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ニュースメディアはブランドセーフティを損なわない

激動の2020年は、21世紀の様々なシステムの課題が浮き彫りになった年だった。そしてアドテク業界にとって、世界的なパンデミックの中、顕在化してきた最大のハードルは、ブランドの安全性と適合性を判断するためのアルゴリズムの限界だった。デンマークのメディア企業JP/Politikens Husのプロダクト開発兼インサイト部門責任者のThomas Lue Lytzen氏と、デジタル広告セールス兼テクノロジー部門ディレクターのSigne Skarequist氏は、ExchangeWireに特別寄稿し、ブランドセーフティを確保するためには人間の手がいまだに欠かせない理由を語った。

 

Facebook上の陰謀論や、YouTube上の過激なビデオ、あるいは、あなたが航空会社であるなら航空機事故を報じるニュース記事―。これらは確かに、ブランドが広告を打つ際に掲載されることを避けるべきコンテンツだ。それでは、ニュースメディアも避けるべきなのだろうか。そう考える向きもあるようだが、果たして本当にそうだろうか。

 

JP/Politikens Husのプロダクト開発/インサイト部門責任者Thomas Lue Lytzen氏

現実は、ときに過酷で残酷だ。しかし同時にすばらしく、何かを再確認させてくれるものでもある。それはニュースメディアも同じだ。私たちはよくも悪くも現実と向き合って行かなければならない。そしてその現実を直視する視点こそ、ユーザーがメディアに期待していることであり、人々が我々のメディアや競合サイトにこぞってアクセスしてくる理由である。JP/Politikens Hus傘下の「ekstrabladet.dk」には、日々100万人のユーザーが訪れる。デンマーク総人口の1/5近くの人間が、政治や戦争、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、サッカー、ゴシップ、そしてiPhoneのニュースを読もうとサイトを開く。それは、ユーザーが現実を恐れてはいないからだ。ところが、エージェンシーや広告主は、世界で発生している出来事に対して、強い恐怖心を抱いているようだ。

 

どうしてそんなことが言えるのか。我々の手元には、プログラマティックバイイングでGoogleのアドテクを利用している広告主が、ekstrabladet.dkのインベントリーにアクセスすることが困難になっていることを示す事実や数値があるからだ。たしかに、 ekstrabladet.dkは大衆向けのタブロイドメディアだ。主に最新ニュースやスポーツ、有名人や王室のゴシップを取り上げ、一面にビキニ姿のモデルを掲載することもあるが、実際にはかなり慎みのある編集作業を心がけている。それはGoogleを喜ばせるためではない。リーチを広げてekstrabladet.dkを新しいオーディエンスのもとに届けたいからだ。にもかかわらず、そうした努力が無駄な作業のように思えるのは、Googleがブロックするコンテンツの多くがごく普通のニュースにすぎないためである。ときには、見出しに含まれているたった1つの単語のせいで、メディアのフロントページが丸ごとブロックされてしまうことすらある。

 

裁き、審判を下すアルゴリズム

 

JP/Politikens Husのデジタル広告セールス/テクノロジー部門ディレクター、Signe Skarequist氏

広告を出稿する際に、良かれと思ってブランドセーフティ用の標準フィルターを有効にしてしまうと、自ら手にしていた権限やコントロールはすべて、米Googleの巨大な検閲の手に渡ってしまう。そうなったら最後、どのニュースが安全でどのニュースが有害なのかを見極める最終的な決定権はGoogleのものとなる。その結果、ベテラン記者が執筆、編集した本物の報道記事の横に表示されるはずだった広告は、間違った形でブロックされ、広告キャンペーンが誰にも見てもらえず、リーチがとれなくなるかもしれない。それどころか、最悪のシナリオではロングテールのサイトに表示されるニッチな広告が掲載されるかもしれない。それで本当にブランドが保護できているのだろうか。

 

では、Googleはなぜそんなことをするのだろうか。しかも、そうした行為を広告主やメディアに隠すのはなぜだろう。パブリッシャー側が、どの広告がどういった理由でブロックされているのかを教えてもらえないのはなぜだろう。Googleに真相を正しても、大した答えは返ってこない。言うまでもなく、Googleのアルゴリズムが何を取り締まっているのかは「企業秘密」だからだ。Googleに言わせれば、取り締まるのは誰かを守るためだという。しかし、その返答にはさらにこう踏み込むことができる。その誰かとは誰で、何から守られるべきなのか、と。その誰かは広告主ではありえない。広告主は見たところ、自らのブランドを守る力を十分に備えているからだ。

 

我々は実際、相当数の広告主に対し、ニュースサイトを広告掲載先から意図的に排除したいかどうかを尋ねたことがある。そうして戻ってきた返事は、断固たる「ノー」だった。とはいえ、広告主は十分な情報を持っていないため、結局は掲載先からニュースサイトが弾かれる結果となっている。では、そうなるのは誰のせいなのか。責任の一端は、先述した広告検閲だろう。検閲は、ブランドセーフティの定義について確固たる姿勢をとっていて、それは主に米国の文化規範に沿ったものとなっている。そしてその仕様は、キーワードや類似したパラメータがベースになっており、言い回しについても内容についても一切考慮はしてくれない。

 

slut」は本当に「slut(ふしだらな女)」を意味するのか

 

このようにして、中東和平が成立する可能性を報じた記事は「死と破壊」を扱う記事となる。英王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃のゴシップ記事は、2人の公式称号がサセックス公爵とサセックス公爵夫人だったため「(サ)セックス」に関する記事だとみなされてしまう(適当にプログラミングされたアルゴリズムが原因だ)。こうしたことについて、パブリッシャーがそれほど腹立たしさを感じていなければ、いわゆる「ブランド・セーフティ・テクノロジー」(ブランドにおける社会的責任を外部に委託する広告主が増加し、このテクノロジーを利用している)がデンマーク語の見出しをとんでもない英語に翻訳していても、笑ってすますこともできただろう。たしかに、デンマーク語の「slut」(「終わり」という意味)の語義と、それと同じスペルの英単語の語義(ふしだらな女)をともに読み取って、正しく分類するのは難しいかもしれないが。。。

 

世界は時に残酷だが、読者はそれを承知しているし、そこから目を背けたりもしない。むしろ、その残酷な世界を自らのこととしてとらえている。リアリティ番組「パラダイス・ホテル」の泥沼化した人間関係に関する記事や動画、犯罪組織のボス逮捕やシリア難民について伝える報道記事の横に広告が表示されたからといって、広告主を非難することなどほとんどないだろう。そうした報道の横に自動車のバナー広告が掲載されていても、読者が実際に新車購入を検討しているのであれば、その記事の内容によって買うか否かの決定が左右されることはないと言って間違いない。

 

実際、Integral Ad Scienceが実施した調査では、ユーザーの78%が、新型コロナウイルス関連ニュース記事の横に広告が表示されても気にしないことが明らかになっている。たとえ、その記事が明らかに病気や死を取り上げた内容であったとしても、である。

 

もしあなたが現実を恐れていないのであれば、自分のブランドのコントロール権をできるだけ早く取り戻したほうがいい。少なくともテクノロジーのみを頼りにしてはいけない。フィルターを解除し、自分の常識を信じてそれに従おう(もちろん信頼のおけるエージェンシーやパブリッシャーと密に協調することも忘れてはならない)。そのために、我々はJP/Politikens Hus傘下のサイトに広告出稿する広告主たちに対し、質の高い記事を提供することを約束した。ブランドセーフティがその約束の一部であるのは言うまでもない。

 

https://jppol.dk/en/our-promise-of-quality-to-advertisers/

JP/Politikens Husはここで、その理念とともに、公約をいかに守っていくかについても明言している。

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

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2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。