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PMPやPDの整備に必要なものとは-パブリッシャー支援のAdomikが見た日本市場特有の課題

Adomik 渡沼翔氏と、ベンジャミン・ランフリー氏の写真

業界を牽引する有識者でさえ「あまりに複雑になった」と嘆くアドテク分野。広告主側には代理店やコンサルティング会社を通じて様々な知見が提供されているが、パブリッシャー側は置いてけぼりにされがちだ。

そこでSSPやパブリッシャートレーディングデスクとは違った形でパブリッシャー支援を行うフランス生まれのAdomikのメンバーに、日本市場特有の課題などについて伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)

複雑化しすぎてパブリッシャーの手に負えなくなった

自己紹介をお願いします。

ランフリー氏 AdomikのGlobal VPとして、グローバルのセールス担当を務めるベンジャミン・ランフリーと申します。

渡沼氏 昨年に開設した日本オフィスにてカントリーマネージャーを務めている渡沼翔です。

会社紹介をお願いします。

ランフリー氏 Adomikは、パブリッシャーの収益を最大化することを目的としてフランスで設立されたアドテク企業です。様々なデータと接続してそれらを統合することを通じて、パブリッシャーの業務負担を軽減し、またマネタイズを支援することを主な業務としています。

主な顧客層を教えてください。

世界中に100社以上の顧客を抱えています。いずれもネット測定会社コムスコアのランキング上位に位置する大手パブリッシャーばかりです。これまでは欧米諸国を中心に事業を展開してきましたが、近年はAPACとりわけ日本での取引が増えています。

渡沼氏 日本では大手新聞、ブログサイト、ポータルサイトなど約20社様にご利用いただいています。

なぜパブリッシャー支援を事業化しようと考えたのですか。

ランフリー氏 Adomikの共同創業者が2人ともかつてフランスの大手パブリッシャーに勤務していたのです。彼らは、SSPから送信されるデータをいかに活用できるかについて長らく思案していました。

パブリッシャーのエコシステムは複雑化していく一方です。クライアントサイドそしてサーバーサイドのヘッダービディング、レコメンドウィジェット、ダイレクトディール、セカンドプライスオークションからファーストプライスオークションへの移行などなど。もはやパブリッシャー単体の手には負えなくなっています。こうした様々なツールや機能に振り回されるのではなく、きちんと精査した上で使いこなす環境を整備する必要があると考えたのです。

また広告主側と比べて、パブリッシャー側には十分な支援が提供されていません。その格差を埋める必要を感じました。

日本のプログラマティック取引はまだ成熟していない

貴社から見た日本市場の特徴を教えてください。

ランフリー氏 インターネット広告費の規模は世界第3位という非常に大きな市場です。しかし、規模の割には、プログラマティック取引に関しては成熟していないという側面があるとも思います。例えばオランダなどの先進国に比べると、まだプログラマティック取引の割合は少ない。大手広告会社グループの存在が大きいために、広告主とパブリッシャーの二社間で取り交わす広告掲載申し込み(IO)方式がまだ維持されているためでしょう。またPMPやPreferred Deal(PD、CPMが固定されたプログラマティック取引)など、パブリッシャーがCPMを改善させるための仕組みが十分に整備されていないと認識しています。

ただ状況が変化してきているというのも事実です。私が初めて日本を訪れた2年前には、多くのパブリッシャーがSSPやアドネットワークをウォーターフォール方式で呼び込んでいましたが、現在ではヘッダービディングが主流になっています。

また日本のパブリッシャーが保有するアドテク関連の技術そのものと取り組みに対する意識は非常に高いと言えるでしょう。例えばGoogle Ad Managerなどのツールの使い方を熟知している関係者は多いです。そのレベルは、欧州市場よりも上だと思います。

大手広告会社の存在により、パブリッシャーが十分にプログラマティック取引を活用できる環境にはなっていないということでしょうか。

ベンジャミン氏の写真

ランフリー氏 いいえ、むしろ日本のパブリッシャーは広告枠を販売するために、広告会社やDSPとの連携をより深めるべきだと思います。そのために必要なのは、データの接続、収集、標準化ですが、これらの作業は複雑化していく一方です。そこで、当社が支援を提供しているのです。

規模がずっと大きな大手パブリッシャーでさえ、専門企業である当社と同じレベルで業務を遂行するだけの人材を自前で用意することはかなり難しいと思います。Microsoftやebayといった巨大企業でさえも当社サービスを利用するのは、当社が業務を効率化するだけでなく、良い事例の紹介などを含めたアドバイスを提供することができるからです。

巨大なインターネット広告市場があり、現場は高い見識を有しているにもかかわらず、日本のプログラマティック取引が「成熟していない」のはなぜですか。

渡沼氏 日本における大手パブリッシャーのインターネット広告収益の7~8割はプログラマティック取引によるものですが、そのほぼすべてがオープンオークションによるものです。他国ではPMPやPDの割合がずっと高い。いくつかの理由が考えられますが、日本のパブリッシャーはフロアプライス(最低落札価格)を手作業で設定・変更しており、しかもたくさんのSSPを併用しているがために、いくつもの異なるダッシュボードを定期的にチェックする必要があるというのが大きいと思います。つまり、設定作業やデータ収集作業に追われるがあまり、CPMを上げるために有効な広告枠を新しく創設し、DSPや広告主に提案するまでに至っていないのです。

国内市場にSSPが乱立しており、それらのSSPを次々と使うけれども、その機能の優劣を十分に精査できていないという問題もあります。いずれにしても、煩瑣な業務に追われすぎて、肝心な部分にまで手が回っていないというのが現状でしょう。

フロアプライスを自動最適化するツールを提供

それらの課題を貴社ではどのように解決しようとしていますか。

ランフリー氏 現時点では欧米市場限定となりますが、当社ではプログラマティック取引における広告主側の動きをモニタリングする「Sell」というプロダクトを展開しています。自社の取引と市場全体の動向を比較することで、特定の予算や特定の広告会社からの受注を取り逃していないかを把握するためのツールです。

このような分析は、たくさんのパブリッシャーのデータを統合させることで初めて可能になります。パブリッシャー単体では、他のパブリッシャーの情報を集めるというのはなかなかできることではありません。当社は機械学習を用いてこの作業を自動化した上で、さらに専門社員10人がデータ処理を行っています。

つまりプロダクトの提供を通じてパブリッシャー支援を行うということですね。

ランフリー氏 プロダクト提供だけでなく、パブリッシャーが最大限活用できるように研修の機会も合わせて提供しています。顧客の現場に赴き、どのSSPを使っていて、どのように広告枠を活用しているかを確認した上で、当社のプロダクトを顧客の目的と状況に則した形で設定します。

また各パブリッシャーの固有の課題解決に向けて、専門の分析チームを派遣することもあります。米国では、純広告やPMPの料金表の抜本的な見直しを図るパブリッシャーに対してデータ分析を実施したなどの例があります。

渡沼氏の写真

渡沼氏 日本ではフロアプライスの最適化作業を自動化した「Price」というプロダクトを展開中です。これまでは多くのパブリッシャーが広告ユニットごとのフロアプライスを手動で変更していました。この作業に膨大な時間を費やしていたわけですが、時間をかけている割に収益は上がっていないと感じていた関係者は少なくないと思います。

そこでパブリッシャー様には「Price」を導入いただくことで、作業時間の節約だけでなく、プログラマティック取引の収益をも改善していただいています。

ランフリー氏 グローバルにおける収益の平均増加率は10~15%なのですが、日本では30%上昇といった好結果も出ており、平均すると20%前後に達します。パブリッシャーにとって収益が20%も増えるというのは非常に大きな意味を持ちます。

どのような仕組みで収益を改善させているのですか。

ランフリー氏 人間が試行錯誤を繰り返しながらフロアプライスを例えば週1回の頻度で変更するよりも、機械学習を通じて最適なプライスを常時算出することで効果を生み出しているというのが一つ。また手作業では、一回に変更できるのは一つのアドユニットまでですが、システムであれば複数を一斉に変更することができます。

渡沼氏 また日本では「Report」という様々なデータをトラッキングするダッシュボードのベータ版も提供しています。これらのプロダクトを通じて煩瑣な業務を自動化したことによって節約できた時間を活用して、PMPを新しく創設したパブリッシャー様もいます。

ランフリー氏 日本に限らず、世界中のパブリッシャーはいくつもの業務を同時並行でこなしています。つまり手が回っていない状況です。だから作業時間を節約するだけでも、彼らに対して高い付加価値を提供することができるというわけです。

競合企業はない。あえて言うならパブリッシャー

貴社サービスの利用条件を教えてください。

ランフリー氏 月1億インプレッション以上の規模を持つことを利用条件としています。コムスコアのランキング上位に位置するウェブサイトは月10億インプレッションほどですから、自ずと各国の代表的なサイトが主な顧客ということになります。機械学習を用いた分析を行うためのデータ収集を行うには、この規模のインプレッション数が必要なのです。

今後はどのような企業と競合していくことになるのでしょうか。

ランフリー氏 少なくとも日本には競合する企業はいないと考えています。SSPは取引を行うプラットフォームとしてのみ機能しているので、当社のように市場に関する十分な知見を提供することはできない。BIツールもインターネット広告のプロブラマティック取引に特化した知見を提供することができないので、競合相手ではない。米国には2社ほど似たような事業を展開している企業がありますが、当社ほど包括的な支援は提供できていません。

あえて競合企業を挙げるとすれば、パブリッシャー自体となるのかもしれません。フロアプライスの最適化は自社で行っており、第三者の協力を得る必要などないと考えているパブリッシャーもいるでしょう。だからこそ当社は、付加価値を着実に提供していかなければいけないと思っています。

最後に一言をお願いします。

ランフリー氏 複雑化が進行し、大手グローバルプラットフォームの寡占化が進むインターネット広告市場において、パブリッシャーが信頼できる、適切な助言を提供する独立した機関が必要とされています。当社はそうした機関となるべく、日々市場の変化に対応し、パブリッシャーの声に耳を傾けています。当社の機能を代替する企業は現状ないと考えています。不足しがちなパブリッシャー側の支援を通じて、健全な市場を形成するためのお役に立つことができればと願っています。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。