「デジタル広告業界の課題はそう簡単には尽きない」―「広告主等向けガイダンス」を発表した総務省に聞く[インタビュー]
総務省が発表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」に対し、様々な市場関係者がプレスリリース等を通じて賛同を示し、また事あるごとに本ガイダンスに言及した上でさらなる問題提起を行っている。本ガイダンスを作成するに至った経緯や今後の展開について、総務省 情報流通行政局の寺本邦仁子参事官に話を聞いた。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊) ガイダンス発表の経緯 ―総務省は今年6月に「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表しました。デジタル広告取引には広告プラットフォーム、広告会社、媒体社を始めとして様々なステークホルダーが存在しますが、本ガイダンスを「広告主等向け」としたのはなぜですか。 まず大前提として、広告をどの媒体に掲載するかは表現の自由及び営業の自由の下で、広告主において判断されるべきです。しかしながら、デジタル広告においては、その仕組みを理解した上で適切な対策を実施しなければ、そもそもその広告主でさえも自ら出稿した広告がオンライン上のどの場所にどのように表示されているかを把握することができません。 その結果として、偽・誤情報が掲載または著作物が違法にアップロードされたウェブサイトやアプリに自社の広告が表示されることで、深刻なブランド毀損をもたらしたり、広告費が不正に詐取されるといった広告費の流出などのリスクにさらされる可能性があります。広告主には、こうした状況を経営上の課題として認識した上で然るべき対策を取ることの重要性を知ってもらい、既に対応を行っている広告主においては自らの対応状況を再確認する用途として、これから対応を開始したいと考えている広告主においては今後の対策を実行へと移すための参考となるよう、総務省が開催した「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」(諸課題検)の「デジタル広告ワーキンググループ」(デジタル広告WG)での検討内容を基に本ガイダンスを策定しました。 ただし、デジタル広告取引には、広告主や広告媒体社に加えて、従来型の広告代理店さらにはデジタルマーケティング事業者、電子商取引運営代行事業者、Webコンサルティング事業者を始めとする様々な関連事業者が関与しています。本ガイダンスにおいて「デジタル広告取扱事業者」と総称するこれらの事業者等にも、参考にしていただけたらと考えています。 ―本ガイダンスの公表前にその案に対する意見募集を行ったところ、141件に及ぶ意見が提出されました。 本ガイダンスの中身や趣旨をご理解いただいた上で、これほど多くのご意見が寄せられ大変ありがたく思っています。また国内の広告主が多く加盟する団体から、「企業の経営層にも理解と関与を促す視点が盛り込まれている」と言及いただいたこともうれしく思いました。複数の事業者団体から、本ガイダンスの普及啓発に向けて取り組んでいきたいとのお言葉もいただいており、心強く感じています。 リスクを把握していない広告主はまだ多い ―本ガイダンスは、民間企業だけでなく、広告を出稿する官公庁に対しても注意を喚起しています。 本ガイダンスの内容を検討したデジタル広告WGで公表した調査によると、資本金規模が「5,000万円超」の広告主は8割以上がブランドセーフティ対策を実施しているのに対し、「5,000万円以下」では5割を切ります。 こうした現状に鑑みると、例えば、アドフラウドに関して調査を実施した自治体もあるとは聞いていますが、官公庁も含む大半の広告主が、デジタル広告に関する具体的なリスクや対処法を十分に認識していない可能性が高いため、本ガイダンスの周知を図ることで、デジタル広告を巡る課題について喚起していきたいと考えています。 またあわせて、総務省としては、今後、地方自治体を対象とした実態調査も進めていきながら状況把握に努め、本ガイダンスの普及啓発に向けた具体的な取り組みを実施していく予定です。 ―日本全国に点在する中小企業や地方自治体に対して、具体的にはどのように本ガイダンスの普及啓発を行っていく予定ですか。 従来の広報活動の枠組みを通じてガイダンスを発表するだけでは、なかなか世間の目に届かないと思っています。総務省が各地方に設けている出先機関を活用したいとは思いますが、こうした拠点は、広告業界はもちろんのこと、広告主となりうる様々な幅広い業種の企業や地方自治体の担当部署とはこれまでお付き合いは少なかったというのが正直なところです。 他省庁や関係団体の協力に加えて、今回のようなメディア取材への対応やイベント・勉強会などにも積極的にお伺いし、広く世の中に知っていただけるよう働きかけていきたいと考えています。 ―本ガイダンスは、広告主等に対し、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)等の専門性の高い経営層の整備を含めた体制構築が望ましいと提議しています。一方で、CMOという職務を用意している日本企業は極めて少数ではないでしょうか。 CMOが象徴する専門性の高い経営層の関与は考え得る対策の一つとして示したに過ぎません。広告を出稿する企業の経営層が、デジタル広告に関わる諸課題を技術的な面も含めてすべて詳細に把握する必要は必ずしもないと思っていますが、特有のリスクと対策が存在するということについては本ガイダンス等を通じて理解を深めていただけたらと思います。そして残念ながら、このリスクについての認識自体が乏しいというのが現状であると受け止めています。 ―本ガイダンスは企業の社会的責任(CSR)の観点からの配慮の必要性も指摘しています。 デジタル広告の広告費は、日本の広告費全体の約5割を占めるまでに市場規模が拡大しており、社会的な影響力が非常に強くなってきたと捉えています。つまり、単に広告を通じて商品が売れたかどうかや、広告単価が高いまたは安いというだけの話ではもはやなくなっているということです。それなりの広告費を通じて、それなりの社会的影響を及ぼしていることについて、デジタル広告を配信する主体としての広告主の経営者の意識改革につながっていくことを期待しています。 ―CMOやCSRは大企業により馴染みがある制度なり概念だと思うのですが、中小企業には異なる対応が必要だと思いますか。 本ガイダンス自体は、事業規模や業態及び業種を限定せず、広く活用いただくことを想定しています。とりわけデジタル広告は個人単位でも気軽に出稿できることが特徴の一つでもありますので、多くの方にデジタル広告特有のリスクを認識していただきたいと思っています。 ただし、リスク対策については、ブランド毀損による被害そして周囲の社会環境に与える影響が比較的大きい大企業の方が総じて早く着手するでしょう。こうした大企業が先導的な役割を果たすことで、業界全体の認識が変化していくことを期待しています。 ガイダンス発表後の展開 ―本ガイダンス(案)に対する意見募集結果の中には、「アテンション計測の有用性」への言及がありました。本ガイダンスの内容を議論した諸課題検またはデジタル広告WGで、アテンション計測を今後取り上げていく予定はありますか。 諸課題検は、9月10日に本ガイダンスの策定を含む検討内容をまとめた報告書を発表しました。報告書は、本ガイダンスの普及啓発や関連事業者のモニタリングを行っていくことを掲げています。 これを受け、総務省としては、こうした取り組みを通じて市場動向を注視しつつ、次の手を検討していく予定です。社会的状況の変化と技術の進歩に応じて、すべきこととできることが変わってくると思っています。 ―デジタル広告の課題全般に関する総務省としての今後の活動予定をお聞かせください。 9月10日発表の報告書でも提言いただいたとおり、本ガイダンスの普及啓発活動を進めていくほか、今後もデジタル広告の流通を巡る諸課題に対応すべく事業者のモニタリングを進めていく予定です。
【LIVE BOARD調査】2025年のデジタルサイネージ広告市場規模は1,110億円の見通し、2030年には1,647億円と予測
株式会社 LIVE BOARDは、株式会社デジタルインファクトと共同で、株式会社CARTA HOLDINGSの監修のもと、デジタルサイネージ広告市場に関する調査を実施した。 デジタルサイネージ広告市場は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出及び移動規制などの逆風を乗り越え、現在も市場全体の成長が続いている。また、街中や店内などリアルな時間・場所で視聴者に接触し、臨場感のあるクリエイティブを届けられるデジタルサイネージ広告への需要も高まっており、市場の成長を後押ししている。 渋谷、原宿、新宿といった人気エリアのビルや駅構内に設置されているデジタルサイネージ広告の需要は引き続き高まっている。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催に合わせて、大阪・関西エリアでのデジタルサイネージの整備が加速し、プロモーションを強化していきたいと考えていた多くの広告主からの需要にも応えている。 注目市場の一つとされてきたリテールメディアでは、先行してデジタルサイネージの設置が続けられて来た総合スーパー(GMS)やスーパーマーケット(SM)、ドラッグストアだけでなく、大手コンビニエンスストアチェーンが全国10,000店舗以上にサイネージを導入するなど、広告配信面数の拡大が一気に進んだ。また、異なる事業者間同士の連携やデータ活用の検討や実証が進むなど、今後の市場成長に大きな期待が寄せられている。 大手鉄道事業者が新たにデジタルOOH広告(OOH: Out-of-Home)のデータドリブンな広告運用を可能とするマーケットプレイスを立ち上げるなど、プログラマティック広告取引への関心も引き続き高まっている。DSP/SSPとの接続が増えていくことにより、海外の広告代理店やウェブ広告代理店など、新たな販路が拡大されていくと共に、デジタルサイネージの稼働率が上がるものと見られている。 2025年9月にはOOH広告の効果測定と指標の共通化を推進するため、広告主・広告会社・媒体事業社など広告業界全体を対象とした業界横断組織として「一般社団法人 日本OOHメジャメント協会(JOAA)」が設立された。本協会は、OOH広告の価値を可視化するための業界共通指標の開発・提供を通じて、広告主が安心してOOH広告を活用できる環境を整備することを目的としている。海外市場ではメジャメント指標の導入による広告効果の可視化で市場成長が後押しされており、同様の効果が日本市場にももたらされることに期待を示す声も挙がっている。 市場関係者の間では、デジタルサイネージ広告市場全体が今後も安定成長を続けていくという共通認識が生まれている。本調査ではこうした見解に基づき、2030年のデジタルサイネージ広告市場規模は2025年比148%増の1,647億円に達すると予測する。 セグメント別の動向は以下の通り。 ■交通 鉄道車両や駅施設、タクシー、バス、空港、航空機などが含まれる。 駅施設ではインパクトのある表現やイマーシブな空間演出に長けている媒体への需要が高まっている。デジタルサイネージ端末の設置や商品開発も継続して進んでいくものと見られるが、今後は高い広告需要が見込めるエリアに絞ったうえでの投資が進められていくものと見られる。 首都圏での媒体取り付けがほぼ完了したとされるタクシー広告では、認知効果を高めるためにタブレットで放映される独自の番組コンテンツの開発に取り組むととともに、広告主をスポンサーとした番組タイアップ企画にも積極的に取り組むなど、新たな広告商品の提供も進んでいる。 空港においては訪日外国人旅行者数が急増しており、その需要に応える形で国際線のデジタルサイネージでの満稿が続いてきた。また、国内線で周遊する訪日外国人旅行者も増えており、地方空港でもインバウンドによる一定の効果が表れた。 ■商業施設・店舗 スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストア、薬局をはじめとする小売店やショッピングモール、美容室、飲食店などが含まれる。 デジタルサイネージ端末の設置が進む一方で、データ連携や活用、効果測定が引き続きの課題として残されており、様々な事業者が参入している。また、これまでは店頭に置いてある商品の販売を促進させていくために広告が出稿されてきましたが、大規模なデジタルサイネージ端末の設置が進んだことにより、車など店舗への非配荷の商品の広告出稿がなされるなど、一部では認知メディアとしての活用も進んでいる。今後も様々なビジネスモデルが確立されていくなかで、特定商品の購入を対象とした販促費だけではなく、マーケティング費や広告宣伝費といった新たな広告主予算からの投資がされていくことに、媒体事業者からは大きな期待が寄せられている。 ■屋外(大型ビジョン) 様々な屋外空間に取り付けられるデジタルサイネージでは、渋谷や原宿といった人気地区の駅前屋外大型ビジョンが引き続き好調であり、加えて大阪・関西万博に合わせたデジタルサイネージの設置も進み、大阪・梅田といった関西地域でのデジタルサイネージの人気も上がってきた。屋外ビジョンではSNSでの話題化など数値だけでは図ることができない、デジタルサイネージならではのインパクトのある表現や媒体特性が高く評価されてきたが、その一方で、人気エリアのデジタルサイネージであっても、必ずしも高い評価を得られるわけではないとの声も挙がっており、広告主ニーズを満たすことの出来る広告商品企画・開発がより求められる市場環境になっている。 メジャメントの導入により新たな広告指標が導入されることで、海外の広告代理店やウェブ広告代理店などを通じて、今までデジタルサイネージ広告に出稿をしていなかった新たな広告主の増加が見込まれ、市場の成長を後押しすると考えられる。また、新たな業界共通の広告指標が導入されたデジタルOOHが、視聴率やクリック率などの比較可能な指標で取引が進められてきたテレビ広告やデジタル広告でのプロモーションに組み込みやすくなることで、より多くのプロモーションに活用されていくことに期待する声も上がった。 ■その他 地方自治体の建物内や、商業ビル及び居住用マンションのエレベーター、映画館(シネアド)などが含まれる。 映画館では、ハリウッドでのストライキにより公開延期とされていた大型作品が放映されたほか、人気アニメの新作が劇場公開され、市場にも大きな影響を与えた。そのほか、ゴルフカートやヘリコプター、公衆トイレ、喫煙所、銭湯・サウナなど、生活者の様々なモーメントを捉えることが出来る場所で、デジタルサイネージの新規媒体設置が着実に進み、広告配信が実施されている。
透明で健全なデジタル広告取引の実現を目指して-業界有志がAPTI(Advertisers and Publishers Transparency Initiative)を設立
デジタル広告業界の課題を現場から支援することを目的に、長年この業界に関わってきた業界有志が「一般社団法人 Advertisers and Publishers Transparency Initiative(略称 APTI, アプティ)」を立ち上げた。 広告主とパブリッシャーとの対話の場を提供し、また広告取引の「透明性」の実現を目指し、「情報共有と可視化/相互支援と実践の場づくり/つながりと信頼の醸成」を活動の柱に掲げて、現場の実装支援を行っていく。 そしてまずは、勉強会・ワークショップ、実装ガイド・診断テンプレートの整備など、実務に直結する取り組みを順次具体化していく予定とのことだ。 設立発起人の、株式会社PIER1 代表取締役 宮一良彦氏、アタラ株式会社 代表取締役CEO杉原 剛氏、日本アドバタイザーズ協会 事務局次長 林 博史氏に、設立の背景や想いを語っていただいた。 (聞き手:ExchangeWireJAPAN 編集部 野下智之) - 宮一良彦氏:株式会社PIER1 代表取締役(上部写真:中央) Introductory Member, IAB Tech Lab Project Fellow, JIAA ソフトウェアエンジニアリング、インターネット広告とプライバシーについての深い経験を持つ。近年は、オープンインターネットの透明性にフォーカスし、サービスの開発や啓発活動を行う。 - 杉原 剛氏:アタラ株式会社 代表取締役CEO(上部写真:左) KDDI株式会社、インテル株式会社を経て、オーバーチュア株式会社(現Yahoo!検索広告)、Google日本法人で広告営業戦略を担当。企業の成長を後押ししながら、マーケティングの力で人々の暮らしや社会全体を良い方向へ導くコンサルティング会社を目指し、2009年にアタラを創業。最新のグローバル情報発信や人材育成にも力を入れながら、マーケティングの可能性を広げ、よりよい社会の実現に貢献していきたいと考えている。海外の最新情報の発信・講演・執筆も多数。 - 林 博史氏:日本アドバタイザーズ協会 事務局次長(上部写真:右) 出版社・システム開発会社・個人事業主を経て、2009年より公益社団法人日本アドバタイザーズ協会に入職。一貫してデジタル領域におけるマーケティングコミュニケーションの研究活動を担当。300社以上の会員企業のマーケティング活動のための知見・最新事例共有の場を運営している。 透明性の再定義:実装主導で現場を支える -自己紹介をお願いします。 宮一氏:宮一と申します。インターネット広告業界には30年ほど関わっております。どちらかというと技術畑を中心に歩んできて、JIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)でガイドラインを作るためのお手伝いをしたり、IABの企画・仕様を自分で翻訳して公開したりということを続けてきました。現場の皆さんが、”手を動かせる状態”に落とし込むことを意識しておりまして、標準やベストプラクティスを単に紹介するだけでなく、どう適用するのかまで含めて伝えるようにしてきました。 杉原氏:アタラの代表、杉原と申します。よろしくお願いします。僕も宮一さんと同じくらい、気づけば30年近くデジタル広告に関わってきました。プラットフォームを2社経験したあとに、アタラを創業して17年目になります。キャリアの位置づけで言うと、宮一さんがサプライ寄り・技術寄りだとすれば、私はビジネスサイド=デマンドサイドの支援が中心です。広告主の皆さんの課題をどう現場実装に落とし込むか、というところにずっと重心を置いてきました。 林氏:日本アドバタイザーズ協会の林と申します。私はマーケティングの実務経験はありませんが、デジタル領域の実務者が集まるコミュニティの運営に携わっています。現場で何が起きているのかを受け止めて、マネジメント層にも伝わる言葉に整えるという、いわば橋渡し役を意識して活動しています。よろしくお願いします。 -APTI設立の背景についてお聞かせください。 宮一氏:私は、2017年頃にads.txtが出てきた頃から、IAB Tech Labの仕様を翻訳・紹介しつつ、日本のサイトの実装状況を自分でクロールしてチェックする、ということを細々とやってきました。2025年に入って、個人的に作っていたChrome拡張(個人開発の検証ツール)を拡張して、ads.txt と sellers.json をクロスチェックできるようにしたんですね。 それで、最近のWebサイトを改めて見てみたら、基礎がまだ整っていないとか、記載の不整合が残っている、といったケースが思っていたより多かった、という印象を持ちました。 ここで言う“未整備”は、単に「部屋が散らかっているから片づけましょう」という話ではありません。自社の在庫がどの経路で販売・流通されているのかが不透明になりやすい、つまりサプライの価値や信頼に直結する部分が崩れかねない、ということです。そういう問題意識を周りに話し始めたら、「じゃあ勉強会をやりましょう」という方が何人もいて、話を進めるうちに、多くの方が課題は分かっているのに“最初の一歩”が踏み出しにくい状況にあることも見えてきました。 さらに議論を続けると、これはサプライの価値最大化だけでは完結しない、つまり広告主がどこに・どう出すのかまで含んだより大きな課題の一部だと改めて感じました。だからこそ、現場が手を動かせる支援を真ん中に据える必要がある。ここがAPTIの出発点になりました。 杉原氏:私の場合は少し切り口が違っております。インターネットは自由で開かれた情報共有が理念だとずっと思っていて、そこにすごく惹かれて関わってきました。1993年に商用解禁されてから約30年、PCやスマホの発展もあって生活のインフラになりましたよね。 ただ、ここ数年は巨大プラットフォームへの偏重、それに伴う各種規制、情報の偏り、詐欺や不正、さらにAIへの向き合い方といった課題が、同時多発的に起きています。 このままだとオープンインターネットがビジネスとして持続できないんじゃないか、という強い危機感が個人的にありました。デマンド側にもサプライ側にも同じ話をしてみると、「何をどこから改善したらいいか分からない」という声が多い。加えて、プログラマティックが浸透したことで、フェイス・トゥ・フェイスの対話の場が減った。これが情報ギャップを広げる背景になっていると感じています。だから単発のイベントではなく、継続的に情報支援と対話の場を提供する団体が必要だろう、と。そこで宮一さん、林さん、ほか有志の皆さんが賛同してくださって、APTI設立に至りました。 林氏:広告主の現場に近い立場で見ると、効果指標の追求と企業倫理、ユーザーファーストの間に乖離が生まれていると感じます。これはこの領域に限らず、アドフラウドやステマのような出来事においても同様です。 大切なのは、「広告がどこに出て、ユーザーがどう感じ、どう態度変容しているのか」という実態をまず正しく把握することです。そのうえで、それを実務者だけでなくマネジメント層にも分かる言葉で伝える。私はその“伝える・言語化する”橋渡し役として今動くべきだと考え、この設立に参加しています。 - 団体名「APTI」にはどのような意味が込められているのですか? 宮一氏:最初はサプライの透明性をどう整えるか、という視点から団体名を考え始めました。ただ、議論を重ねるなかで、広告主とパブリッシャーの双方が協働することが本質だよね、という整理になりました。そこでAdvertisers and Publishers [...]
ohpner、2030年モビリティ広告市場は75億円に成長と予測―デジタルインファクトと共同調査、ポケモン新作との広告展開も実施
モビリティ広告事業を展開するohpnerは、デジタルインファクトと共同で実施した調査結果を10月15日に公表し、2030年の国内モビリティ広告市場が約75億円に達するとの予測を明らかにした。これは2025年時点と比較して約5倍の規模となり、同領域の急速な成長が見込まれている。 今回発表された市場予測は、屋外を移動する広告媒体、いわゆる「アドトラック」の再定義と拡張を背景としている。調査では、モビリティ広告が都市部を中心に再注目されている現状に加え、広告主側の新たなチャネル開拓ニーズ、公共交通・ライドシェアなどモビリティサービスの普及など、複数の要素をもとに中長期的な成長可能性が算出されたとしている。 また、ohpnerは10月10日、株式会社ポケモンが展開する『ポケットモンスター』シリーズ最新作『Pokémon LEGENDS Z-A(ゼットエー)』の広告掲出を担当したことを発表した。同作品の認知拡大を目的としたプロモーション施策の一環として、都内各地でモビリティ型広告を展開しており、コンテンツIPとモビリティ広告の親和性を示す事例となっている。 ohpner代表取締役の土井健氏は、サイバードやECナビ(現VOYAGE GROUP)にてモバイル広告やSSP「fluct」の立ち上げに従事したほか、運用型テレビCMサービス「テレシー」を創業した経歴を持つ。広告領域における複数の事業開発を手がけてきた同氏は、現在モビリティ広告を次なる成長市場と捉え、その社会実装に向けた事業展開を本格化している。 同社は今後、メディア開発・運用設計・クリエイティブ最適化の三位一体でソリューションを強化し、業界共通基盤の構築にも取り組むとしている。
自由な発想で広がるモビリティ広告の未来
2024年に新たな一歩を踏み出したohpner株式会社 代表取締役 土井健氏と、モビリティサイネージ株式会社 代表取締役 飽浦尚氏。運用型テレビCM市場やタクシー広告市場といった、これまで広告業界の変革を担ってきた二人は、今「モビリティ広告」という新たな領域で注目を集めている。 アドトラックと呼ばれてきたこの市場は、従来「限られた用途」の印象が強かったが、彼らの取り組みにより、その価値と可能性が大きく再定義されつつある。本記事では、二人のこれまでの歩みと現在の挑戦、そしてモビリティ広告が描く未来像を探る。 出会いと新たな挑戦の始まり 土井氏は2024年3月に上場企業であるCARTA HOLDINGS傘下のテレシー代表を退任し、同年11月にohpner社を設立。「グループ企業の代表として果たすべき役割を経て、今は自分の発想で多方面に挑戦できている」と語るように、現在はモビリティ広告をはじめ、ラジオ局への出資や新規事業など幅広い活動を展開している。 一方、飽浦氏は2021年にIRISの取締役COOを退任後、コンサルティング会社を経営しながら広告業界の現場を支え続けてきた。「地に足を着けて事業を進めたい」と考えていたタイミングで土井氏からモビリティ広告ビジネスの可能性を聞き、事業化を決断。2023年3月にモビリティサイネージ社を設立後、現場オペレーションからドライバーの採用・管理まで実務の中枢を担っている。 CARTA HOLDINGSを離れた土井氏と飽浦氏は合流し、一緒にモビリティ広告ビジネスの立ち上げから拡大に向けて奔走する。 土井氏が「僕が売る役割だとしたら、飽浦さんはそれを支える全てを整えてくれている」と評するように、両者の役割は明確に補完し合っている。 “誰もが知る広告”を生み出す力 モビリティ広告の魅力について、土井氏は次のように語る。「例えば、ある有名求人サービスのアドトラックは東京中の誰もが知っている存在です。これはテレビCMに何十億円投じても到達できないレベルの認知度。媒体パワーが証明されているのに、これまで正しく整備されていなかったのです」。 従来のアドトラックは音量や運行ルールの遵守が不十分なケースも多く、ナイトワーク関連の広告が中心だった。二人はここに切り込み、法令を遵守し、広告主が安心して利用できる枠へと再定義。「僕らの役割は、既存の媒体を整備し、上場企業やグローバルIPでも安心して使えるプラットフォームにすることだった」と土井氏は強調する。 “簡単には真似できない”成長の壁 現在、モビリティサイネージ社は10台のアドトラックを保有し、2025年10月時点で翌年2月まで満稿状態が続いている。今後2年で40台体制を目指すが、その道のりは容易ではない。飽浦氏は「ドライバーの採用から車両の改造、車庫の確保まで、複数の要素を同時に解決しなければならない。これをきちんと整備して台数を増やすのは至難の業」と話す。 また、他社の安易な参入に対しても警鐘を鳴らす。「この事業は人命を預かる仕事。ドライバーや車両の管理を徹底しなければ重大事故につながる。覚悟なく参入すべきではない」。現場を知る実務家としての言葉には重みがある。 “次のステージ”へ──台数拡大と未来展望 今後の展望について、土井氏は「東京だけでなく大阪や福岡など地方にも展開し、最終的には自動運転との親和性を活かした新しいモビリティ広告の形を作りたい」と語る。一方、飽浦氏は「40台になっても同じクオリティを維持すること。それが媒体として信頼を得る最大のポイント」と地道な取り組みを重視する。 実際、すでに大手企業の出稿も増えており、プログリット社の長期出稿や、世界的IPであるポケモンの展開も始まっている。土井氏は「僕らが丁寧に整備してきたからこそ、こうしたブランドが安心して出稿してくれている」と自信をのぞかせる。 モビリティ広告が描く未来 広告主のニーズがデジタルに偏りがちな中、街を走るアドトラックが放つ存在感は新鮮で強烈だ。土井氏が自由な発想で切り込み、飽浦氏が地道な実務で支える──この二人のタッグが、モビリティ広告市場を大きく前進させている。今後、40台体制に拡大したとき、この新しい広告メディアはさらに大きな存在感を放つだろう。 土井健氏 最新情報 2025年10月31日(金)発売 オフライン広告革命 GAFAのいない世界から広告を変えていく https://amzn.asia/d/g5LJT6b
オープンインターネット市場に巨大プラットフォームが出現―新生Teadsが掲げる「Elevated Outcomes」とは [インタビュー]
共にオープンインターネット市場を牽引してきたOutbrainがTeadsを買収したとのニュースは、オンライン広告業界を大きく揺るがした。買収完了から6カ月が経過した今、どのような変化が具体化されつつあるのか。来日した新生TeadsのCEOに話を聞いた。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊) 新しい社名が「Teads」となった理由 ―自己紹介をお願いします。 コストマン氏:Outbrainと合併した新体制下のTeadsのCEOを務めるデービッド・コストマンと申します。リーマン・ブラザーズの投資銀行部門におけるインターネット事業の責任者を務めた後に、複数の企業での経営職を経て、7年にわたりOutbrainのCEOとして活動してきました。なお、今年6月まではモバイルゲーム開発エンジンなどを提供するUnityの取締役を兼任していました。 パティソン氏:同じく新生TeadsにおけるAPAC部門のマネージング・ダイレクターを務めるサム・パティソンと申します。電通グループのロンドン及びシンガポール事務所での勤務を経て、合併前のTeadsから参画し、APACや東南アジアで様々な職務を経験しました。今年1月の合併を機に現職に就いています。 ―OutbrainによるTeadsの買収が成立した経緯をお聞かせください。 コストマン氏:Outbrainは長年にわたり、パフォーマンスとブランディングに対応したフルファネルの広告配信サービスを提供するプラットフォームとなることを戦略として掲げてきました。この戦略の一環として、パフォーマンスに強みを持つOutbrainを補完する目的で、ブランディングに優れたTeadsとの合併を実は過去3回にわたり試みていましたが、具体的な取引条件で合意に至ることはありませんでした。 しかしながら、「OutbrainとTeadsの合併によるフルファネル戦略の強化」が優れた戦略であるという考え方自体には疑いはなく、両社の経営陣はその後も統合の道を模索してきました。そして2年前に当時のTeadsの親会社であったAltis社が財務上の理由で同社の売却を決断したことで、今回の買収がようやく成立したのです。 買収を行ったのはOutbrainですが、新会社が打ち出すべきは、ナショナルクライアントや大手広告代理店に対してプレミアムな広告在庫を提供してきたTeadsのブランドであるとの考えに基づき、データとテクノロジーそしてパフォーマンスとブランディングの融合を象徴する新しいロゴを制作した上で、新生Teadsとして新たな出発を図ることになった次第です。 ―買収発表から半年が経過しました。 コストマン氏:2024年8月に買収計画を発表し、資金調達や当局による規制審査を経て、2025年2月に正式に買収を完了しました。買収の完了を発表したその日に各グローバル機能及び各市場のリーダーを決定し、各々のチームの一体化を果たしています。なお、日本オフィスについては、赤坂見附駅前にある旧Teadsの事務所に統合しました。合併によって日本市場では合計60名を超える新体制を構築しています。 現在では、パフォーマンス広告ソリューションである旧Outbrain Amplifyプラットフォームを始めとするOutbrainが開発した一部の直販顧客向けソリューションを除き、広告在庫の主要な買い付け機能はTeads Ad Managerに統合されました。またTeadsの営業担当者は既存顧客に対し、ブランディングだけでなくパフォーマンス広告商品のクロスセルを開始しています。 合言葉は「Elevated Outcomes」 ―旧OutbrainはOnyxというブランディング・プラットフォームを立ち上げたばかりでした。 コストマン氏:Onyxは、Teadsの買収が実現するかどうかまだ不明な状況で、フルファネル戦略の一環としてOutbrainが立ち上げました。しかしながら、ブランディング・プラットフォームとしての性能は、少なくともリリース時点ではTeadsに遠く及ばなかったというのが正直なところです。 記事の末尾に広告が100%視認可能な状態でブランディング広告を配置する独自の仕組みはTeadsに統合した上で引き続き提供していますが、Onyxというブランド自体は既に消滅しています。 Onyxの例が象徴するように、両社の合併を通じて、重複するいくつかのソリューションや取り組みは廃止することで、グローバル規模で総勢500名となったエンジニア人材をAI分野を始めとする強化領域に集中的に投下しています。 ―データ統合はどのように進んでいますか。 コストマン氏:両社がそれぞれ提携するパブリッシャーに設置したコード・オン・ページを通じて得られるデータの統合作業は既に開始しており、広告効果の向上といった成果も出始めています。ただし、プラットフォームの完全な統合にはあと1〜2年を要する見通しです。 パティソン氏:日本市場はとりわけデータの精度に対する関心が高いです。旧Outbrain及び旧Teadsともにパブリッシャーと直接的に連携することで取得できるコンテキストシグナルを保有しているので、これらの統合がさらに進めば非常に強力なデータ基盤が整備できると考えています。 ―新生Teadsが掲げる「ブランドフォーマンス」について詳しく教えてください。 ブランディングとパフォーマンスを組み合わせる能力を意味し、新生Teadsにおける最も重要な差別化要因となります。 例えば、新車の動画広告を配信したとしましょう。この動画の視聴時間が2秒のユーザーと10秒のユーザーでは、後者の方がよりこの新車に興味を持っていると判断できます。このユーザーが画面をスクロールダウンした際に、ホワイトペーパーのダウンロードを促したり、さらに試乗の申し込みを促すことなどができるはずです。こうしたブランディングからパフォーマンスまで一気通貫させたブランドフォーマンスが新生Teadsの最大の強みです。 パティソン氏:各パブリッシャーのサイトへの直接的なアクセスを構築し、SSPからDSPまでエンドツーエンドでデータを管理しているTeadsだからこそこのような施策を精緻に実施できるのです。「ブランドフォーマンス」という概念自体は当社が発明したものではありませんが、新生Teadsのあり方を実によく表現していると思います。 加えて当社では、「Elevated Outcomes」を合言葉として、ワンランク上の成果をもたらし、広告効果の向上を実現していくことを目標として掲げています。 新生Teadsの唯一無二の強みとは ―いわゆるウォールドガーデンに対して、どのように競合していくのでしょうか。 コストマン氏:ウォールドガーデンとオープンインターネットは競合相手ではなく、互いに補完し合う存在であると考えています。オープンインターネットにも、ウォールドガーデンにも、もう一方が決してリーチできないオーディエンスが多くいます。またオープンインターネットの形態もホームスクリーンからゲームなど多様です。さらにTeadsのCTV広告事業が直近の四半期で80%成長を遂げていることが示す通り、オープンインターネットは一層の拡張を続けています。このオープンインターネット市場において、新生Teadsはトップ3に入る事業規模と実績を持つ企業となりました。 パティソン氏:多くの日本の広告主はプレミアム在庫と広告取引の透明性を求めています。10年以上にわたり日本市場での事業展開を通じて、広告主、広告代理店、パブリッシャーと強固な関係と構築し、SSP、DSP、DMPといった外部の中間業者を介さずに広告ソリューションを提供してきた当社の強みがこうした要望に合致すると考えています。 なお、ウォールドガーデンが偏重されることで生じる問題の一つに、広告主及び広告代理店がこれらの大手広告プラットフォームに依存してしまうという点が挙げられます。先ほどデービッドが申し上げたように、インクリメンタル・リーチの重要性を認識し、広告の配信先を多様化することで、広告主が広告配信の管理権限を取り戻すことができるはずです。 コストマン氏:ウォールドガーデンはログインユーザーのID情報を広告配信に活用できるという最大の利点を持っていますが、SNS上では絶対にやり取りされないようなコンテクスチュアルデータを扱うオープンインターネットはユーザーの興味・関心をより深くできる場合があります。 急速に発展しつつある大規模言語モデルの適用が今後ますます進んでいくことで、ユーザーが何を見ているか、どのサイトに遷移したかといったかを示す多様なデータシグナルをリアルタイムで処理することで、ターゲティング能力を向上させ、より良い価値を提供できると期待しています。 ―オープンインターネット市場の事業者とは今後どのように競合していくのでしょうか。 コストマン氏:やはりブランドフォーマンスが差別化要因となると思います。Teadsは、国内でいうとハースト婦人画報社、産経新聞、小学館、光文社、集英社(順不同)、グローバルでいうとCNN、Forbes、BBC、ESPN等といったプレミアムなパブリッシャーと複数年契約を締結した上で、コード・オン・ページを通じて広告在庫を直接的に管理しています。とりわけ日本の広告主は、日本語サイトへの広告配信を望む傾向が非常に強いです。国内の大手パブリッシャーの収益化支援を行いながら強固な関係を構築することは、DSP事業者には絶対に真似できません。世界の50市場で事業展開しつつ、広告在庫をここまできちんと管理できる能力を持つ広告配信事業者はなかなかいないでしょう。 パティソン氏:日本はTeadsにとって戦略的に非常に重要な市場であるがゆえに、既に10年以上にわたり活動してきました。日本市場において当社ほど大規模かつ長期にわたる事業展開を行ってきたグローバル事業者はあまりいないと思います。 コストマン氏:当社は、世界中のパブリッシャーと平均7〜9年といった単位で長期的な提携を締結しています。信頼に基づく安定的なパートナーシップを志向する日本の企業文化と当社の事業のあり方との相性は非常に良いと感じています。 ―今後の展開についてお聞かせください。 コストマン氏:2026年初頭に新たな統合プラットフォームを立ち上げます。OutbrainによるTeadsの買収というニュースは大きな注目を集めましたが、企業の買収及び合併自体は、当然のことながら速報を出して終わるわけではなく、継続的なプロセスです。データ統合やクロスセルなどを通じて継続的な機能向上などを実現し、市場の期待に応えていくことができたらと思います。
「デジタル広告業界の課題はそう簡単には尽きない」―「広告主等向けガイダンス」を発表した総務省に聞く[インタビュー]
総務省が発表した「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」に対し、様々な市場関係者がプレスリリース等を通じて賛同を示し、また事あるごとに本ガイダンスに言及した上でさらなる問題提起を行っている。本ガイダンスを作成するに至った経緯や今後の展開について、総務省 情報流通行政局の寺本邦仁子参事官に話を聞いた。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊) ガイダンス発表の経緯 ―総務省は今年6月に「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表しました。デジタル広告取引には広告プラットフォーム、広告会社、媒体社を始めとして様々なステークホルダーが存在しますが、本ガイダンスを「広告主等向け」としたのはなぜですか。 まず大前提として、広告をどの媒体に掲載するかは表現の自由及び営業の自由の下で、広告主において判断されるべきです。しかしながら、デジタル広告においては、その仕組みを理解した上で適切な対策を実施しなければ、そもそもその広告主でさえも自ら出稿した広告がオンライン上のどの場所にどのように表示されているかを把握することができません。 その結果として、偽・誤情報が掲載または著作物が違法にアップロードされたウェブサイトやアプリに自社の広告が表示されることで、深刻なブランド毀損をもたらしたり、広告費が不正に詐取されるといった広告費の流出などのリスクにさらされる可能性があります。広告主には、こうした状況を経営上の課題として認識した上で然るべき対策を取ることの重要性を知ってもらい、既に対応を行っている広告主においては自らの対応状況を再確認する用途として、これから対応を開始したいと考えている広告主においては今後の対策を実行へと移すための参考となるよう、総務省が開催した「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」(諸課題検)の「デジタル広告ワーキンググループ」(デジタル広告WG)での検討内容を基に本ガイダンスを策定しました。 ただし、デジタル広告取引には、広告主や広告媒体社に加えて、従来型の広告代理店さらにはデジタルマーケティング事業者、電子商取引運営代行事業者、Webコンサルティング事業者を始めとする様々な関連事業者が関与しています。本ガイダンスにおいて「デジタル広告取扱事業者」と総称するこれらの事業者等にも、参考にしていただけたらと考えています。 ―本ガイダンスの公表前にその案に対する意見募集を行ったところ、141件に及ぶ意見が提出されました。 本ガイダンスの中身や趣旨をご理解いただいた上で、これほど多くのご意見が寄せられ大変ありがたく思っています。また国内の広告主が多く加盟する団体から、「企業の経営層にも理解と関与を促す視点が盛り込まれている」と言及いただいたこともうれしく思いました。複数の事業者団体から、本ガイダンスの普及啓発に向けて取り組んでいきたいとのお言葉もいただいており、心強く感じています。 リスクを把握していない広告主はまだ多い ―本ガイダンスは、民間企業だけでなく、広告を出稿する官公庁に対しても注意を喚起しています。 本ガイダンスの内容を検討したデジタル広告WGで公表した調査によると、資本金規模が「5,000万円超」の広告主は8割以上がブランドセーフティ対策を実施しているのに対し、「5,000万円以下」では5割を切ります。 こうした現状に鑑みると、例えば、アドフラウドに関して調査を実施した自治体もあるとは聞いていますが、官公庁も含む大半の広告主が、デジタル広告に関する具体的なリスクや対処法を十分に認識していない可能性が高いため、本ガイダンスの周知を図ることで、デジタル広告を巡る課題について喚起していきたいと考えています。 またあわせて、総務省としては、今後、地方自治体を対象とした実態調査も進めていきながら状況把握に努め、本ガイダンスの普及啓発に向けた具体的な取り組みを実施していく予定です。 ―日本全国に点在する中小企業や地方自治体に対して、具体的にはどのように本ガイダンスの普及啓発を行っていく予定ですか。 従来の広報活動の枠組みを通じてガイダンスを発表するだけでは、なかなか世間の目に届かないと思っています。総務省が各地方に設けている出先機関を活用したいとは思いますが、こうした拠点は、広告業界はもちろんのこと、広告主となりうる様々な幅広い業種の企業や地方自治体の担当部署とはこれまでお付き合いは少なかったというのが正直なところです。 他省庁や関係団体の協力に加えて、今回のようなメディア取材への対応やイベント・勉強会などにも積極的にお伺いし、広く世の中に知っていただけるよう働きかけていきたいと考えています。 ―本ガイダンスは、広告主等に対し、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)等の専門性の高い経営層の整備を含めた体制構築が望ましいと提議しています。一方で、CMOという職務を用意している日本企業は極めて少数ではないでしょうか。 CMOが象徴する専門性の高い経営層の関与は考え得る対策の一つとして示したに過ぎません。広告を出稿する企業の経営層が、デジタル広告に関わる諸課題を技術的な面も含めてすべて詳細に把握する必要は必ずしもないと思っていますが、特有のリスクと対策が存在するということについては本ガイダンス等を通じて理解を深めていただけたらと思います。そして残念ながら、このリスクについての認識自体が乏しいというのが現状であると受け止めています。 ―本ガイダンスは企業の社会的責任(CSR)の観点からの配慮の必要性も指摘しています。 デジタル広告の広告費は、日本の広告費全体の約5割を占めるまでに市場規模が拡大しており、社会的な影響力が非常に強くなってきたと捉えています。つまり、単に広告を通じて商品が売れたかどうかや、広告単価が高いまたは安いというだけの話ではもはやなくなっているということです。それなりの広告費を通じて、それなりの社会的影響を及ぼしていることについて、デジタル広告を配信する主体としての広告主の経営者の意識改革につながっていくことを期待しています。 ―CMOやCSRは大企業により馴染みがある制度なり概念だと思うのですが、中小企業には異なる対応が必要だと思いますか。 本ガイダンス自体は、事業規模や業態及び業種を限定せず、広く活用いただくことを想定しています。とりわけデジタル広告は個人単位でも気軽に出稿できることが特徴の一つでもありますので、多くの方にデジタル広告特有のリスクを認識していただきたいと思っています。 ただし、リスク対策については、ブランド毀損による被害そして周囲の社会環境に与える影響が比較的大きい大企業の方が総じて早く着手するでしょう。こうした大企業が先導的な役割を果たすことで、業界全体の認識が変化していくことを期待しています。 ガイダンス発表後の展開 ―本ガイダンス(案)に対する意見募集結果の中には、「アテンション計測の有用性」への言及がありました。本ガイダンスの内容を議論した諸課題検またはデジタル広告WGで、アテンション計測を今後取り上げていく予定はありますか。 諸課題検は、9月10日に本ガイダンスの策定を含む検討内容をまとめた報告書を発表しました。報告書は、本ガイダンスの普及啓発や関連事業者のモニタリングを行っていくことを掲げています。 これを受け、総務省としては、こうした取り組みを通じて市場動向を注視しつつ、次の手を検討していく予定です。社会的状況の変化と技術の進歩に応じて、すべきこととできることが変わってくると思っています。 ―デジタル広告の課題全般に関する総務省としての今後の活動予定をお聞かせください。 9月10日発表の報告書でも提言いただいたとおり、本ガイダンスの普及啓発活動を進めていくほか、今後もデジタル広告の流通を巡る諸課題に対応すべく事業者のモニタリングを進めていく予定です。
【LIVE BOARD調査】2025年のデジタルサイネージ広告市場規模は1,110億円の見通し、2030年には1,647億円と予測
株式会社 LIVE BOARDは、株式会社デジタルインファクトと共同で、株式会社CARTA HOLDINGSの監修のもと、デジタルサイネージ広告市場に関する調査を実施した。 デジタルサイネージ広告市場は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出及び移動規制などの逆風を乗り越え、現在も市場全体の成長が続いている。また、街中や店内などリアルな時間・場所で視聴者に接触し、臨場感のあるクリエイティブを届けられるデジタルサイネージ広告への需要も高まっており、市場の成長を後押ししている。 渋谷、原宿、新宿といった人気エリアのビルや駅構内に設置されているデジタルサイネージ広告の需要は引き続き高まっている。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開催に合わせて、大阪・関西エリアでのデジタルサイネージの整備が加速し、プロモーションを強化していきたいと考えていた多くの広告主からの需要にも応えている。 注目市場の一つとされてきたリテールメディアでは、先行してデジタルサイネージの設置が続けられて来た総合スーパー(GMS)やスーパーマーケット(SM)、ドラッグストアだけでなく、大手コンビニエンスストアチェーンが全国10,000店舗以上にサイネージを導入するなど、広告配信面数の拡大が一気に進んだ。また、異なる事業者間同士の連携やデータ活用の検討や実証が進むなど、今後の市場成長に大きな期待が寄せられている。 大手鉄道事業者が新たにデジタルOOH広告(OOH: Out-of-Home)のデータドリブンな広告運用を可能とするマーケットプレイスを立ち上げるなど、プログラマティック広告取引への関心も引き続き高まっている。DSP/SSPとの接続が増えていくことにより、海外の広告代理店やウェブ広告代理店など、新たな販路が拡大されていくと共に、デジタルサイネージの稼働率が上がるものと見られている。 2025年9月にはOOH広告の効果測定と指標の共通化を推進するため、広告主・広告会社・媒体事業社など広告業界全体を対象とした業界横断組織として「一般社団法人 日本OOHメジャメント協会(JOAA)」が設立された。本協会は、OOH広告の価値を可視化するための業界共通指標の開発・提供を通じて、広告主が安心してOOH広告を活用できる環境を整備することを目的としている。海外市場ではメジャメント指標の導入による広告効果の可視化で市場成長が後押しされており、同様の効果が日本市場にももたらされることに期待を示す声も挙がっている。 市場関係者の間では、デジタルサイネージ広告市場全体が今後も安定成長を続けていくという共通認識が生まれている。本調査ではこうした見解に基づき、2030年のデジタルサイネージ広告市場規模は2025年比148%増の1,647億円に達すると予測する。 セグメント別の動向は以下の通り。 ■交通 鉄道車両や駅施設、タクシー、バス、空港、航空機などが含まれる。 駅施設ではインパクトのある表現やイマーシブな空間演出に長けている媒体への需要が高まっている。デジタルサイネージ端末の設置や商品開発も継続して進んでいくものと見られるが、今後は高い広告需要が見込めるエリアに絞ったうえでの投資が進められていくものと見られる。 首都圏での媒体取り付けがほぼ完了したとされるタクシー広告では、認知効果を高めるためにタブレットで放映される独自の番組コンテンツの開発に取り組むととともに、広告主をスポンサーとした番組タイアップ企画にも積極的に取り組むなど、新たな広告商品の提供も進んでいる。 空港においては訪日外国人旅行者数が急増しており、その需要に応える形で国際線のデジタルサイネージでの満稿が続いてきた。また、国内線で周遊する訪日外国人旅行者も増えており、地方空港でもインバウンドによる一定の効果が表れた。 ■商業施設・店舗 スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストア、薬局をはじめとする小売店やショッピングモール、美容室、飲食店などが含まれる。 デジタルサイネージ端末の設置が進む一方で、データ連携や活用、効果測定が引き続きの課題として残されており、様々な事業者が参入している。また、これまでは店頭に置いてある商品の販売を促進させていくために広告が出稿されてきましたが、大規模なデジタルサイネージ端末の設置が進んだことにより、車など店舗への非配荷の商品の広告出稿がなされるなど、一部では認知メディアとしての活用も進んでいる。今後も様々なビジネスモデルが確立されていくなかで、特定商品の購入を対象とした販促費だけではなく、マーケティング費や広告宣伝費といった新たな広告主予算からの投資がされていくことに、媒体事業者からは大きな期待が寄せられている。 ■屋外(大型ビジョン) 様々な屋外空間に取り付けられるデジタルサイネージでは、渋谷や原宿といった人気地区の駅前屋外大型ビジョンが引き続き好調であり、加えて大阪・関西万博に合わせたデジタルサイネージの設置も進み、大阪・梅田といった関西地域でのデジタルサイネージの人気も上がってきた。屋外ビジョンではSNSでの話題化など数値だけでは図ることができない、デジタルサイネージならではのインパクトのある表現や媒体特性が高く評価されてきたが、その一方で、人気エリアのデジタルサイネージであっても、必ずしも高い評価を得られるわけではないとの声も挙がっており、広告主ニーズを満たすことの出来る広告商品企画・開発がより求められる市場環境になっている。 メジャメントの導入により新たな広告指標が導入されることで、海外の広告代理店やウェブ広告代理店などを通じて、今までデジタルサイネージ広告に出稿をしていなかった新たな広告主の増加が見込まれ、市場の成長を後押しすると考えられる。また、新たな業界共通の広告指標が導入されたデジタルOOHが、視聴率やクリック率などの比較可能な指標で取引が進められてきたテレビ広告やデジタル広告でのプロモーションに組み込みやすくなることで、より多くのプロモーションに活用されていくことに期待する声も上がった。 ■その他 地方自治体の建物内や、商業ビル及び居住用マンションのエレベーター、映画館(シネアド)などが含まれる。 映画館では、ハリウッドでのストライキにより公開延期とされていた大型作品が放映されたほか、人気アニメの新作が劇場公開され、市場にも大きな影響を与えた。そのほか、ゴルフカートやヘリコプター、公衆トイレ、喫煙所、銭湯・サウナなど、生活者の様々なモーメントを捉えることが出来る場所で、デジタルサイネージの新規媒体設置が着実に進み、広告配信が実施されている。
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