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コロナ禍がデジタルトランスフォーメーション(DX)に与えた影響

MediaSenseマネージングパートナーのライアン・カンギサール(Ryan Kangisser)氏(下の写真)がExchangeWireのインタビューに応じ、新型コロナウイルス感染症のパンデミックはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にどのような影響を与えたのか、また、ブランドは測定やデータ、テクノロジー、動的コンテンツをめぐる取り組みを今後どう加速させていくのかについて語ってくれた。

 

 

―コロナ禍以前、DXの見通しはどうだったでしょうか。

ライアン・カンギサール氏:大半の組織が明確なDXのアジェンダを掲げていたという点で、見通しは概ね良好でした。しかし、消費者行動が変化し続けているという背景に加え、市場要因も働き、多くが取り組みの途上にあります。DXに関する立案と実験が数多くなされたものの、本格的な変革は難しい状況にあります。日々の現実、そして組織内の競合する可能性のある勢力に直面した時は特にそうでしょう。多くの組織でリーダーシップの欠如、トランスフォーメーションに向けた明確かつ重要なビジョンの共有もなく、とにかく行き詰っていました。そのせいで、トランスフォーメーション目標の達成に向けた切迫感を持てずにいたのです。

 

MediaSenseマネージングパートナーのライアン・カンギサール(Ryan Kangisser)氏

―パンデミックは、こうした見通しと全体的なデジタル化の速度にどのような影響を与えたのでしょうか?

セクターや成熟度によって程度に差はあれ、トランスフォーメーションへのスピードと集中力は確実に影響を受けています。明らかな変化の一例として、顧客データへの注目が挙げられます。組織は顧客データを活用し、よりタイムリーで関連性のある、カスタマイズされたコミュニケーションを推進しようとしています。また、変容する行動や嗜好に関するインサイトを収集するために、自社データにも目を向けるようになりました。結果として組織は、データ活用を改善するために、データインフラと処理能力の強化を余儀なくされているのです。

DTC(消費者への直販)の能力を持つ企業はパンデミック期間を通じて急成長し、DTCに対応した大手小売業の多くは、1~2年先を想定していたDX到達目標(例:DTCの売上シェア)をほんの数週間で達成しています。もちろん現在は例外的な時期であり、この成長が持続可能か、あるいは一時的な増加分なのかどうかは不明とはいえ、事業の改善により、多くの企業は将来の成長に向けてより強固なポジションを築くことができました。一方で、規模で大手に及ばない、リソースが不足している、あるいは拡張性のあるデータ処理能力が不足しているといった企業が、やむを得ずDX目標を延期したり休止したりしたケースも考慮すべきです。こうした事例はコロナ禍が、持てる企業と持たざる企業の格差を拡大させるという新たな現象を示唆している可能性があります。

 

―こうしたインパクトはアドテク業界にどう影響してきましたか。特に、重要な構造変化との関連ではいかがでしょうか?

純粋にメディアの観点から見ると、支出減による影響は明らかです。しかし、インフラの観点からは、ブランドがアドテク関連の投資対象をより厳選するようになる、というのが私たちの予想です。イノベーションに投じられる予算と投資が頭打ちになり、ブランドは効率性とROIの向上に一層注力するようになるでしょう。そのため、十分な価値をもたらさない、機能していない費用や技術要素をどうにかして減らそうとします。これにより、企業の整理統合がさらに進むとみられます。とりわけ、余剰人員の削減や、業務効率の向上、ブランドのオーディエンスデータ活用が可能となれば、さらに統合が行われることになるでしょう。

 

DXの観点から見て、世界的な公衆衛生の危機によって生まれた意外なプラス面はありましたか。

一番の驚きは(そう呼べるならばですが)、私たち全員が共通の状況に置かれたために、働き方とコラボレーションの方法が改善されたことです。とはいえ、多くのブランドがDXを念頭に置き、機敏性、データドリブン、顧客重視などの強化を望んだことで、今回の危機によって想定よりはるかに短期間で方針転換することができました。この9カ月の間に、伝統的な企業の中には、コラボレーションを重視した「ウォー・ルーム(作戦室)」型のワークスタイルへ一気に移行し、サイロ化や硬直したプロセス、個人ノルマなどを真っ先に排除した企業もありました。

さらに興味深い別のプラス面は、この期間が「測定」に関して寄与する効果です。パンデミック中、ブランドは主要チャネルと活動を一時的に停止していた可能性があるものの、それらを再開する時には、本当の増加分を測定する準備が以前よりも整っています。これにより、ブランディングの重要性と、ブランドとパフォーマンスマーケティングの最適な関係性という、長らく論じられてきたテーマについての議論を加速させるでしょう。

 

―最後に、DXにおける次の大きな展開は、どのようなものになると考えていますか?

技術インフラがひとたび確立されると、ブランド各社はデータのフローを省力化できる(これが楽観的なのは認めますが)ので、データ、技術、ダイナミックコンテンツをめぐる取り組みを加速させるために、社内の能力(とプロセス)向上に一層注力するようになります。インハウス化の拡大が続く状況で、ブランド各社は自社の戦略とコアデータ資産をコントロールする力を大幅に強化することを目指しています。ただし、こうした動きを継続するには、明確な人材戦略(採用やスキル向上)と、組織内での自己実現を促すような企業文化の変化を組み合わせる必要があるでしょう。

 

 

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。