デジタルマーケティング企業の東南アジア進出 AtoZ 第6回:東南アジア進出にあたり、市場規模やネット普及率などマクロの数字を読み解こう

マーケティングソフトウェアの開発などを手掛け、海外にも3拠点に展開しているエフ・コードの海外担当執行役員・島田裕一が執筆する本連載では、デジタルマーケティング企業が海外進出する際のポイントについて、東南アジア進出を中心に解説していきます。なお、本シリーズの見解は筆者の経験則に客観的なデータを交えて論じたものであり、不十分な点・異なる見解のご指摘など読者の皆様からいただければ幸いです。

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第1回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その1「事業性」
第2回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その2「市場規模」
第3回:進出すべきホットな国・地域を見極めるための観点その3「顧客単価」
第4回:東南アジアで優秀な現地人材を採用するためには?
第5回:東南アジア進出時に、オフィスなどの不動産まわりで注意すべきことは?

第5回までに、進出国の選定軸や、進出にあたり留意すべき点とその概要を論じてきました。第6回となる今回は、詳細なデータに基づいてASEANの主要国のマクロ環境を比較していきます。添付の図表をご参照の上お読みください。

※国の順番は、北から首都の緯度順としています。
※扱う国については、インターネット普及率が一定以上あり、生産拠点ではなく販売拠点として検討に挙がるであろうASEAN内の6か国を選定しました。
※各データを自社の戦略策定などに利用する際は、原典として末尾に挙げた参考文献もご参照くださるようお願いいたします。

デモグラフィックデータ(2017)

図1

参考文献:IMF – World Economic Outlook Databases

まずは概観として、デモグラフィックデータを比較します。

・人口

インドネシアの約2.6億人という突出度が目立ちます。ただし注意点として、仮にB2Cクライアントの場合、2.6億人すべてに対してデジタルマーケティングを実施しているとは考えにくい点です。たとえば、ECサイトを利用している層はこの中でも多くとも3000万人、さらにその中でも一定頻度で利用している層は500万人程度という肌感です。このように、人口全体がそのまま現在のマーケットサイズとなるわけではなく、将来的なポテンシャルを含んでいる点を考慮に入れ、冷静に見ることが重要です。

・中央年齢

フィリピンの24.3歳が最も若く、逆にシンガポールは40.5歳と日本並みに高齢化傾向があることがわかります(日本は46歳程度)。中央年齢や平均年齢、人口分布といった指標を見る際に重要なのは、人口ボーナス期/オーナス期のタイミングの見極めです。人口ボーナス期には、働き盛りの層が増えることにより市場が拡大していき消費も増えるため、デジタルマーケティングの市場規模も増大していきます。そのタイミングに向けて、どれくらい自社が種を撒きながら待てるのかという点がポイントです。デジタルマーケティング企業にとって、今現在のタイミングで20年後を見据えながら進出計画を作ることは現実的でない場合が多いと思われますが、一つの観点として重要です。

・GDP/経済成長率(実質)

1兆ドルを超えるインドネシアが突出しています。すでに世界でも16位となっており、2050年には世界ベストテンに入るとの予測もあります。インドネシアに加えフィリピンおよびベトナムは、「BRICs」に次いで経済大国に成長する潜在性が指摘される「NEXT11」に数えられています。

※NEXT11:イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコ

経済成長率については新興国では5%を超える国が多い中、事実上先進国といえるシンガポールは置くとしても、タイの低さが目につきます。タイはいわゆる「中進国の罠」に嵌っている典型例と言われ、また近年政情も不安定であることが影響していると考えられます。

※中進国の罠:発展途上国を脱して中進国となった段階で、輸出品の競争力においては他の発展途上国に押され、一方で先進国と競争をするには技術力などが及ばず、成長が停滞してしまう状況。

・平均賃金

購買力に直接的に作用する指標です。例えば単品リピート通販支援業者の場合、一定額以上の収入のある国民でなければ、日本のアッパーミドル向けの化粧品や健康食品はなかなか購入に至りません。台湾を皮切りにASEANに進出しようとする美容/健康メーカーは多く存在しますが、平均所得などを勘案することで、人口の数値からは見えない本当の購買層・市場の大きさをきっちりとリサーチする必要があるでしょう。

デモグラフィックデータ(2025予測値)

図2

参考文献:PopulationPyramid.net

また、参考までに2025年の予測値について触れておきます。インドネシアの人口が約2000万人という爆発的な増加を見せていますが、タイはほぼ変わりません。全体的に平均年齢が少しずつ上がっていますが、フィリピンだけは唯一20代をキープしています。

デジタルマーケティング企業にとっての注意点として、たとえば50年後の人口動態を見据えて事業を進めていくようなことはどうしても難しいという問題があります。中長期にわたる予測が困難であるため、直近の状況・数年後の予測値を見据えた上で、今すでに市場がある状態の国に進出することがベターな選択といえます。

次に、各国のデジタル事情に言及していきます。

インターネット利用状況

図3

参考文献:We Are Social

インターネット普及率において目を引くのは、84%と高いシンガポール、そして50%と低いインドネシアです。いずれにしてもインターネット利用者の90%以上がスマートフォンによってインターネットを利用しており、PCのみでインターネットを利用しているユーザーはわずか数%です。

各国のスマートフォン普及率とインターネット普及率は似た数字になっているため、今後スマートフォンユーザーが増えるにつれて、インターネットに接続するユーザーも増加すると考えられます。

デジタル広告市場規模

図4

参考文献:eMarketer

デジタル広告の市場規模は、海外に進出している、または興味があるデジタル広告系の企業の担当者にとっては、必須といえる調査項目です。

このデータを見ると、デジタル広告費の規模はすでに6か国のうちインドネシアが最大であることがわかります。そのうえ広告費全体に占める割合ではまだまだ少ないため、今後どんどん伸びていくことが予想されます。

さらに、このデータ上には表れていない広告の内容に目を向ければ、いわゆるブランディング系の広告だけではなく、パフォーマンス系といわれる広告主も、インドネシアには他のASEAN諸国と比較して多く存在します。この状況は特に獲得系のソリューションを提供するベンダーにはチャンスだと考え、当社エフ・コードもインドネシアに進出しています。

EC市場規模

図5

参考文献:We Are Social

各国のEC市場規模を比べてみると、インドネシアが最も大きく、次いでタイ、シンガポールとなっています。また、購買人口の中で、何かを購入する際にオンラインで検索したり、ECサイトに訪れるというユーザーの割合にも各国ばらつきがありますが、特にタイ、マレーシア、シンガポールでは70%前後と高いことがわかります。

これらの数値が高い国については、とりわけオンライン上でのファーストタッチポイントを作ることが肝要です。具体的には、広告だけでなくしっかりとした商材紹介ページを作ってSEOの施策を実施したり、モバイルでも見やすいウェブサイトの構成にしたり、シェアしやすいページを作ったり、といった施策です。

チャットサービス

図6

参考文献:We Are Social

チャットサービスには各国ばらつきがありますが、Facebook MessangerとWhatsAppの強さが目立ちます。日本で多く使われているLINEはタイとインドネシアで奮闘していますが、他の国ではこれからという状況です。

ECの最終購買ポイントがメッセンジャーサービスとなる例も多く出てきているため、カスタマーサービスにおけるチャット対応は必須となりつつあります。例えばタイでは、販売者がインスタグラムに商品の写真を投稿し、その写真を見つけた消費者はLineを使って販売者に問い合わせることができるという例もあります。これを顧客サイドへの提案に盛り込むデジタルマーケティング支援企業も増えてきており、今後ますます重要視していくべき項目といえるでしょう。

閲覧数Top5サイト※Google, Facebook, YouTubeを除く

図7

参考文献:We Are Social

最後に、Google, facebook, youtubeを除いたアクセス数の多いトップ5のウェブサイトを並べました。ニュースサイトが多くを占め、当地独自のサービスも多いことがわかります。

このようなデータを見る際の注意点として、ASEAN諸国などには日本以上に格差が激しい国が多いため、ユーザーのステータスもより多岐に渡るという点が挙げられます。そのため、マーケティングにおいてきちんとセグメントをしたプロモーションを展開する際には、格差を前提とした精緻な分析が求められます。「とにかくメガサイトで情報を撒きましょう」といったローカル代理店などの提案を鵜呑みにすることは、日本における場合以上に危険であると認識しておきましょう。

おわりに

以上、様々な指標とそこから読み取れる事柄について述べてきました。東南アジア進出における数字感覚を、ある程度把握いただけたかと思います。しかしここで注意していただきたいのは、経済規模やインターネット普及率などに先立って、経営者や赴任する責任者がコミットしたい国・地域であることが重要であるという点です。極論、これらの数字はあくまで経営者の熱意を前提として、ステークホルダーへの定量的な説明が必要な際に、そのための客観的な論拠として使えばよいともいえます。

初めての海外進出に取り組んでいる、またはその予定があるという読者の方も多いでしょう。最初からいきなり1,000億円の事業を作るべく計画を立てることもひとつの姿勢ですが、まずは営業利益ベースで年間1,000万円を目指していきたい、といった規模感の企業がほとんどだろうと考えます。

その際には、マクロ的な状況よりも、むしろ経営者の強いコミット感と、自社商材と市場の親和性、さらに既存のネットワーク(従来日本で懇意にしていた現地のエリート層など)のほうが重要となります。数字に振り回されることなく適切な強度で活用することを意識していただければと思います。

※各図表作成:エフ・コード

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ABOUT 島田 裕一

島田 裕一

株式会社エフ・コード 
海外担当執行役員 
アウンコンサルティング株式会社を経て、2016年に株式会社エフ・コードに海外担当執行役員として参画。前職では検索エンジンマーケティング(SEM)コンサルタントとしてキャリアを積んだのち、海外事業統括責任者として台湾、香港、タイ、シンガポール全拠点のマネージングダイレクターを兼任。大手企業のグローバルマーケティング活動を支援。 エフ・コードではタイ法人を皮切りに、香港法人、ジャカルタ拠点を開設し、デジタルマーケティングの効果を最大化させるマーケティングソフトウェアを現地企業および日系企業に提供。