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デジタルマーケティング構造の再構築に向けて

信頼と透明性はアドテク業界を長い間悩ませてきた課題であり、よりオープンで誠実な空間の実現に向けたステップとして、プライバシー関連法の厳格化とターゲティングインフラの抜本的改革を歓迎する向きも多い。ただし、そうした変化は万能薬ではなく、根深い問題を解決するにはさらなる取り組みが必要になる。インタラクティブ広告協議会(IAB)オーストラリアのテクノロジー責任者ジョナス・ジャーニマギ氏がExchangeWireの独占取材に応じ、信頼と透明性を中核に据えた業界基盤を再構築する方法を語った。

 

2020年のデジタルマーケティングにおいては、サードパーティCookieの衰退と、モバイル広告ID 衰退の可能性が間近に迫っていることが、多く語られてきた。実際に、それは然るべき流れだと言える。過去25年ほど有効だった価値交換は、消費者が関連性の高い広告にさらされる見返りに、インターネット空間に広がる無料のコンテンツやサービスアクセスし楽しむ事ができるというものだ。しかし、消費者と消費者とのこうした関係を促進する事業社との間の、この結果的に拘束力のある契約は、全ての当事者にとって真に明白であるというわけではなかった。そうした状況から、消費者の信頼、透明性というテーマが設定され、内外の不確定要素に取り組んできた業界団体の主要課題となった。

問題の第一波は、体験を損なうような広告を浴びせられるユーザーに関するものだ。業界はこの悪しき慣行に対し、ベストプラクティスと強制的な制限を組み合わせ、全ての関係者にとって、より良いバランスを探ることで概ね対処してきた。有機的かつ善意のイノベーションは複雑さにつながり、そのせいで説明責任の理念が足かせになった。一方、Cookieの徹底的な単純明快さは時代遅れとなり、進化に対応できないソリューションが氾濫する結果を招いた。

法的な圧力と消費者の懸念が高まったことで、インターネットを利用するためのアプリケーションを保有、管理する世界的なテクノロジー企業は、世界規模で強制力のある協調的な改善のため、積極的な制限と期限設定を行うようになった。時は刻々と経過しており、こうした取り組みの期限は2022年末までに定められる見込みで、それ以降、マーケティングキャンペーンの大部分において、オープンインターネット上でターゲティングや広告管理、測定を行う機能は消去されることになる。

その結果、私たちの業界における成功には3つの要素が不可欠になる。根底にある重要な欠陥に真摯に向き合うこと、これから直面する課題にオープンであること、これまで繰り返されてきた騒々しい短期的な応急処置をやめることだ。

 

IABオーストラリアのテクノロジー責任者ジョナス・ジャーニマギ(Jonas Jaanimagi)氏

協調的な再構築

 

このような将来の制約に備えた再構築を行うため、2020年、ほぼ1年にわたり、IAB主導の共同プロジェクトである「プロジェクト・リアーク(Project Rearc)」が進められてきた。結果として得られたエンゲージメントは、率直に言って印象的なものだった。40カ国から400社以上の企業と20の業界団体を代表する約700人の人々が直接的に関与してくれた。当初、業界全体には先送りとパニックが広がる懸念があった。しかし、IAB Tech Labのチームの努力とエネルギーが善の原動力となったこともあり、このような懸念はほぼ取り越し苦労に終わった。残念なことに、予想どおり皮肉や陰謀論も一部では聞かれたが、全体的に見れば、エンゲージメントの多さがすべてを物語っている。

プロジェクト・リアークは、3つの論理的なフェーズがある。第1段階が「要件の特定」、第2段階が「オプションの評価」、第3段階が「可能性のあるソリューションの設計/テスト」だ。理想としては、あらゆるビジネス要件を技術的に満たし、消費者へのプライバシーに関する義務を完全に果たし、想定されるさまざまな説明責任の仕組みを技術的に実現するという条件で、一貫性のある業界標準を提供することを目指すことだ。現在は第2段階に入っており、世界のトップたちから寄せられた多様な提案が検討され、それが将来的に業界標準となるフレームワークの構築とテストに反映されている。

 

提案は以下の3つの分野に大別できる。

 

認証済みユーザー:オープンソースおよび相互運用可能なIDのフレームワークに関する多様な提案がなされている。その多くに共通するのは、消費者から提供を受け、ハッシュ化、暗号化されたメールアドレスを使用するというものだ。復号鍵を定期的に変更することで説明責任に関する対策を講じることができ、消費者は自身の設定を容易に確認、管理し、いつでもオプトアウトできる。その結果、消費者のプライバシーと透明性は大幅に向上する。信頼できるファーストパーティの代わりに、承認された信頼できるサードパーティが実行でき、無許可のサードパーティによるトラッキングやデータ収集の可能性を排除できる。長期的な実現可能性のためには、標準化されたIDソリューションは、関連する世界規模の技術スタンダード(分類、プロセス、データの透明性)、ポリシーの議論、関連するプライバシーのフレームワーク、利害関係を超えた業界の連携努力と結びつかなければならない。さらに、消費者向けのメッセージ、ポリシー、情報開示、管理のすべてにおいて、グローバルな技術的観点から最低限のスタンダードに合意する必要があるが、言語、実施、監督に関しては、地域ごとの文化に合わせてある程度柔軟に対応することになるだろう。

 

匿名ユーザー:完全な匿名化の提案は、ユーザーIDを使用せず、標準化されたタクソノミーによって裏付けられたコンテンツベースのコンテクスト属性の受け渡しを可能にすることによって初めて機能する。近年では、詳細なセマンティックスは、単に単語やキーワードの言語学的な定義を評価するのではなく、テキストの内容、形式、スタイル、出自によるコンテンツの文脈的価値と意味に関し驚異的な洞察を提供してきた。さらに最近では、自然言語処理や画像認識に加え、あらゆる洞察に機械学習機能を組み込むことで、これらのターゲティング可能な属性が強化されている。アドテクの革新という点で興味深い分野になりつつあり、消費者のプライバシーの懸念に対処する一般的なアプローチとしても安全性が非常に高い。

 

パブリッシャー/マーケターを除くすべての匿名化:パブリッシャーやマーケターが、トラッキング可能なユーザーIDを使用せずに、同意を得たユーザーを管理し、あらかじめ決定された関心グループ、コホートに一致させることを可能にする一連の提案が受け入れられている。その後、これらのデータセットが物理的にどこに存在するか、データを正常かつ安全に機械学習の意思決定とモデリングに供給し続けられるか、広告オークションが物理的にどこで行われるかに関し、異なる提案や条件を変えた再提案が数多く寄せられている。初期の提案(Googleのプライバシー・サンドボックスなど)の多くはデバイスやブラウザ内で完結することを前提としていたが、最近は認可されたパブリッシャーが直接ホストするか、信頼できる、あるいは善意あるサードパーティがホストするという案が出ている。こうした提案と再提案の多くには、不思議なことに鳥にまつわる略語が使われることが多い。

これらすべての提案の理念の中核には、仕組みに関するさまざまな難題とともに、私たち全員を悩ませてきた主要な課題、つまり透明性と信頼がある。これは全ての関係者の間で果たすべき義務であるだけでなく、対外的には消費者、立法者、そしてバイサイドとセルサイド双方を含む商業的に携わる全ての事業社間での義務でもある。

 

長期的なイノベーションを可能にするには

 

こうした多くの不確定要素や、認識されている未知の部分の中には、イノベーションを通じ、ポジティブな変化につながる真にエキサイティングなチャンスが存在する。企業が積極的に参加し、透明性と信頼、消費者のプライバシーを第一に考え、その結果として得られたフレームワークに従うのであれば、大きなチャンスを享受できるだろう。改善されたエコシステムを思い描き、それに参加することは刺激的な提案である。誰もが望んでいることは、私たちの業界が繁栄し続けることにとどまらず、私たち全員が心から信じて誇れるような業界になることだ。透明性と信頼への中核的なコミットメントに遡るが、それは、政府や主要ユーザー向けテクノロジープロバイダーによる革新的な介入なしに、継続的な革新的成長を、将来に渡り確実なものにすることにもつながる。適度に協調的で十分にテストされたフレームワークを用いることで、イノベーションのための柔軟性は保持しつつ、常に責任ある実行可能なパラメーターの範囲内で、誰もが自信を持って前進することができるだろう。

また、すでに存在する業界横断的なソリューションの中には、将来を見据えた長期的なソリューションとして売り込まれているものがあるという事実にも留意することが重要だ。そうしたソリューションは技術力で優れているとはいえ、未発表の共通標準を満たしている、またはまだ明確でない製品ロードマップに対応していると主張することが多いため、すぐに評価することは難しい。短期的に実行可能なソリューションとしては問題なく、可能であれば全体的なフレームワークにも反映されることを期待しているが、こうした製品の多くはそれを販売する企業や、その断片的なコンソーシアム内で取引できる企業にしか利益をもたらさないことに留意すべきだ。多くの場合において状況は──少なくとも短期・中期的には──、私たち皆が望んでいる将来も十分に機能するエコシステムではなく、15年ほど前にサプライを支配していた広告ネットワークの連合体へと向かっているようにすら見える。

 

「ムラ」が必要

 

ここで重要なことは、積極的なエンゲージメントと活発な国際協力の前向きな兆候に関連していることだ。この課題のために私たち全員が力を合わせているという実感が励みになってきた。ありがたいことに、私たちのメンバーの大多数は現実から目を背けたり、誰かによる「特効薬」を待ち望んだり、誰かに非難の矛先を向けたりすることはない。大勢が耳を傾け、プロジェクトを真剣に捉え、より本格的に協力しエンゲージする方法を熱心に知りたがっている。

(IAB)オーストラリアでは2021年第1四半期に、プロジェクト・リアークに積極的に参加するため、メンバーを代表して発言し建設的なインプットを行うことを目的としたワーキンググループを立ち上げる予定だ。もし要望があれば、IAB Tech Labと協力し、APAC全体に広げていくことも検討したい。各市場のメンバーには、関連法で定められた消費者のプライバシーに関する義務とビジネス要件を明確化し、責任を持って適切に考慮する義務がある。

また、APACのいくつかの市場で見られるような、イノベーションが非常に活発である地域や、消費者がモバイルファーストではなくモバイルオンリーな地域においては、今後の議論の結果として導かれる共通基準に、独自の価値や多様性という色合いを加えるチャンスもある。直接関わりたいと考えるかどうかは任意だが、皆で成長し続けたいと思うのであれば、参加することは必須だと私たちは信じている。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにサイバー・コミュニケーションズが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)
日本のインターネット広告誕生の1996年に設立。以来、電通グループのデジタル広告関連事業者として、デジタルマーケティング全般のサービスを展開、数百の媒体社・広告会社との取引と共に、業界を牽引し、最先端のマーケティングサービスを通じて、クライアントと ユーザーのコミュニケーションを実現している。