕組みだった。引札はこの長年の前提を覆すもので、「現金売り」という新たなルールを社会に提案する役割を果たした。単なる店の宣伝ではなく、商いの仕組み自体を変革しうる提案である点を、高広氏は広告の原点として位置づけた。 また、引札が社会に浸透した背景として高広氏は、江戸時代の高い識字率を挙げた。武士階級はほぼ100%、農村部でも一定の読解力があり、文字を介して情報が流通する土台が形成されていた。新聞の普及はこうした基盤をさらに強化し、明治期には紙面の多くが広告で埋め尽くされるようになった。福沢諭吉は新聞創刊に際して「広告とは広く伝わる媒体に載せるべきもの」と述べ、広告を公共的機能を持つ情報装置として語った。 広告はすでにこの時点で、「情報伝達の基盤としての社会的役割」を担い始めていたことがわかる。 制度が広告を進化させ、都市が広告を必要とした-アドバルーンから通天閣まで 広告が社会制度と都市の発展に密接に関わってきた点についても、高広氏は豊富な事例を示した。 制度が広告の形態を進化させたアドバルーン 大正期には「広告営業税」が存在し、広告の掲出や営業行為が地方財源を支えていた。広告に税が課されるという制度は、広告の形態そのものを変化させた。地上の広告が課税対象である一方、空中の掲示には当初適用されなかった。そこで生まれたのが「アドバルーン」である。広告主と事業者は制度の隙間を活かし、空中という新たなメディアを創出した。 さらにアドバルーンは社会的な場面でも活用された。二・二六事件では「勅命下る軍旗に手向かふな」と書かれたアドバルーンが掲げられ、ラジオ放送などと連動するクロスメディア的手法で反乱部隊に投降を促した。広告が社会の安定に関わるコミュニケーション手段として用いられた歴史的な事例である。 都市が広告を必要とした通天閣の再建 都市の形成と広告の関係を語るうえで欠かせないのが、大阪・新世界に建つ通天閣である。初代通天閣とルナパークは、多数の広告掲出により運営収入を補っていた。しかし戦災で塔が失われ、再建にあたり地元商店街は資金不足に直面した。 当初は松下幸之助(パナソニック)をはじめとする関西企業に支援を依頼したものの、各社の経営事情もあり出資が得られなかった。そこに乗り出したのが関東の企業、日立製作所である。日立は Kansai でのプレゼンス向上を狙い、通天閣の広告掲出に協力し、資金不足を補った。こうした経緯から、現在も通天閣には日立の広告が掲示されており、都市の象徴的風景として定着している。 広告は都市の持続性を支え、街の風景を形成する「社会インフラ」として機能してきたことが、この事例からは明らかである。 広告の“暴力性”を社会問題へ向ける-ベネトンが示した公共的役割 高広氏は広告の持つ“暴力性”に言及した。暴力性とは、望むと望まざるに関わらず、人々が広告を“見てしまう”という強制力のことである。氏が紹介したのは、ベネトンのアートディレクターで知られるオリビエーロ・トスカーニの広告キャンペーンだ。 同キャンペーンでは、人種差別や宗教対立、戦争、エイズ差別などの社会課題が生々しく表現された。特に印象的だったのは、ボスニア紛争で亡くなった兵士の血染めの軍服を撮影した写真である。ほかにも、異なる人種が一つの手錠でつながれた写真、宗教の象徴が刻まれた墓標列、エイズ患者を家族が看取る姿などが提示された。 これらは特定の商品を売るための広告ではなく、広告の“強制力”を社会問題の可視化に用いたものである。高広氏は「広告の暴力性を逆手に取り、公共の議論のきっかけを生み出した」と述べ、広告が文化的対話をつくり得るメディアであることを示した。 テクノロジーの過剰適応が「人間」を消す─アドテクが奪った広告の意味 講演後半では、アドテクがもたらす“効率化の影”について議論が移った。高広氏は「テクノロジーそのものが問題なのではなく、過剰依存が広告の意味を弱めている」と指摘する。 アドテク環境では、配信効率・クリック率・CV率といった測定可能な指標が広告価値を支配する。しかし、これらの指標では広告が社会に与える文化的・公共的インパクトは測れない。広告が歴史的に果たしてきた多面的価値は、現代の KPI 主義の中では切り落とされてしまっている。 さらに高広氏は、AI の発展によってマーケティングの主体が「人間」から「システム」へ移動している状況に言及した。ユーザーの行動はデータとなり、アルゴリズムはそのデータから配信を最適化する。人間はマーケティングプロセスにおいて“入力データ”として扱われ、広告は“システムが最適化する対象”になりつつある。広告における“人間の創造性”が後退しつつある兆候である。 「広告が好きな人」が減っている-文化の循環を取り戻すために 質疑応答では、広告を文化として支えてきた「広告が好きな人」の減少が最大の問題として語られた。高広氏は、大学広告研究会の活動が弱まり、広告そのものを楽しむ若者が減っている現状に強い危機感を示した。 その背景にあるのが、かつてのインタラクティブなデジタル表現の喪失である。Flash 全盛期のウェブでは、ユーザーの操作に応じて予期せぬ反応が返ってくる「触れる広告体験」が存在した。しかし、スティーブ・ジョブズによる Flash 排除 と iPhone 化によるスマートフォン環境への移行によって、こうした文化は急速に衰退した。現在のデジタル広告はテレビ的な一方向性が強まり、「いじる面白さ」が消えている。 高広氏は、デジタルだからこそ可能なクリエイティビティを回復させることが、広告の人間性を取り戻す鍵になると語った。広告に触れて「面白い」と感じられる体験が増えるほど、広告をつくる人・愛する人は自然と育つ。広告文化の未来は、こうした“好き”の再生産にかかっている。 広告は歴史的に、商いの仕組みを変え、都市を支え、社会に問いを投げかけてきた多面的な装置だった。アドテクの効率化が進む今こそ、その豊かさを再評価する必要がある。広告を未来へつなげるのは「広告を面白いと感じる人」の存在であり、その感性をどう再生産するかが問われている。
インターネット広告に「規制」は必要か否か。-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「インターネット広告に『規制』は必要か否か。」と題した本セッションでは、UNICORN株式会社 代表取締役社長 山田 翔氏と、モデレーターを務めたExchangeWire JAPAN 副編集長 柏 海が登壇した。山田氏は、近年顕在化する性的広告問題、なりすまし・詐欺広告、過剰な広告枠、偽情報・誤情報など、オープンインターネット広告を取り巻く課題を、関連省庁の動きや業界構造とともに整理し、「規制」をテーマに本来あるべき広告環境の姿を提示した。 セッション登壇者 UNICORN株式会社/代表取締役社長/山田 翔 氏 ExchangeWire JAPAN/副編集長/柏 海 ユーザーから嫌われる広告環境の顕在化と、規制議論の前提 山田氏は冒頭、昨年のATS Tokyo 2024で自身が提示した「インターネット広告の99%は見られておらず、広告がユーザーに嫌われる存在になっている」という問題提起を振り返りながら、この一年で状況がさらに悪化し、これらが単なる業界課題に留まらず、社会問題の段階に入ったとの認識を示した。 とりわけ重要な変化として山田氏が強調したのは、関連省庁の動きの加速である。こども家庭庁、総務省、経済産業省、警察庁、金融庁など、異なる問題を扱う複数の省庁が、それぞれの所管領域で調査・対策を進めている。インターネット広告を統括する法律が存在しないなか、インターネット広告に関する社会的問題への関心の高まりが、行政のアクションを促している構造が浮き彫りになった。 こうした文脈を踏まえつつ、山田氏は「インターネット広告に『規制』は必要か否か」というテーマに切り込んでいく。 また、「多くの広告事業者にとって“規制”はネガティブな印象が強いのではないか」という仮説を持っていたが、会場内に設置されたUNICORNのブースで来場者に、「インターネット広告に『規制』は必要か否か」を問いかけ、「規制は必要」「規制は不要」の2種類のクッキーを配布したところ、「規制が必要」と書かれたクッキーを手に取る参加者が多数だったというエピソードを紹介し、広告業界内での問題意識は確実に高まっていることを共有した。 山田氏は「最大のリスクは短期的な収益減ではなく、インターネット広告自体がユーザーに拒絶されること」と位置付け、広告基盤への信頼低下こそが、中長期的な最大の脅威であると述べた。 リアル空間との比較で浮かび上がる“無規制状態”と、基準づくりの必要性 「規制」という言葉を議論する際に山田氏が示したのは、リアル空間とインターネット空間の対比である。プレゼンの中では、一日26万人以上が通行する巨大公共空間として、渋谷スクランブル交差点を例に、リアル空間における規制について次のように紹介した。 広告物を設置する場合の基本的な許可基準:東京都屋外広告物条例 ※景観の保護、公衆への危害防止、美観維持などが目的。 良好な景観形成のための届出や事前協議のルール:渋谷区景観計画・景観条例 ※広告物のデザインや設置場所もこれらの計画の影響を受ける。 交通の妨げになる場所への設置:道路交通法に基づく規制 ※道路上や交通の妨げになる場所への設置、または運転者の注意をそらすような広告は規制される。 リアル空間では、広告が公共物として扱われ、設置場所・デザイン・安全性などが厳しくコントロールされている。一方で、月間で数百万人のユーザーが訪れる大規模インターネットメディアでは、リアル空間のような厳しい事前審査や設置基準は存在しない。 結果としてインターネットでは、リアルと同等の巨大な“公共空間”であるにもかかわらず、広告の品質や安全性が事業者単位の判断に委ねられたままになっている。 更に、山田氏は総務省が取りまとめた「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を引用し、デジタル広告は流通経路が複雑で、悪意ある主体が紛れ込みやすいことを取り上げた。また、掲載先が無数に存在し、ユーザーごとに異なる広告が出るため、広告主自身も「どこに広告が出ているか」を把握しにくいという特性がある。この複雑性が、性的広告や詐欺広告などの問題の温床になっていると山田氏は述べた。 こうした背景を踏まえ、山田氏は「規制(ルール)を持つことで、各プレイヤーの便益を公平化し、ユーザーに拒絶されない広告環境に近づく」と述べ、規制を“制約”ではなく“環境設計の基盤”と位置づけた。 山田氏が示した規制の分類は3つである。 国による法規制 国と業界団体の連携による共同規制 業界団体等による自主規制 プレゼンでは、広告品質向上・透明性確保に関わる複数団体の取り組みが一覧化され、現行の自主規制がカバーしきれていない領域の存在も示された。山田氏は、法規制だけでなく、業界自身による自主的な基準づくりこそが、問題解決への第一歩になるとの見解を示し、「どこから手をつけるべきか」を次の論点として提示した。 広告事業者から基準を引き上げるというアプローチと、来年以降の展望 広告主・広告事業者・広告媒体、と複数のプレイヤーにまたがるなか、山田氏は「広告事業者(DSPなど)がまず基準を引き上げるべき」と述べた。その理由としては「広告主と媒体を接続する“ゲートウェイ”の役割を担っている」「クリエイティブ選定や媒体選定に大きな影響力を持つ」という構造的条件にある。 UNICORNでは既に、 性的・過激・詐欺性のある広告を収益性に関係なく排除 ユーザー体験を阻害する広告枠への非配信 クオリティが保たれない媒体への非配信 といった基準を独自に設定したうえで、広告事業の運営を行ってきていると話す。また、山田氏は「基準を上げても事業は成立し、むしろ質の高い広告主と媒体が結びつくことで成長できている」と成果を述べ、業界全体がこれらの基準を共有すれば、悪質な事業者が排除され、結果的に健全な広告取引が循環するとの見方を示した。 その一方で、企業単独の努力ではインターネット広告の流通構造そのものを変えるには限界があるため、業界団体や技術団体と連携して共通基準をつくる必要性を強調した。 まずは広告事業者の基準を引き上げたうえで、次第に大手広告主の予算は認定広告事業者に流れ、最終的には広告媒体も認定広告事業者との取引が中心になる。その結果として、問題のない広告空間が形成され、ユーザー体験を損なわない広告環境が成立するとした。 質疑応答では、ExchangeWireJAPAN編集部から「今年、省庁との意見交換を行った背景」や「規制テーマを選んだ理由」について質問が寄せられた。山田氏は、現状の深刻度の高まりと、業界として放置できない課題であること、そして「日本の広告業界が団結して動くタイミングに差し掛かっている」との認識を語った。 来年以降については、こうした取り組みをさらに加速させ、「ユーザーにとっても出会いのある広告」を実現するための活動を続けると述べた。 最後に山田氏は、「最初に動き出した企業にとっては不利益に見えるが、それは未来のインターネット広告への投資となる」と語り、セッションを締めくくった。
AIが再定義する広告の価値とアテンション-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
2025年11月21日に開催された「ATS Tokyo 2025」では、「AIが切り拓く広告の未来」と題したパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、OpenX Japan カントリーマネージャーの目黒圭祐氏、Uber & Uber Eats Director of Marketing, Japan & Korea の Alison Doube氏、WPP Head of Integrated Creative の Soumya Bardhan氏、CNN International Commercial Sales Director, Japan の長屋海咲氏の4名である。モデレーターは ExchangeWire JAPAN 共同編集長の長野雅俊が務めた。 広告主、広告代理店、パブリッシャー、テクノロジーベンダーというデジタル広告サプライチェーンを象徴する4者が一堂に会し、生成AIを中心としたAI活用がクリエイティブやメディアバイイング、組織変革、そして日本市場とグローバルのギャップにどう影響しているのかを、具体的な事例とともに語り合ったセッションである。 セッション登壇者 OpenX/カントリーマネージャー/目黒 圭祐氏 Uber & Uber Eats/Director of Marketing, Japan [...]
【2月7日開催】次世代ジャーナリズム・メディア研究所「デジタル時代に求められるニュース・メディアの透明性」—信頼性あるニュースを支えるエコシステムを考える—
早稲田大学 総合研究機構次世代ジャーナリズム・メディア研究所と慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所は、2026年2月7日(土)13時より、慶應義塾大学三田キャンパス北館ホールにて、シンポジウム「デジタル時代に求められるニュース・メディアの透明性 —信頼性あるニュースを支えるエコシステムを考える—」を開催する。 本シンポジウムでは、デジタル時代のニュース・メディアにおける透明性(Transparency)をキーワードに、信頼できる情報環境と広告・アドテクノロジーの関係性を問い直し、持続可能なニュース・メディアのあり方について議論を行う。 第二部「メディアの透明性とデジタル広告」のパネルディスカッションにはUNICORN株式会社 代表取締役の山田翔氏、TBS報道局編集主幹の萩原豊氏らが登壇予定となる。 ■プログラム(予定) 第一部:調査報告(13:00〜13:50) 開会挨拶:田中幹人(早稲田大学 教授/次世代ジャーナリズム・メディア研究所 所長) 調査報告:日本のニュースメディアにおける透明性の現状報告 登壇者:永井健太郎(招聘研究員/東京通信大学) 第二部:メディアの透明性とデジタル広告(14:00〜15:20) 「デジタル広告と民主主義(仮)」 講演:水谷瑛嗣郎(慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所) パネルディスカッション モデレーター:水谷瑛嗣郎 パネリスト:山田翔(UNICORN株式会社 代表取締役)、萩原豊(TBS報道局 編集主幹)ほか広告・報道実務者 閉会挨拶:烏谷昌幸(慶應義塾大学 教授) ※登壇者・プログラムは変更になる可能性あり。 ■開催概要 日時:2026年2月7日(土)13:00〜15:30 会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール 対象:一般 言語:日本語 参加費:無料 主催:慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所、早稲田大学総合研究機構 次世代ジャーナリズム・メディア研究所 申込締切:2026年2月6日(金) 申込フォーム:https://forms.gle/RsBKHdwY4hLkVTWn9 ■お問い合わせ k.nagai4[at]kurenai.waseda.jp ※お手数ですが、[at]を@におきかえて入力ください。
電通デジタル × Silverpushが読み解く2026年に向けたYouTube広告の進化──“文脈”と“モーメント”がもたらす新たな設計視点[インタビュー]
圧倒的なリーチ力と、動画ならではの表現力を備えたYouTube広告は、2026年に向けてさらなる進化のフェーズに入ろうとしている。標準的な配信手法や自動最適化が担ってきた役割を前提としつつ、近年注目されているのが「どのような文脈(コンテキスト)やモーメントで広告に接触するか」という視点だ。 ここで言うコンテキストとは、単なる動画ジャンルやキーワードではなく、視聴されているコンテンツの内容や視聴意図を含めた“文脈”そのものを指す。本記事では、電通デジタルとSilverpushによる実際の取り組みを通じて、YouTube広告におけるコンテクスチュアルターゲティングの活用可能性を探る。 (Sponsored by Silverpush) YouTube広告に求められる視点の変化──「量」から「文脈」へ ―自己紹介をお願いします。 後藤氏:電通デジタルの後藤百香と申します。新卒で入社以来、外資系企業のデジタルマーケティング戦略を担当してきました。2025年からは、国内外のメディアプラットフォーム各社様との戦略的提携を推進する業務も兼任しています。 中野氏:Silverpushのカントリーマネージャーを務める中野済です。複数の外資系広告ソリューション企業で日本ビジネスの責任者を務めるなど、動画広告を中心にデジタル広告業界には約20年にわたり従事してきました。 山下氏:シニアセールスディレクターの山下祐治と申します。国内及び外資系の広告会社やDSPとSSPで経験を積んできました。 ―YouTube広告の活用状況についてお聞かせください。 後藤氏: 日本国内では、多くの広告主様がYouTube広告を活用しており、標準的なターゲティングや自動最適化を含めた運用はすでに広く定着しています。その一方で近年、「どのような文脈で広告が視聴されているか」「ブランドとしてよりふさわしい環境で接触できているか」といった点にも、徐々に関心が向けられるようになってきました。 電通デジタル Dentsu Digital Global Center, Digital Planner, 後藤 百香 氏 コンテクスチュアルターゲティングは、既存の配信手法を置き換えるものではなく、こうした視点を踏まえ、特定の目的やKPIに応じて粒度細かく活用できる補完的なアプローチだと捉えています。2025年に入ってから、私自身もその可能性を検証する機会が増えてきました。 中野氏:日本以外の市場においても、欧米やアジアを含め、従来の配信手法をベースとしながら視聴されているコンテンツの文脈やモーメントを意識した設計が広がっています。 Silverpushでは、グローバル市場においてこれまで10,000件以上のYouTubeにおけるコンテキスト配信に携わってきました。日本市場においても、目的やKPIに応じた活用が今後さらに広がっていくと見ています。 明確だが幅のあるターゲットをどう設計するか ―活用のきっかけを教えてください。 後藤氏:「中小企業の経営者」という、明確でありながらも幅のあるターゲットを想定したキャンペーンを担当した際に、より精度高くリーチする手法の一つとして有効ではないかと考えたのがきっかけです。本キャンペーンでは、「意思決定権を持つ層に、適切なタイミングで届けられているか」をKPI設計の軸に据えました。 一般論として、ターゲットが明確になるほど、広告プラットフォーム上では一定程度抽象化された形で扱われることが多くなります。YouTubeの標準的なターゲティングや自動最適化は非常に有効ですが、特定の文脈により近づけたい場合には、配信設計の段階で追加の工夫が求められるケースもあります。 ―YouTubeの通常配信の配信でのターゲティングはどのように指定していたのでしょうか。 後藤氏:例えば「中小企業」や「確定申告」といったキーワード設定があります。これにより関連性の高いコンテンツへの配信が期待できます。一方で、YouTube広告の自動最適化はKPI達成のために配信対象を柔軟に広げる特性もあるため、結果として多様なジャンルの動画に広告が表示されるケースも見られました。 また、チャンネル単位で配信先を指定することも可能ですが、目的に合致したチャンネルを網羅的に抽出し、かつ安定した配信量を確保するのは運用負荷の観点から人手では限界があります。そこで今回は、既存手法を前提としながら、別の視点からのアプローチを検討しました。 ―そこでコンテクスチュアルターゲティングを活用したのですね。 後藤氏:まず中小企業経営者を業種、従業員規模、意思決定プロセスなどの観点から複数のペルソナに分解しました。そのうえで、情報接触シーンや意思決定タイミングを想定し、視聴コンテンツの傾向まで落とし込みました。この設計をSilverpush様と連携し、具体的なコンテキストリストに変換しています。 山下氏:ブリーフィング内容をもとに、複数の社内ソリューションを活用し、目的に応じた独自設計のコンテキストリストを抽出しています。これにより、YouTube広告において戦略的なコンテクスチュアルターゲティングが可能になります。 Silverpush シニアセールスディレクター 山下 祐治 氏 配信面とブランドの親和性から「モーメント」を捉える ―今回の取り組みで得られた気づきは何ですか。 後藤氏:主に「配信面の質」と「動画単位でのブランド適合性の把握」という2つの点で新たな気づきがありました。 YouTube広告では、管理画面上で不適切な配信面を除外する機能が用意されており、ブランドセーフティを確保するための基本的な仕組みが整っています。そのうえで今回は、確定申告を解説する動画など、テーマ性の高い文脈を意識した配信を行いました。結果として、ブランド適合性の高いコンテンツ環境において、「まさにその情報に触れているタイミング」で広告に接触してもらえる設計が実現できたと感じています。 また、動画単位で配信状況を可視化できた点も印象的でした。ペルソナごとに配信面、インプレッション、完全視聴率を整理することで反応の違いをより具体的に把握でき、今後の設計にも活かせる示唆が得られたと考えています。 コンテキスト配信を支える運用と調整のあり方 ―コンテキストリストはSilverpushが抽出するとのことですが、広告配信が開始されてからはどのような役割を担ったのでしょうか。 後藤氏:コンテキスト配信の運用および最適化については、当社の運用方針のもと、専門的な領域を中心にSilverpush様にご支援いただきながら進めました。 広告運用の現場においては、速報値レポートの作成や広告予算の増減または動画の秒数の変更といったことにも対応しなければなりません。こうした作業に時間を要する場合も多々あるのですが、Silverpush様には本当に迅速に対応していただきました。 また単なる数値報告に留まらず、「どの変数をどう調整すべきか」まで踏み込んだ密なコミュニケーションがあったことで、品質の高いコンテキスト配信を実現できました。 山下氏:ご予算を増額いただいたことに伴い、広告在庫を増やす必要が生じた際などに電通デジタル様と別途ご相談させていただきました。具体的には、ペルソナ設計に基づくコンテキストの中でも「アウトドア」関連が数値面で良好だったため、成果が見込める領域として「アウトドアスポーツ」まで対象を広げ、関連動画の配信機会を増やす調整を行いました。 ―PDCAを回す中でどのようにキャンペーン全体の施策を最適化されたのでしょうか。 後藤氏:キャンペーンの初期段階では複数の配信手法を併用しながら特性を把握し、その後、文脈との親和性や視聴態度の面で手応えを感じられたコンテクスチュアル配信を中心に設計を見直しました。KPIも検証結果に応じてリーチから完全視聴関連指標へ移行するなど段階的に調整し、目的に即した評価と改善が行えたと考えています。 配信結果をどう読み解くか──QCPMという補助的な評価視点 ―キャンペーンを振り返る中で、どのような視点が得られましたか。 後藤氏:今回のキャンペーンでは、KPI自体はリーチや完全視聴率など、一般的な指標を用いて運用していました。一方で、キャンペーン終了後に結果を振り返る中で、「広告が想定した文脈やターゲット環境にどの程度沿って配信されていたのか」に加えて、コンテキスト配信を行った際の配信単価や配信効率についても、もう一段整理してレビューできないかと考えました。 そこでご紹介いただいたのが、QCPM(Qualified CPM)という考え方です。 中野氏:QCPMは、ブランド適合性を踏まえたCPMの考え方に近い指標です。 弊社では、広告キャンペーンの投下予算に対して、文脈やターゲット、ペルソナとの親和性を満たした配信面でのインプレッションのみを対象に算出したCPMを、QCPMと定義しています。 つまり、規定したコンテキストに沿って、どれだけ効率的に関連性のあるプレースメントへ配信できていたかを振り返るための指標として活用できます。 Silverpush カントリーマネージャー 中野 済 氏 後藤氏:この指標を用いることで、配信効率をコスト面からも整理し、結果をより納得感のある形で振り返ることができました。 また、QCPMは既存のKPIや運用指標を置き換えるものではなく、従来の指標による評価を補完するかたちで活用できる考え方だと捉えています。 文脈とモーメントから考える、YouTube広告の次の設計 ―今回の実績を踏まえた次の展開をどのように思い描いていますか。 後藤氏:YouTube広告におけるコンテクスチュアルターゲティングは、実際に活用した経験のある広告主様がまだ限られている印象があります。だからこそ、まずは小さく試してみることで、その考え方や可能性を実感していただけるのではないかと思います。私自身も、実際に取り組むことで設計の幅が大きく広がりました。一度取り入れてみるだけでも、これまでとは異なる視点で配信設計を考えられるようになるはずです。 今後は、よりボリュームのあるターゲティングにおいても、モーメントごとの配信設計に取り組んでみたいと考えています。検討フェーズや関心度に応じた表現の出し分けを考える際、コンテクスチュアルターゲティングは有効な選択肢の一つになると思います。 中野氏:比較・検討段階にあるユーザーと、より潜在的な関心段階にあるユーザーとでは、接触しているコンテンツの文脈は異なります。例えば、車の購入においては、中古車レビューの動画は購入検討層との接点になりやすく、ライフスタイルや日常シーンを扱った動画は、将来的な検討につながる潜在層との接点になり得ます。 動画レベルで文脈を捉えることで、関心度に応じた配信設計が可能になり、設計の幅を柔軟に広げることができます。 2026年に向けて日本市場でも、「どのような文脈・モーメントで広告に接触しているか」を意識した設計が、YouTube広告戦略の一部として徐々に定着していくと考えています。
「質」を問い直す広告投資-“終焉”か“復活”かを決めるのは誰か-ATS Tokyo 2025 セッションレポート
「メディアの終焉」か「復活」か〜広告主の投資先はどこに向かうのか〜」と題した本セッションには、パーソルテンプスタッフ株式会社 執行役員CMO 友澤 大輔氏、 小林製薬株式会社 新規事業準備室 兼 広告販促部 戦略スタッフ 大槻 開氏が登壇し、ExchangeWire JAPAN 編集記者 町田 貢輝がモデレーターを務めた。 広告主サイドの現場感を起点に、コスト効率指標偏重がもたらしたメディアエコシステムの歪み、リーチの「質」をどう測るか、そして広告主が求めるパートナーシップのあり方まで、両氏は自身の経験を交えながら議論を展開した。ウォールドガーデンへの投資集中は意図ではなく構造的必然であるとし、そのうえで“次の選択”をどう拓くか-広告主が直面するリアルが語られた。 セッション登壇者 パーソルテンプスタッフ株式会社/執行役員CMO/友澤 大輔 氏 小林製薬株式会社/新規事業準備室 兼 広告販促部 戦略スタッフ/大槻 開 氏 ExchangeWire JAPAN/編集記者/町田 貢輝(モデレーター) リーチの「量」と「質」が乖離する現場-広告主が抱える根本的課題 本セッションの冒頭、両氏は広告投資の現状を語るにあたり、まず「リーチ」概念の揺らぎに触れた。大槻氏は、P&G 在籍時の経験として、同社が長年「REE(Reach Effectiveness Efficiency※1)」を中核に置く独自の合理的メディア運用を徹底してきた点を紹介した。特に「コスト・パー・リーチ」を最適化する文化は強固で、テレビや TVer など確実性の高い手法が選択されやすい構造にあると説明する。 一方、同じ P&G 内でも一部ブランドでは“Not all reaches are equal”の考えを掲げ、「効果」を独自指標として設定していたという。ターゲットの文脈や意図、ストーリーテリングまで含めて価値を定義し直すアプローチであり、「リーチは量だけでは語れない」という視点も存在していた。 しかし、日用品や化粧品メーカーでは、多様な商品群を抱えるため、社内説明の難易度は高く、「ブランドにとって本当に価値のあるリーチとは何か」を噛み砕いて共有することが容易ではないと語る。結果として、効率性の高い手法へ投資が集中するが、それが最適とは限らないという葛藤を抱えている。 友澤氏も同調し、広告主の視点から「CPAやROIを追いすぎた結果、広告品質が毀損し、メディアのエコシステム自体を弱らせた可能性がある」と指摘した。「可視化できるから割り算して安くする」という文化が強まりすぎたことが、リターゲティングの濫用や、メディア面の価値下落につながったという実感を示した。 また、AI生成コンテンツの急増やタッチポイントの細分化によって、従来以上にリーチ最大化と成果最大化を同時に追う難易度が高まっていると述べ、「量」と「質」を両立するメディアプランニングの複雑化を現場の課題として整理した。 ※1 REE(Reach Effectiveness Efficiency) Reach(リーチ):「どれだけ多くの異なる人々に情報が届いたか」を示す指標。 Effectiveness(エフェクティブネス):「設定した目標に対して、どれだけ効果があったか」を測る指標。 Efficiency(エフィシエンシー):「投入したコストやリソースに対して、どれだけ無駄なく成果を上げられたか」を測る指標。 ウォールドガーデン偏重は“意図”ではなく“構造”-広告主を縛る条件とは何か 議論は次第に「なぜウォールドガーデンが選ばれ続けるのか」という核心へ移った。 大槻氏はまず、「ウォールドガーデンへの偏りは“意図”ではなく“組織構造上の現実”」と強調する。新しい媒体や手法を試す際、企業内での説明負荷が大きく、成功事例の有無が判断に大きく影響するという。中間管理職を含む社内関係者の合意形成には「コスト・パー・リーチ」のような明快な指標が求められ、未知のメディアに投資するには説得材料が不足しがちである。 さらに、ウォールドガーデン自体も進化を続けており、AIを活用した運用機能拡張が加速する中、日々アップデートされる仕様へのキャッチアップだけで担当者は手一杯になってしまうと語った。視野が狭くなる構造的リスクを認識しつつも、「実務の観点で最も手堅い選択肢として残り続ける」という現場の実情がある。 友澤氏もこれに呼応し、「限られたリソースで効果を最大化するため結果的にウォールドガーデン中心になる」と述べた。検索・バナー広告・SNSなど、少人数のチームでも扱いやすく、運用最適化が効く手法が優先されるためである。特にP-MAX(パフォーマンス マックス)※2のような統合型プロダクトは、短期的成果を確保する上で不可欠になっている。 一方で、友澤氏は「現在はCPCが高騰し、同じ市場に広告主が集中するほど単価が上昇する構造が加速している」と指摘。新規顧客獲得の限界が露呈しており、「ファーストペンギンとして新しいメディアを開拓しない限り、長期的なリーチ確保は難しくなる」との危機感を共有した。 また、大槻氏はブランド文脈に応じメディアが広がる例として、ヘアケアブランドの社会事化をテーマにしたキャンペーンについて触れた。新聞・ニュース媒体・SNS など複数 [...]
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