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パブリッシャーとファーストパーティデータ:現在とこれから

今回の特集記事では、ユーロニュース(Euronews)のソフィー・トス氏(プログラマティックおよびアドテク責任者)とドゥク・グエン氏(コンサルタント)が、弁護士でIDウォード(ID Ward)の最高経営責任者(CEO)でもあるマティア・フォッシ博士に相談する形で、パブリッシャーのファーストパーティデータを効果的に管理、活用するための要点について議論する。

 

さらに、シルバーブレット(Silverbullet)のマネージングディレクター、ベン・チバース氏やパーミューティブ(Permutive)のEMEA地域カスタマーサクセス責任者、モニカ・ゲオルギエバ氏の知見も紹介する。

 

パブリッシャー、特にログインユーザーデータを保有していないパブリッシャーは、どのようにファーストパーティ資産を強化していけるだろうか?

 

まず、次に挙げる3つの主要なトピックを覚えておいてほしい。関連性、エンゲージメント、適応性の3つだ。

 

パブリッシャーは、オーガニックチャネルと有料チャネルの間でコンテンツを転用しあうことで、サイト全体のユーザーエンゲージメントを促進する必要がある。プライバシーファーストのエコシステムの中で、オーディエンスが関連性のある魅力的なコンテンツを見つけるためには、コンテンツを強化し、オーガニックの来訪者データを共有することが重要となる。

 

また、パブリッシャーがファーストパーティデータを収集、分析、活用するには、強力なデータ戦略も不可欠だ。データチームがデータを使ってユーザーをコホートに分類することで、パブリッシャーにとって重要なオーディエンスが特定でき、意味あるユーザーターゲティングも実現する。ファーストパーティデータは今後の広告の基礎となる要素ではあるが、それだけではウォールドガーデンのデータプールに対抗することはできない。

 

パブリッシャーのデータをより魅力的なものにするためには、テクノロジーの力を借りてオーディエンスをさらに拡大する必要がある。コンテクスチュアルインテリジェンス、ビューアビリティ、ゼロパーティデータツールなどは、ファーストパーティデータをさらに充実させる方法の一例だ。

 

パブリッシャーのファーストパーティデータは、ブランドやエージェンシーにとって、プライバシー対応に起因するエコシステムの変化に適応するうえでどれくらい重要か?

 

極めて重要だ。

 

グーグルのデバイスにサードパーティCookieがない未来を想像しようとするなら、アップルの先例を思い出すべきだろう。当然ながら、この二つの巨大プラットフォームは個々のパブリッシャーほど脆弱ではない。なぜか? 答えは単純だ。これらの巨大プラットフォームは、より豊かで幅広いファーストパーティデータとオーディエンスを保有しているからだ。

 

パブリッシャーが、価値の高いアップルのオーディエンスをマネタイズできる機会はますます失われつつある。パブリッシャーは、ブランドが、プライバシー重視の匿名化された方法でパブリッシャーのファーストパーティデータを突合してオーディエンスを共有し、ターゲティングできるようにするために、データクリーンルームのようなソリューションの導入も検討すべきだろう。

 

どうすればパブリッシャーはファーストパーティデータを効果的に管理できるだろうか? データアーキテクチャの大幅な変更は必要か?

 

ほとんどのデータマネジメントプラットフォーム(DMP)はファーストパーティCookieとサードパーティCookieに依存している。ChromeブラウザのサードパーティCookieが廃止されたら、DMPはこの新しい常識に適応する必要がある。IDプロバイダーと手を組み、データ戦略を強化する次世代代替ソリューションを調査し、複数の事業者の匿名データを組み合わせて、ファーストパーティオーディエンスの拡充に取り組まなければならない。

 

ただし、ここで強調しておくべきことがある。パブリッシャーは「旧世界」ではIDを配布していたという事実だ。「新世界」では、適切な技術パートナーと提携して、他のパブリッシャーとこのIDを共有することで、インベントリ強化の対価を得る機会となる。もう一つの選択肢は、(ドメイン外の)他社サイトでオーディエンスを拡大することだ。しかし、どちらの方法をとったとしても、重要なのは、パブリッシャーが主要な資産と価格をコントロールし続けるということだ。

 

結果的に、パブリッシャーは顧客データプラットフォーム(CDP)やIDベースのソリューションを使って、ユーザーの統合プロフィールを構築し、サイト外のユーザーをターゲティングするだけでなく、ユーザーにパーソナライズされた体験も提供できるようになった。

 

将来的には、他の技術と容易に統合できるプライバシーに配慮した第2世代のIDソリューションだけが生き残り、市場に残るプレイヤーの数は確実に減っていくだろう。つまり、エンゲージメントとマネタイズは両立させる必要があるということだ。

 

シルバーブレットのマネージングディレクター、ベン・チバース氏は次のように補足する。「サードパーティCookieの廃止によって、パブリッシャーは、エンゲージメントに根差したファーストパーティエコシステムに関心を向けてもらえるようになった。この本物のIDをベースにした広告スキームへの移行は、パブリッシャーにとって大きなチャンスだ」

 

「シンプルに考えるなら、パブリッシャーの商品はコンテンツだ。パブリッシャーが、サブスクリプションでコンテンツのアクセス権を販売しない限り、広告が唯一の収益源となる。パブリッシャーは広告バリューチェーンにファーストパーティデータを賢く組み込めば、1案件当たりの広告費を増やすことができる。そのため、消費者をログインに導くことは、ほぼ間違いなく、パブリッシャーの売上を増やすことになる。しかも、このモデルを採用したパブリッシャーは、限定コンテンツへのアクセスを制限したり、割引やコンテストの参加権を提供したり、コンテンツをパーソナライズしたり、そして多くの場合、表示される広告の数を制限したりと、消費者に真の価値交換を示すことができる」

 

「しかし、すべてのパブリッシャーがこの道を選ぶわけではない。多くのパブリッシャーはユーザーにログインを求めることなく、無料でコンテンツを表示し続けることを選択するだろう。この方法はマスマーケティングには最適だ」

 

「どちらの道を選ぶとしても、重要なのは、データの流れと管理がうまく機能するよう、データと技術アーキテクチャをカバーする戦略を構築することだ。例えば、ファーストパーティデータにアクセスしたり、ファーストパーティデータの量を増やしたりしたい場合、パブリッシャーはCDPなどの技術の導入を検討すべきだ。同様に、パーソナライズが消費者を引きつけておくための鍵を握るのであれば、パーソナライゼーションやリコメンデーションツールが有用だろう」

 

「パブリッシャーのユースケースは個々の目的によって大きく異なるため、ひとくくりにできないが、プライバシーファーストのポストCookie時代に突入した今、パブリッシャーと消費者、両者にとって価値のあるオーダーメイドの戦略を見極めることがとても重要だ」

 

パブリッシャーがファーストパーティデータを活用し、効果的に収益化するには、他の業界関係者とどう連携すればよいだろうか?

 

さまざまなIDソリューションとパートナーシップを結んだり、パブリッシャー同士のアライアンスを結成したり、他のパブリッシャーが提供するIDソリューションを利用したりすることで、現行の規則を順守しながら、それらのデータをCDPに反映させられる。データの移動(提供)には慎重な扱いを必要とするため、データ関連法規を専門とする弁護士にも相談した方がいいだろう。

 

リターゲティングは限定的となり、CDPと従来のIDソリューションの組み合わせでのみ機能する。新世代のIDソリューションも、パブリッシャーのデータをクロスドメインベースで使用することに変わりはないが、それをセグメントレベルで行うことになるからだ。

 

もともとログイン技術を使用していて、データ収集の同意を得ているパブリッシャーは、強力な決定論的データプールを構築できており、これを基にデータチームが類推モデルを構築することもできる。しかし、このアプローチがすべてのケースに当てはまるわけではない。ゼロパーティデータを収集し、それを基に戦略や提案を構築することも可能だ。何より、同意管理プラットフォーム(CMP)の整備とオーディエンスの正当な価値交換への理解が、これらすべての技術の屋台骨となる。

 

パーミューティブのEMEA地域カスタマーサクセス責任者、モニカ・ゲオルギエバ氏は次のように補足する。「プライバシーはメディアの売買に劇的な変化をもたらしている。パブリッシャーと広告主がプライバシーファーストのデジタル広告エコシステムで成功を収め、グローバルなプライバシー規制やブラウザの仕様変更の影響を受けないためには、3つの考慮事項がある。それは、ファーストパーティデータ、顧客との直接的な関係、そしてプライバシーファーストのデジタルインフラだ」

 

「サードパーティデータが消えゆく世界では、ファーストパーティデータが新しいメディア通貨になる。しかし、パブリッシャーと広告主はファーストパーティデータを可視化し、接続し、活用するための適切な技術を必要としている。パブリッシャーは関連性の高いオーディエンスを構築するために、登録ユーザーか非登録ユーザーかを問わず、ファーストパーティデータのソースについてすべてを把握する必要があるからだ。そして、広告主は、利用可能なファーストパーティデータを監査し、それを活用する方法を理解し、価値を生み出すパブリッシャーのオーディエンスを発見する必要がある」

 

「そのためには、パブリッシャーと広告主がより緊密な関係を築かなければならない。アドテクは仲介者ではなくイネーブラー(成功・目的達成を可能にする組織)として機能し、パブリッシャーは重要な教師的役割を果たすことになる。ビジネス・インサイダー(Business Insider)、フューチャー(Future)、ボックス・メディア(Vox Media)などのパブリッシャーは、ファーストパーティデータからビジネスを構築し、同意を得たオーディエンスを広告主のためにパッケージ化するプラットフォームを立ち上げたり、サードパーティデータの消滅に対するプライバシーに配慮した革新的なソリューションを提供したりしている。広告主とそのエージェンシーがパブリッシャーのオーディエンスを発見してテストしたり、ファーストパーティデータのキャンペーンを開始したりするとき、パブリッシャーは戦略的アドバイザーの役割を果たす有利な立場にある」

 

「プライバシーファーストのデジタル広告のチャンスをつかむには、業界は安定したサステナブルな基盤、つまり、回避手段のないプライバシーファーストのインフラを再構築する必要がある。これが実現すれば、パブリッシャーと広告主はグローバルな規模で安全につながることができる。データの流出はなくなり、ファーストパーティデータのオーディエンスに対する大規模なパーソナライズ広告が可能になり、広告は繁栄を続けられるだろう」

 

プライバシーファーストの時代は、パブリッシャーと他のプレイヤーの関係をどのように再定義するのだろうか?

 

以下の4分野にまとめることができる:

1.コラボレーション:統一されたプロフィールとセグメントの定義の構築。ユーザーの嗜好をモニターおよび分析し、ユーザーのコホート(集団)を作成する。ここで重要なのはスケーラビリティだ。パブリッシャーは、このまたとないチャンスを生かすために、競争ではなくコラボレーションを目指すべきだ。大手金融機関がどのようにそれを行い、成功を収めたのかを見ればわかるだろう。

 

2.マインドセットの変化、集合データから可能な限り多くの価値を引き出すためのシンプルな方法、パブリッシャーに有利に働くクリティカルマス:これらはすべて市場を効果的にサプライ主導型に導く。パブリッシャーにはビジョンが必要だ!

 

3.データハブ/テクノロジーを利用したデータおよび情報の共有。

 

4. プライバシー、ユーザーファーストのエコシステム:最終的には、健全なポストCookie環境を構築しなければならない。マーケターがオーディエンスに対する明確なプライバシー基準と価値交換を備え、関連性とパフォーマンスの高いアクティベーションによって、デマンドとサプライの懸け橋になる環境だ。これはプライバシーファーストかつユーザー中心の方法で行われなければならない。パブリッシャーはデマンドサイドとより緊密に連携し、そのニーズを満たす製品をつくる必要がある。

 

もはや、サプライ対デマンドといった問題ではなく、いかに顧客ファーストに考えられるかという問題なのだ。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS
2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。