7府省庁がSNS大手5社に要請 ── 「なりすまし詐欺広告」対策で、広告主の本人確認と生成AI表示を求める

政府の7つの府省庁が8月7日、SNSを運営する大手5社に対し、詐欺広告への対策を強化するよう文書で求めた。求めたのは、広告主が誰なのかをきちんと確認すること、広告の出どころをユーザーに見せること、削除要請に速やかに応じることの3点だ。
要請したのは警察庁、金融庁、消費者庁、デジタル庁、総務省、法務省、経済産業省の7府省庁。宛先はGoogle、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの5社で、とりまとめ役はデジタル庁が務める。
何が問題になっているのか
問題となっているのは、ディープフェイクを用いて著名人の肖像や音声を無断で利用したなりすまし広告だ。政府はこうした広告が広く流通しているとの認識を示している。本人が投資を勧めているように見せかけ、クリックした人を投資詐欺に誘い込む手口である。
政府は、被害が金銭面にとどまらない点を問題視している。広告を見た人がお金を失うだけでなく、名前を使われた本人の信用も傷つくためだ。
被害の規模は統計にも表れている。警察庁のまとめによると、令和7年(2025年)のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件で前年から48.5%増、被害額は1,288.0億円で47.9%増。このうち被害者が最初に接触したきっかけがバナー等の広告だったケースは3,785件と、全体の約4割を占める。
要請の対象が5社になった理由
要請文は、対象サービスを選んだ根拠としてこの警察庁統計を挙げている。バナー等広告を入口とする3,785件の内訳は次のとおりだ。

最も多いYouTubeは、前年の49件から約20倍に急増した。この6サービスを運営する5社が、今回名指しされた形だ。
一方、「投資のサイト」(18.4%)と「その他のサイト」(7.8%)の合計は26.2%にのぼる。バナー等広告を入口とする被害のおよそ4分の1は、SNS以外のウェブサイトを経由していることになる。今回の要請の宛先はSNS事業者5社であり、要請の射程という観点から見ると、この部分は対象の外側に位置する。
あくまで仮説だが、オープンインターネット領域の広告在庫は市場全体では小さいとされるものの、被害の入口としての比重はそれを上回る可能性がある。ただし広告費のシェアは金額ベース、警察庁の統計は認知件数ベースであり、両者を直接比較することはできない。加えて、無登録業者による出稿など正規の広告取引を経ないケースがどの程度含まれるかも、公表資料からは判別できない。
だが、「SNSだから課題がある」ということではないのは、明らかであり、大手SNSだけに対策を促すだけでは解決をしないという問題の根深さがある。
求められた3つのこと
① 広告主が誰なのかを確認する
広告を出す側の身元を確認し、あとから追跡できるようにする。政府は具体例として、個人ならマイナンバーカード、法人なら商業登記電子証明書を挙げた。
② 広告主の情報と生成AI利用の有無を表示する
ユーザー自身が広告主や広告の信頼性を確認できるようにするための措置だ。表示が求められるのは、広告主の名称・所在地・身元確認の有無、広告である旨、主に生成AI技術を用いて作成された広告である旨、広告の表示理由といった情報になる。
③ 削除要請にすぐ応じる
刑法や金融商品取引法に触れるおそれのある広告について、インターネット・ホットラインセンターなどの公的窓口や監督省庁から削除要請が来たら、判断を遅らせず、速やかに削除する。
この③には、直前に打たれた下準備がある。要請文は、著名人の名義を無断で使用して虚偽の投資実績を紹介する内容を表示するなどして偽造された電磁的記録文書等をインターネット上に流通させ、行使した場合には、刑法第161条第1項(偽造私電磁的記録文書等行使の罪)等に違反し得るとしている。そのうえで、インターネット・ホットラインセンターの「ホットライン運用ガイドライン」を8月7日に、総務省の情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)第26条に関するガイドラインを8月6日に改定し、新たに違法情報として明記したと説明している。
報告は2回、締切は10月16日と来年3月16日
5社は、3項目それぞれについて2回の報告を求められる。
1回目は「どう対応するか」で、締切は2026年10月16日。2回目は「実際にどうだったか」で、2026年10月1日〜2027年2月28日の実績を、2027年3月16日までに報告する。
2回目の報告は項目がかなり細かい。本人確認なら手段別・国内外別の実施件数と割合、確認不備で掲載を断った件数。透明性表示なら実際に出した情報の種類と、その件数・割合。削除対応なら、削除理由別・きっかけ別の件数に加え、要請元ごとの削除率、平均で何時間かかったか、削除しなかった場合の理由まで含まれる。
「命令」ではないが、対応状況は横並びになる
今回の要請は行政手続法上の「行政指導」にあたる。処分ではなく、罰則もない。あくまで各社の自主的な取り組みを促すものだ。
もっとも、5社に共通の項目と共通の締切が設定されている以上、各社の対応状況は同じ物差しで並ぶことになる。本誌の見方では、ここで集まる定量データは今後の制度設計を議論する際の基礎資料となる可能性が高い。広告プラットフォームはもちろん、出稿する広告主にとっても、本人確認フローと広告表示の運用を点検しておく実務上の意味は小さくない。
【出典】
総務省「SNS等におけるなりすまし詐欺広告に関する対策強化のための7府省庁合同要請の実施」(2026年8月7日)
デジタル庁 同上リリースおよび別紙要請文
警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」【資料1】(2026年6月5日)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。





