「水を濁す存在」から「市場を健全化」する手段に―グリーエックスとInMobiが目指すゲームアプリの広告マネタイズ
右:グリーエックス株式会社 取締役兼カスタマーエクスペリエンス本部本部長 小室喬志氏 左:InMobi Japan株式会社 シニアゲーミングBDマネージャー 三野泰宏氏 JustCo Gran Tokyo South Towerにて撮影 独自のキャラクター、世界観、ストーリーを提供するミッドコアゲームは今、そのマネタイズ手法のあり方を始めとして構造的な変化を遂げている最中にある。時に必要悪と位置付けられてきたゲーム内広告が名誉挽回で真の救世主となるのか。それぞれ異なる立場からミッドコアゲームの収益化支援を行うグリーエックスとInMobiの2社に話を聞いた。(Sponsored by InMobi) IAPとIAAをいかに両立させるか ―自己紹介をお願いします。 小室氏:グリーエックス株式会社で取締役兼カスタマーエクスペリエンス本部の本部長を務める小室喬志(こむろ たかし)と申します。アプリパブリッシャー向けの広告マネタイズ事業を統括しており、2013年のサービス開始以来、累計1万本を超えるアプリにご利用いただいてきた広告マネタイズプラットフォーム「アドフリくん」を中心に、動画リワード広告を軸とした収益化ソリューションなどを提供しています。グリーグループの一員として、私たち自身がゲーム開発・運営の現場を熟知している強みを活かし、ゲームに強いサービスとして、ユーザー体験とパブリッシャー様の事業成長の両方に寄り添うことを使命としています。 三野氏: InMobi Japan株式会社にてシニア ゲーミング ビジネスデベロップメント マネージャーという役職を務める三野泰宏(みの やすひろ)と申します。グリー株式会社でB2Cのマーケティング・プロモーションを担当、CriteoにてApp Retargetingの日本及びアジア太平洋域の事業責任者などを経て、今年2月よりInMobi Japanアプリパブリッシャー向けの収益化支援等を担当しています。とりわけゲーム事業者様に対して、アプリ内課金(IAP)と広告マネタイズ(IAA)を両立するための取り組みを支援させていただいています。 ―ミッドコアゲームの収益化に関する課題をお聞かせください。 小室氏:日本におけるミッドコアゲームのマネタイズは長らくIAP偏重でした。2010年前後にはブラウザベースのSNSゲームでガチャとアイテム課金を中心としたビジネスモデルが確立し、スマホアプリにもこのモデルが引き継がれてきました。グリーグループも含め、日本のゲーム業界はこのIAPモデルで世界をリードしてきた歴史があります。 加えて、日本ではアニメやゲームのIPの世界観が強く重視されるため、他社ゲームへユーザーを送客する可能性がある広告マネタイズは敬遠される傾向にありました。 グリーエックス株式会社 小室喬志氏 JustCo Gran Tokyo South Towerにて撮影 しかし、外部環境は著しく変化しています。大規模な資本を投じて開発された海外発のゲーム、ショート動画、SNSアプリなどとユーザーの可処分時間及び所得の奪い合いが激化しており、日本市場におけるモバイルゲームアプリのIAP収益や使用時間は数年前と比較して17%ほど低下していると言われています。(出典:SensorTower 2025モバイル市場年鑑) また、個人情報保護強化の一環としてIDFAやサードパーティCookieの利用が制限されたことで、UA(ユーザー獲得)におけるターゲティングの精度が落ちました。ATT導入後、ゲームアプリのIDFA取得承認率は他ジャンルのアプリ平均と比較して高いとされながらも、依然として30%~40%に留まっています。IAPのみに依拠して従来のLTVを維持することが構造的に困難になり、ミッドコアゲームにおいてもIAPとIAAを組み合わせたハイブリッドマネタイズが主流となりつつあります。 ―広告マネタイズに対する警戒心は解けてきたということですか。 小室氏:ユーザー体験を最大限に尊重した日本独自の広告実装思想が進んだことで広告マネタイズに対する抵抗感は薄まってきました。代表例が、動画広告を視聴することと引き換えにゲーム内で使用できる報酬を得られる動画リワード広告です。やみくもに広告枠を設けるのではなく、ゲームアプリ内のコンテンツの一部として設計された広告を実装するという思想が、日本のミッドコアゲーム市場では定着しつつあります。 三野氏:IAP文脈のミッドコアゲーム領域で日本は世界を牽引しています。他の市場で主流となっているハイパーカジュアルゲームは寿命が短いタイトルを次々と生産するビジネスモデルなので大量に広告を表示させますが、ミッドコアゲームでは高額課金をしてくれるユーザーもいるのでユーザー体験には非常に気を遣います。 カジュアルゲームでは当然ながら世界的にもふんだんにIAAの事例があって、リワード広告導入で課金頻度も15%以上伸ばした上で収益を40%増やし、同時にセッション時間が20%増えた、などもあります。これをミッドコアでも再現性を構築できてきた、というのが市場の現在地と見ていますが、日本はその進化の先端になり得ると考えています。 ―ミッドコアゲームにIAAを導入することで、多少はIAPを通じた収益も減少するのでしょうか。 小室氏:当社が支援してきた事例では、動画リワードを適切に設計すれば、IAPに大きな悪影響を与えずにIAAを上乗せできるケースが多いと見ています。当社は、IAP収益の減少を防ぐための助言や運用知見を、パブリッシャー様にご提供しています。 例として、ガチャ用のアイテム(魔法石やコインなど)を販売しているケースを考えてみます。そのアイテムが売られているショップに「1日に1回だけ動画広告を見たら、ほんの少しだけそのアイテムをもらうことができる」という動画リワードを実装したところ、IAPが減少するどころか、DAUの約2割をショップに送客できたというような事例があります。 また、動画リワード広告の本質は、ユーザーの体験を阻害しない位置に実装できることです。日本のIPゲームではそこからさらに一歩進んで、ユーザーの体験を促進し、ゲーム内の課題を解決する形での実装が進んでいます。 実例として、株式会社MIXIの「モンスターストライク」のケースをご紹介します。本作では、ガチャなどで得たキャラクターはモンスターボックスと呼ばれる倉庫に格納されますが、格納数には上限があり、オーブを使ってボックスを拡張することができます。しかし、ガチャに使えるオーブをボックス拡張に利用することはユーザーによっては「コスト負担が大きい」と感じられる事もあり、思うように拡張が進まないケースもありました。 そこで運営側がモンスターボックスの拡張を報酬とする動画リワードを導入したところ、ユーザーのボックス拡張は促進され、加えて、IAAによる売上もアドオンされました。「ユーザーの体験を促進し、ゲーム内の課題を解決する」広告実装の好例です。 こうした設計を丁寧に行うことで、IAAがIAPを侵食することはほとんど無くなると考えております。 ゲームアプリとブランド広告主 ―今では多くのミッドコアゲームが広告マネタイズを積極的におこなっているのですか。 小室氏:ゲームタイトルによって温度差はあります。競合タイトルの広告表示はNGドメインで除外しつつ、それ以外についてはアプリ内課金の収益性を鑑みながら、広告マネタイズへの注力度や許容度を調整しているというのが実情だと思います。 三野氏:うなぎ屋の秘伝のタレのように、競合タイトルを中心としたNGドメインを徐々に継ぎ足し、熟成された秘伝のリストがある媒体側のお客様もいます。そういったことも広告自体が受け入れられ、成熟されてきている一例かと思います。 小室氏:今後は、いわゆるブランド広告やナショナルクライアントの広告がIAP / IPゲームでもっと配信されるようになってほしいと考えています。モンスターストライクのようなIAPゲームには、能動的かつ長時間プレイしてくれるユーザーが多く、広告媒体としての価値は高い、且つブランドセーフティです。例えば、人気IPに基づく国民的なゲームアプリの動画リワード広告を時間限定でジャックできれば、日曜のゴールデンタイムに放映されるアニメ番組にCMを入れるのと同じくらいの価値があるのではないでしょうか。 三野氏:ブランドセーフティ面でいうと、いわゆるオープンインターネット、特にウェブは、良い意味でも、そして特に悪い意味でも広告枠と広告主が多様ですが、アプリはストアの審査を受けなければリリースできないので、公序良俗に反するような内容を持つアプリ自体が極めて少ないです。弊社は歴史的にアプリの流通比率がかなり高く、その点で安心感を持っていただけることはアドバンテージです。InMobiではウェブの媒体社様を増やすことにも直近では積極的ですが、不適切な広告及び配信面をブロックする仕組みも整っているので、健全な広告配信環境が整備されています。 InMobi Japan株式会社 三野泰宏氏 JustCo Gran Tokyo South Towerにて撮影 ゲームアプリ以外の広告については、当社はAIを活用したエージェンティック型ショッピングプラットフォーム「Glance AI」を立ち上げ、様々なパートナーシップを通じて消費者との接点を広げています。CTV向けサービスである「Glance CTV」も日本での展開を控えており、こうした取り組みを通じてブランド広告主の出稿先をさらに拡充していく考えです。これまでテレビCM、YouTube、InstagramリールやTikTokに限定されがちだったブランド広告の新たな受け皿として、ミッドコアゲームはCTVと並びブランディングに適した配信面になり得ると期待しています。当社としても、その普及を積極的に後押ししていきたいと考えています。 小室氏:アドフリくんは、パブリッシャー様毎にアプリ(ゲーム)サイクルに則った広告枠の設計を行っております。高い専門性が強みでより効果的な運用の仕組みをご提供できます。ただ、その枠に対してユーザーとマッチング度の高い良質な広告をいかに配信するかという点については、InMobi社のような広告配信事業者の力が不可欠です。良質な広告を増やしていくために、業界の連携を今後深めていきたいと考えています。 誰もが楽しめるゲームであり続けるために ―ミッドコア領域のゲームアプリ広告は今後どのように進化していくのでしょうか。 三野氏:当社が主体的に市場の課題解決を進めていく提案としては、新機能としてパブリッシャー・パス・シグナル(PPS)というものがあります。ユーザーがアプリを開いて広告リクエストを送信する際にそのユーザーのセッション深度や広告との接触履歴に関する付加情報を加えたシグナルを飛ばしてもらうための仕組みです。 コンバージョン手前のローワーファネルのリターゲティングは、一番細かい粒度で「特定の商品に接触したユーザーにその広告を出して購入を促す」というものですが、基本的には「CVRが高い・ROASが高い」というユーザー価値が主題です。 一方、認知獲得をベースにするファネルのアッパーからミドルにかけては、「どのユーザーが広告の反応率が高いか」などが有用なデータになります。この個別のユーザー価値は媒体がすでにお持ちのデータに潜んでおり、小室さんが仰ってくれた「ブランド広告やナショナルクライアントの広告」の呼び水となります。 ユーザーを一人ひとりではなく集団化したオーディエンスないしはセグメント化する手法自体は、SNSなどプラットフォーム側が優位な仕組みではありますが、PPSはこのセグメントをもっと広い範囲で草の根的に構築するものです。 個人情報は取り扱わないので、ユーザーの同意を改めて得る必要はなく、パブリッシャー様に当社提供のSDKの中でパラメーターを設定していただくだけで利用可能です。PPS導入によって収益が1.5倍、CPMが13%増になるなどの事例が既に出ています。 加えて、これまで試験的に展開していた当社のネットワークを通じたPMPやプログラマティック保証などの枠組みもほぼ完成形に近づきつつあります。 小室氏:ユーザー体験を重視するミッドコアゲームでは、IAAを中心としたハイパーカジュアルゲームと比較して広告枠の数が少なく設計されているため、PPSのようなファーストパーティシグナルや、app-ads.txtのようなサプライチェーンの透明性を高める仕組みを活用することで、一枠あたりの価値を高めていくというのは、極めて正攻法のアプローチだと思います。 ―ミッドコアゲーム市場は今後どのように変化していくと思いますか。 小室氏:ゲームアプリの開発費が高騰し、競争も激化している中で、業界全体として短期で確実に投資回収を実現したいとのプレッシャーが高まっています。このプレッシャーが行きすぎると、極論すれば一部のヘビーユーザーにマネタイズが偏り、コンテンツそのものを純粋に楽しんでいるユーザー層が薄くなってしまうリスクもあります。これは業界全体として避けたい未来であり、このバランスをどう設計していくかが問われていると考えています。 三野氏:トレンド自体はその避けたい未来に進んでいるとも言えて、ここ数年のゲームアプリ市場は、全体的なインストール数は縮小しつつあるのに、課金額は成長しているというやや歪な展開を見せ始めています。ごく一部のユーザーがもっと多くのお金を積むことで市場成長が維持されていて、「課金圧」といったあまり耳にしたくない用語も聞かれるようになってきました。 このような市場環境において、ゲームアプリの収益源をIAPのみに依拠するリスクは拡大しています。ミッドコアゲームにとってこれまで広告は「水を濁す存在」として受け止められてきたかもしれませんが、今後はむしろ「市場を健全化させる手段」となるべきで、その状態をいかにユーザーに心地よく実現できるか取り組むフェーズに入っています。 動画コンテンツでは映画やアニメの幕間にいきなりCMを挟んで体験を中断してしまうようなケースも、インターネット上に置かれたゲームコンテンツであればもっと広告表示機会を柔軟に創出できるし、実際にそうした事例も増えてきています。そのためにも、ユーザー、広告主、そしてゲーム会社すべてが恩恵を得られるような広告配信の仕組みを引き続き整備していきたいと思います。 InMobi JapanはGame Future Summit [...]
AI と広告の未来、議論の現在地―第二部 AI 時代の広告業界——広告主、プラットフォーム、代理店、媒体の行方[インタビュー]
「第一部 AI 検索広告が日本にやってくる」はこちら AI 検索広告は、生成 AI が広告業界にもたらす変化の入口に過ぎない。杉原氏との対話を進めるうちに、議論は AI 検索広告という個別領域を越えて、広告ビジネス全体の構造変化に広がっていった。プラットフォームの勢力図、代理店ビジネスのあり方、広告主の組織構造、媒体の収益モデル、リテールメディアの停滞、そして業界の計測標準——AI は、広告事業のあらゆるレイヤーに地殻変動をもたらしつつある。 スモールプラットフォームシンドローム——寡占の構造 主要プラットフォームの主導権争いについて尋ねると、杉原氏は興味深い概念を持ち出した。米国のアナリストが提唱しているという「スモールプラットフォームシンドローム」という言葉である。 「Tier 1 のプラットフォームは、Google、Meta、Amazon までと言える。Tier 2 以下のプラットフォームは、事業としては伸びてはいるものの、Tier 1 が大きすぎるために、ユーザーも増えにくい。広告事業はスケールが第一なので、なかなか広告予算が回ってこない」。 プラットフォームのネットワーク効果が、巨大ネットに寄りすぎる結果、他のネットワークが育たない——という構造の指摘である。 そのうえで、各プレイヤーの現在地について、杉原氏は時間軸で切り分けながら見立てを語る。 Google は底堅い。広告依存度は、かつての9割超から7割程度まで低下した。「2007年頃は 97% が広告収益だった。それが現在は7割。クラウドが伸び、サブスクが伸び、検索もまた伸びている」。事業ポートフォリオの分散が進んでいる分、AI 領域全般の不確実性を吸収できる体力がある。 Meta は AI 投資先行型ゆえの揺らぎを抱える。広告事業の成長率は20%後半と非常に高いものの、依然として広告依存度が高い。AI 投資が先行している分、決算ごとに株価が落ちる構造になっている。買収した中国系 AI エージェント Manus には、中国側から買収撤回命令が出るなど、第二の柱の確立に苦しんでいる。 そして、5年というスパンで見たとき、杉原氏が「いいポジションにいる」と評価するのが Amazon だ。 「Amazon は購買データという最強のシグナルを持っており、検索から購買という一連のループが、最も完結している」。 Amazon は AI 投資で他社にやや遅れていた面があるものの、広告事業のなかでの AI 活用は進んでおり、広告事業の成長率は20%台後半に達している。プラットフォーム内では Rufus が強化され、Rufus 経由の購買も増加している。ただし、Rufus 内に差し込まれる広告については「やや邪魔な印象」もあり、独立性をめぐる議論も起きている、と杉原氏は付け加える。 Google [...]
AI と広告の未来、議論の現在地―第一部 AI 検索広告が日本にやってくる[インタビュー]
ChatGPT、Gemini、Google AI Overviews、AI モード——生成 AI が検索の景色を塗り替えつつあるなか、業界の関心は「検索行動はどう変わっていくのか」という問いに集まっている。Google のクエリ量は減るのか、ChatGPT は広告でマネタイズできるのか、リテールメディアとの関係はどうなるのか。論点は錯綜している。 そのなかで、アタラ株式会社 ファウンダー、ストラクチャー&シグナルズ株式会社 代表取締役 杉原剛氏に話を聞いた。オーバーチュア(現 Yahoo!検索広告)と Google で検索広告の立ち上げに関わり、現在は APTI 共同代表、株式会社HAKUHODO DY ONE エグゼクティブアドバイザーのメンバーも務める。検索広告の黎明期から、業界の構造変化を継続して観察してきた一人である。 「『検索そのものがなくなる』という議論から、『検索の入口が複数になる』という認識に変わってきた」——杉原氏の見立てから、AI 検索広告をめぐる議論の現在地と、その背景で進む広告業界全体の地殻変動を、二部構成で整理する。 (聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之) 検索は、むしろ伸びている 前提として、AI 検索広告が本格的に展開されているのは米国を中心とした海外市場であり、日本ではまだほとんど始まっていない。米国でも AI Overviews や AI モードへの広告差し込みは、2024年末頃からようやく動き始めた段階だ。 その前提のうえで、業界に広がる「検索が終わる」という言説に対し、杉原氏は実際のデータから慎重に距離を置く。直近の決算において、Google 検索の収益はむしろ伸びている。 「直近の決算で、検索が再び伸びている」と杉原氏は語る。要因として挙げるのは二点。AI による検索のマルチターン化でクエリ数が増え、広告在庫が拡大していること。そして、CPC(クリック単価)が上昇していることである。 ただし、その伸びがどこから来ているのかは、外部からは判別しづらい。「Google 自身が、旧来の検索広告と AI 起因の動きを切り分けて開示しているわけではない」と杉原氏は指摘する。 杉原氏の見立てはこうだ。ユーザー体験としては、AI Overviews や AI モードが大きな成功を収めている。一方で、収益面で寄与しているのは、案外、旧来の検索広告の方ではないか——というのが現時点での感触である。 象徴的なのは、2023年初頭のパリでの一幕だ。ChatGPT の急成長を受けて、Google が慌てて Bard [...]
番組制作から広告配信まで"ワンストップ"で ─ ohpner 土井 健氏が仕掛ける「BizPot」は、BtoB認知広告の構造を変えるか[インタビュー]
タクシー広告の販売高で国内3位(※)にまで上り詰めたohpner(オープナー)が、新たな一手を打った。 2026年5月、ビジネス対談番組「BizPot(ビズポット)」のサービスを本格始動。 YouTube番組の制作から地上波ラジオでの放送、さらにはタクシーやエレベーターなどオフライン媒体への二次利用までを一気通貫で提供するという、これまでにないモデルだ。 同社代表取締役の土井健氏に、BizPot誕生の背景と、その先に見据えるビジョンを聞いた。 (聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之) タクシー広告の"その先"に見えた課題 ohpnerは2024年、土井氏がテレシー代表取締役を退任後に設立したオフライン広告の専門企業だ。タクシー広告、モビリティ広告(旧アドトラック)、エレベーター広告など多岐にわたるオフライン媒体を扱い、創業からわずか1年半足らずでタクシー広告の販売高は国内3位にまで成長した。 その急成長の過程で見えてきたのが、タクシー広告の「コンテンツ枠」の可能性と、そこに横たわる構造的な課題だった。 タクシーサイネージには従来型のCM枠とは別に、第三者が発信する番組形式の動画を流す「コンテンツ枠」が存在する。CM枠がタレントを起用して強烈な認知を獲得するのに対し、コンテンツ枠は「こんなサービスがあるのか」という興味・関心、つまりファネルの中層まで届きうるフォーマットとして注目されている。 しかし、このコンテンツ枠を活用しようとする広告主の前には、大きなハードルがあった。 「まず一般的なweb番組にお願いすると、動画制作費が高額になりがちであることに加え、その素材をタクシーに流す場合、エレベーターに流す場合と、媒体ごとに別途使用料がかかる。しかも使用期限が限られている。高い制作費をかけてコンテンツを作っても、二次利用のたびに追加コストが積み上がり、使用期限も短い。せっかく良いものができたのに、広く届けづらい構造になっていたんです」(土井氏) 「明朗な料金設計」という革新 BizPotは、この構造的な課題に対する土井氏の回答だ。 まず番組制作においては、各業界のトッププレイヤーや専門家をゲストに迎えた40分のビジネス対談をYouTube向けに制作する。加えて、2025年にohpnerが出資したラジオ大阪の地上波枠(毎週金曜18時〜)で20分の番組としても放送する。YouTube番組の前編・後編を2週にわたってラジオで流すという設計だ。 制作費は業界における同種サービスの相場と比較して大幅に抑えた水準に設定した。そして最大の差別化ポイントとなるのが、二次利用の料金体系だ。 「従来は媒体ごとに使用料が発生し、そのたびにコストが積み上がっていく構造でした。BizPotでは、定額の二次利用料をお支払いいただければ、1年間、タクシーでもエレベーターでも、喫煙所サイネージでもタワーマンションのサイネージでも、どの媒体でも自由にお使いいただけます」(土井氏) 制作費の圧縮に加え、媒体をまたいだ二次利用を定額で解放する。土井氏はこれを「明朗な料金設計」と表現する。実際に正式ローンチ前の段階で複数社の受注を獲得しており、広告主が抱えていた課題の深さを物語っている。 「やっぱりみんな、同じ課題を持っていたんです。番組制作そのものに興味はあるけれど、それを各媒体に展開しようとするたびに追加費用がかかる。その構造に対する不満はすごく大きかった」(土井氏) 地上波の「信用」を、デジタル時代の武器に BizPotのもう一つの独自性が、地上波ラジオとの連動だ。ohpnerがラジオ大阪に出資した背景について、土井氏はこう説明する。 「地上波ラジオとの連動は、コンテンツとしての信頼性を高める上で大きな意味があります。YouTube発の番組でありながら地上波にも乗るという事実が、広告主にとっても、タクシーサイネージなどの媒体社にとっても、安心感につながっていると感じています」(土井氏) 実際にBizPotは、タクシーサイネージ「TOKYO PRIME」のコンテンツタイアップパートナーとしての参画も決定している。コンテンツの質を担保しつつ、タクシーサイネージとの公式連携のパイプを持つ──この両輪が、広告主にとってのスムーズな出稿体験につながる。 メディア会社でも、代理店でもない「トータルサポート」 土井氏が最も強調するのは、ohpnerの「トータルサポート力」だ。 「メディア会社はメディアを作ることには長けていますが、その先の広告配信の設計には必ずしも精通していません。逆に広告代理店は媒体の買い付けや配信には強いけれど、番組制作の解像度は高くない。ohpnerは、番組制作からタクシー広告・モビリティ広告・エレベーター広告といった各種オフライン媒体への配信設計まで、すべて高い解像度でカバーできます。これができる会社は、正直ほぼないと思っています」(土井氏) この強みの背景には、土井氏がSSP「fluct」やテレシーで広告プラットフォームの事業を牽引してきた経験がある。メディア運営と広告主支援の両方を手がけてきたからこそ、コンテンツ制作と配信設計の双方に高い解像度を持てるのだろう。 映像クオリティへのこだわり 番組制作は同社にとって初めてのチャレンジだったが、土井氏は妥協しなかった。 「最初の番組では制作会社を4社に同時発注し、同じ条件で映像を作ってもらって、一番クオリティの高いところを選びました。タクシーの中で流れても見劣りしないものにしたかった。ジャーナリズム性を追求するわけではありませんが、映像として美しく、きちんと視聴に耐えうるものにする。それが最低条件だと考えました」(土井氏) 複数回の制作を経てノウハウを蓄積し、現在はスタジオの美術セットもすべて自社で整えている。ローンチ直前の撮影では複数社のクライアントの収録を実施し、さらなる受注も見込まれているという。 「認知」の先にある「理解」を、もっとフレンドリーに BizPotが解決しようとしている広告主のニーズは、大きく2つに集約される。 一つは、単なる認知獲得ではなく、サービスへの「理解」や「興味・関心」までを促進するコンテンツへの需要。タレントを起用したCMは強い認知を生むが、サービスの内容を深く伝えるには限界がある。対談形式の番組コンテンツは、そのギャップを埋めるフォーマットとして機能する。 もう一つは、コスト面の課題だ。タレントキャスティングによるCM制作は高額になりがちで、一方で安価なフォーマットでは視聴者の関心を引けない。BizPotは、その中間の「スイートスポット」に位置するサービスとして設計されている。 「タクシー広告をやりたいと思った時に、いきなり大きな予算をかけてタレントをキャスティングするのは難しい。でも安っぽいものを作っても誰にも見てもらえない。その間で悩んでいる広告主に対して、僕らはすべての課題を解消できるパッケージを用意しました」(土井氏) 少数精鋭で、次のフェーズへ ohpnerは少数精鋭の体制を貫いている。「いかに人を増やさないか」をコンセプトに掲げ、一人あたりの生産性を最大化する方針だ。 タクシー広告の販売高で国内トップ3に入りながらも、メディア事業に参入し、コンテンツ制作からオフライン広告配信までのバリューチェーンを自社で構築する。BizPotは、オフライン広告における新しいエコシステムの入り口となるかもしれない。 「本質的な競合がいないんですよ、このトータルサポートには」──土井氏の言葉は、BtoB広告における新しい選択肢の登場を静かに告げている。 参照元:ohpner、1年半足らずで日本最大のタクシーメディア「TOKYO PRIME」の広告取扱高日本3位に
成長を続けるリテールメディア市場―MADSのサイネージアドネットワークが繋ぐ「三方よし」の未来【インタビュー】
株式会社MADSはオンラインで繋がったリテールメディアのサイネージやタブレットなどの第三者デバイスにコンテンツや広告を配信するデジタルサイネージアドネットワークを展開している。また、美容室に設置するタブレット型サイネージサービス「OCTAVE(オクターヴ)」や複数の屋外3Dサイネージも手掛けている。 同社の取り組みについて、工藤裕貴 執行役員に話を聞いた。 「モーメント」を捉えるメディアの設置が進む ―MADSの前年度のお取組について教えてください。 MADSが提供するデジタルサイネージアドネットワークの領域を広げながら、広告の配信枠を増やしてセールスをしてきました。また、広告配信用のCMS「MONOLITHS」も提供しているため、その導入先の拡大も合わせて継続しています。 近年の変化としては、特にリテール周りの案件数や売上が伸長していますが、銭湯やサウナ、トイレなど、モーメント(消費者の興味・関心が高まる瞬間)を捉えることが出来る場所へのサイネージ設置が増えると共に、それらメディアへのCMS導入が増えて来ているのも一つのトレンドにはなります。 リテールメディアでは広告出稿額が倍増するケースも ―リテール周りの案件数や売上の伸長にはどのような理由があるのでしょうか。 メーカーの広告主において、流通を見てきた「営業・販促の組織」と、顧客や市場を見ている「マーケティングや宣伝の組織」、この両者の組織同士の連携を重視する企業が増えたのが1番大きな理由だと捉えています。 誤解を恐れずに言うと一昔前はいわゆる縦割り体制が多く、一気通貫のマーケティング施策は店舗上であまり取られていない印象でしたが、今は営業とマーケでしっかりと連携を取られたうえで、広告出稿に対しても積極的になってきました。 これらの背景には、リテールメディア広告を考えた時に、購買データや位置情報を使った配信、店舗のアプリを使った配信、店頭のサイネージを通した配信など、様々な広告メニューが増えてきたことで、メーカー広告主企業において、リテールメディア広告に本腰を入れて考えていただける環境が日本で整ってきたことがあると考えています。 その結果、商品の販促費ではなく、予算がより大きいマーケティング費からご出稿いただくケースも増えており、広告出稿額が従来の2~5倍に増加することもあります。 ―リテールメディアにおける今後の課題や期待は。 緩和は進みつつありますが、近隣の不動産や自治体の広告などの、いわゆるノンエンデミック領域(その店舗で販売されていない商品)の広告掲載基準についてはポイントとなります。広告掲載基準が緩和されれば、広告出稿の対象となる広告主が増えるので、ポテンシャルは非常に大きいですね。 また、店舗サイネージでは「単一流通に対してマーケティング予算から広告を出すことは難しい」という状況もしばしば起こっています。 例えば、広告で宣伝をしたい商品が、MADSが全国で連携しているウエルシア薬局を中心に展開されている場合は差し支えないですが、広告主が大手になればなるほど多くの流通=他のドラッグストアなどにも同じだけ商品を配荷される傾向があります。そのような状況では、特定の店舗のみに大きな予算が投下されて大量の広告が流れている状況は望ましくないため、マーケティング予算からの広告出稿は難しくなります。 ただ、既存で設置されているサイネージをMADSのアドネットワークに繋ぎこんでいけば、複数の流通・店舗に一斉配信をすることが出来るようになるので、そのような未来を描いていければ、広告主や店舗の皆様とも三方よしの状態に持っていけると考えています。 新宿に続き名古屋でも3Dサイネージを展開 ―MADSでは美容室に設置するタブレット型サイネージサービス「OCTAVE(オクターヴ)」の提供も続けています。 OCTAVEは各座席に設置されたタブレットから広告やコンテンツを一方向で流すだけでなく、視聴者が好きな動画をタッチ式で選べるなど、平均90分とされる美容室利用中の持て余し時間を有意義なものに変えていくことをコンセプトに、設置拡大を続けています。 OCTAVEが設置されている美容室は、タクシー同様にワントゥーワンで長時間滞在する環境でありながら、美容意識へのモーメントが高まる状況・条件が際立っています。そのためヘアケア商品や化粧品の広告と相性が良いですが、アパレルや旅行商品と相性が良いことも確認出来ています。 現在は2,000店舗以上に設置され、台数も1万面を超えましたが、1人1人に対してしっかりとリーチや体験をさせていきながら、規模感や売上も更に広げられるよう、取り組みを進めていきたいと思います。 ―屋外3Dサイネージ「クロス新宿ビジョン」の取組状況は。 現在は2方向で反響があると捉えています。1つは広告媒体としてシンプルに、3Dや3D以外も含めて出稿をしたいというニーズです。出稿した広告の反響もすごく大きく、現在も引き続きご好評をいただいている状況です。 他方で「同じような屋外3Dサイネージを設置したい」というご相談も非常に増えてきました。2024年から稼働している「名古屋スクランブル × ビジョン」もその成果の一つとなります。 こちらは名古屋駅前のコムテックタワーに設置された縦長の3Dサイネージとなりますが、MONOLITHSにより、従来のように期間を指定して広告枠を購入する予約型の配信だけではなく、任意の曜日や時間、温度などの天候情報と連動し、インプレッション単位で購入する運用型の広告出稿も可能となっています。 企業同士の連携が進むリテールメディアネットワーク ―改めて、貴社の事業展望についてお聞かせください。 1人のお客様のカスタマージャーニーを考えていくと、家に居る時と店舗で商品を買える状態の時とで、導線が離れすぎてしまえば、広告主に良いサービスを提供することが難しくなってしまいます。 その前提で、「お客様の生活導線」と「複数の流通」をそれぞれ追いかけていけるように、企業同士でのデータやネットワークの連携・提携が業界内で活性化しているのが現在の状況だと考えています。 MADSは「サイネージのアドネットワーカー」という立ち位置で、ドラッグストアやスーパー、家電量販店など、様々な店舗に設置されているサイネージをつなぎ合わせて、1つのネットワークとして配信可能なプラットフォームを作れる立場にあるので、そのうえでリテールサイネージ広告を今後も盛り上げていきたいと考えています。 また、OCTAVEについては、美容室という特定のモーメントが高まる場所に広告配信が出来ることへの価値を評価いただいていますが、サンプリング配布などもとても良い反響が出ているので、ワントゥーワンの環境ならではの体験価値の提供により、さらに事例を増やしていきたいと考えています。
「見られない広告」への投資をどう見直すか――アテンション計測は広告投資の意思決定を変えるのか【Lumen × UNICORNイベントレポート】
デジタル広告における「アテンション(注視)」計測の意義と実践を議論するイベント「アテンションが広告の価値を変える日 〜Lumen × UNICORNが描く、次世代広告の新基準〜」がLumen Research Ltd.、UNICORN株式会社共催のもと、3月9日にUNICORN株式会社の本社で開催された。 アテンション計測で知られるLumen Research Ltd.のCEO・Mike Follett(マイク・フォレット)氏が来日し、グローバルの最新動向を共有。UNICORN株式会社 代表取締役の山田翔氏による日本市場での計測事例の発表に加え、株式会社博報堂、楽天グループ株式会社の実務者を交えたパネルディスカッションも行われた。会場では、「ビューアビリティの先」にある広告評価の新たな基準をどう捉えるべきかが、多面的に議論された。 Attention Economy最前線――世界の広告は「どこを見ているのか」 登壇:Lumen Research Ltd CEO Mike Follett(マイク・フォレット)氏 「ビューアブル」であることは、「見られている」ことを意味しない 「人々は広告を無視するのが非常に上手い」――初来日を果たしたLumen Research CEOのマイク・フォレット氏は、こう切り出した。ニューヨーク・タイムズスクエアの広告群を例に挙げながら、数多くの広告が技術的にはビューアブルであっても、実際に生活者の視線を捉えているとは限らない現実を指摘した。 同氏が問題提起したのは、デジタル広告業界が長年依拠してきた「表示された広告には一定の価値がある」という前提である。MRCビューアビリティ基準は、広告が画面上に表示されたかどうかを把握する尺度として広く使われてきた。一方で、それはあくまで“Opportunity to See(見る機会)”を示すものであり、“実際に見られたかどうか”とは異なる。スマートフォン上での高速スクロールや、複数スクリーンをまたぐ同時接触が常態化した現在、このズレは以前より無視しにくくなっている。 2013年設立のLumenは、ウェブカメラを活用したアイトラッキング技術を通じて大規模なデータを収集し、デジタル、テレビ、映画館、屋外広告など、多様なメディアにおけるアテンションの実態を可視化してきた。同社のアプローチは、広告のサイズや表示環境、スキップ可否などの視認性に関わる要素をもとにアテンションを推定する点に特徴がある。フォレット氏は、こうしたアテンション計測が単なる研究領域にとどまらず、すでにグローバルではプランニングやバイイングの判断材料に加え、広告主のクリエイティブ最適化やキャンペーン全体の効果向上にも活用され、実装フェーズに入りつつあると説明した。 アテンションは成果とどう結びつくのか 講演の後半では、アテンションと広告成果の関係を示す複数のエビデンスが紹介された。ブランドリフト、CTR、利益との関係を分析した結果、アテンションが高い広告ほど、これらの成果指標とも正の関係を示す傾向が見られたという。ここでの重要な論点は、アテンションが単独の新指標として注目されているのではなく、従来から広告主が重視してきた成果指標を説明する手前の変数として機能しうる点にある。 とりわけブランド広告の文脈では、認知、検討、購入意向といった態度変容が、単に“配信された”ことではなく、“どの程度見られたか”と密接に関わっている可能性が示された。クリック率についても、ビューアビリティだけでは十分に説明できない差を、アテンションが補完する余地がある。フォレット氏は、こうした知見を踏まえ、「興味深いデータ」だったアテンションが「意思決定に使えるデータ」へと変わりつつあると語った。 紹介された事例の一つでは、米国Kiaがオープンウェブ広告において高アテンション在庫を活用し、コンバージョン率の改善を図ったケースが示された。また、ハイネケンやカールスバーグの事例では、ブランド広告やグローバルのメディアプランニングにアテンションデータを組み込む取り組みが進んでいることが共有された。これらは、アテンションが一部の先進的な実験ではなく、広告売買の現場に入り始めていることを示すものといえる。 広告主だけでなく、媒体価値の見方も変わる アテンション指標の広がりは、広告主や代理店の判断を変えるだけではない。パブリッシャーや媒体社にとっても、自社在庫の価値をどう説明するかという問題に直結する。これまでビューアビリティの高さが評価されてきた面でも、実際の注視が伴わなければ、広告価値の再評価を迫られる可能性があるためである。 逆にいえば、ユーザー体験を大きく損なわず、自然に視線を獲得できる面やフォーマットは、従来とは異なる観点から評価される余地がある。フォレット氏の講演は、「どれだけ配信されたか」から「どれだけ見られたか」へ、さらに「その注視がどんな成果につながるのか」へと、広告評価の軸が動き始めていることを改めて印象づける内容だった。 アテンションは広告の「何」を変えるのか――UNICORNが示す計測の意義 登壇:UNICORN株式会社 代表取締役 山田 翔氏 日本市場に横たわる「数字の罠」 UNICORN代表の山田翔氏は、日本のデジタル広告市場が抱える構造的な問題を「数字の罠」という言葉で表現した。ビューアビリティ、CTR、CPAといった数値は、広告運用の現場で日常的に参照されている。一方で、それらが良好に見えることと、広告がきちんと見られ、事業成果につながっていることとは必ずしも一致しない。そのギャップを可視化する必要があるというのが、山田氏の基本的な問題意識である。 同氏は、ディスプレイ広告や動画広告に対するアンケート結果を引きながら、広告が表示されても内容まで読まないユーザーが多い現状に言及した。日本のデジタル広告市場が大きく拡大するなかで、仮に相当量の広告が実際には見られていないのであれば、そこには小さくない機会損失が生じていることになる。山田氏は、こうした“表示されているが見られていない広告”の存在を、アドフラウドとは異なるかたちの損失として捉える必要があると指摘した。 Lumen連携で見えてきた、ビューアビリティとのズレ UNICORNはDSP事業者として、Lumenと連携し、プラットフォーム上の一部トラフィックを対象にアテンション傾向を分析している。山田氏が示したのは、ビューアビリティが高い広告面と、実際によく見られている広告面が必ずしも一致しないという点である。 具体例として紹介されたのが、下部固定型の横長広告枠と、記事内のレクタングル広告枠の比較である。ビューアブルレートでは前者が優位に見える一方、実際の視認率やアテンションベースの買い付け効率で見ると、後者が上回るケースがあったという。つまり、従来の指標だけで評価すると優秀に見えた在庫が、アテンションの観点では異なる評価を受ける可能性があるわけだ。 この話は、広告主にとっては投資先の再考を促すものとなる。代理店にとっては、CPMや到達量だけでなく、注視の質まで含めてプランニングを組み立てる必要が出てくる。さらにパブリッシャーにとっても、単に画面内に長くとどまる面を用意するだけでは評価されにくくなり、ユーザー体験と注視の両立が重要なテーマとして浮上する。 CTRだけでは見えない、クリエイティブ評価の限界 山田氏はまた、CTRという指標そのものの限界にも踏み込んだ。そもそも見られていない広告が相当数含まれる環境では、インプレッションを分母としたCTRだけでクリエイティブの良し悪しを判断するのは難しい。広告表現の力をより正確に見るには、“見られたうえでクリックされたか”を問う指標が必要になるというのである。 その文脈で提示されたのが、アテンションベースのCTR、すなわちACTRである。これは、広告が実際に視認されたことを前提にクリックの質を評価しようとする考え方であり、単なるクリック率よりも、クリエイティブや掲載面の真価を見極めやすくする。運用型広告の現場では、CTRのわずかな差が大きな意思決定につながることも多い。その意味で、ACTRの発想は、広告表現をよりフェアに評価するための補助線になりうる。 新しい指標は、また“ハック”されるのか 今回のセッションで印象的だったのは、山田氏がアテンション計測を手放しで礼賛しなかった点である。同氏は、ビューアビリティという指標が普及した後、そのスコアを高めやすい固定枠やワイプ枠などの、ユーザビリティを阻害するような広告枠が増えた歴史を振り返り、新たな指標が登場しても同様のことは起こりうると警鐘を鳴らした。 たとえば、閉じるボタンが見つけにくいフルスクリーン広告では、ユーザーが離脱しようとして視線を動かすことで、結果的にアテンションスコアが押し上がる可能性もある。数字の上では注視されていても、それがユーザーにとって望ましい広告体験とは限らない。山田氏は、アテンションを測るだけでなく、「その注視はどのように生まれたのか」まで見なければならないと強調した。 新しい指標が登場するたび、業界はその数値を最適化しようとする。その流れ自体は自然である。しかし、最適化の結果がユーザー体験の悪化を招くなら、それは長期的に広告価値を毀損しかねない。山田氏が最後に語った「数字だけを見るのをやめましょう」という言葉は、アテンション時代においてこそ重みを持つ提言だった。 パネルディスカッション:何を根拠に広告に投資すべきか モデレーター:UNICORN株式会社 高橋 香名氏 ゲスト:株式会社博報堂 宮﨑 雅子氏、楽天グループ株式会社 李 侑皇氏 広告主・代理店・事業会社が感じる「レポート上の数字」への違和感 パネルディスカッションでは、代理店、事業会社、プラットフォームという異なる立場から、アテンション指標の実務的な使いどころが議論された。共通していたのは、従来の管理画面上の数字だけでは、広告投資の妥当性を十分に説明しきれなくなっているという認識である。 博報堂の宮﨑雅子氏は、マルチデバイス、マルチスクリーン環境が当たり前となった現在、広告主の間でも「表示されたこと」と「見られたこと」を切り分けて考える必要性が高まっていると指摘した。かつては「安く、広く、リーチできた」こと自体が一定の説明力を持っていた。しかし足元では、それだけでは本質的な広告効果を捉えにくくなっている。アテンションは、そのギャップを埋める追加的な説明変数として注目されているという。 一方、楽天グループでラクマのユーザー獲得を担う李侑皇氏は、事業会社ならではの視点から、管理画面上の獲得効率と事業全体の増分効果が一致しないケースについて語った。広告停止時にオーガニック流入が増えるような挙動が見られたことから、媒体上では成果が良く見えても、事業全体では新たな需要を生み出していない可能性があったという。分析を進めると、オーバーレイ枠中心の配信では、オーガニックCVを広告によるCVとして計測されていた可能性が示唆された一方、インフィードやインライン中心の媒体では異なる傾向が見られたと共有された。 ブランディングの評価軸として、アテンションは使えるのか 宮﨑氏は、Lumenの計測を活用したブランド広告の実証事例についても言及した。注視時間とブランドリフトの間には正の関係が見られ、注視時間が長くなるほど、ブランドへの好意や認知などの指標も高まる傾向が確認されているという。この知見の実務的な意味は大きい。なぜなら、従来のブランディング施策では、事後調査が出るまで効果を評価しづらかったからである。 アテンションを中間指標として見ることで、キャンペーン期間中でも一定のPDCAを回しやすくなる。さらに宮﨑氏は、同一条件・同一予算で複数のクリエイティブフォーマットを比較した事例にも触れた。そこでは、注視時間が長いフォーマットほどブランドリフトとの親和性が高く、一方で注視時間が相対的に短いフォーマットはCPA効率に優れる傾向が見られたという。重要なのは、どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分けるべきだという点である。 この考え方は、広告主と代理店の関係にも変化をもたらす。単に配信量を確保するのではなく、キャンペーンの目的に照らして、どの接触がどの成果に結びつきやすいかを説明することが求められるようになるからだ。アテンションは、その共通言語になりうる。 オンオフ統合とインクリメンタリティ、その先の課題 議論の終盤では、アテンション計測をオンライン・オフライン横断で扱うニーズにも話題が及んだ。宮﨑氏は、テレビとデジタルでは1インプレッションの価値や接触の意味が異なるため、単純な統一指標化は容易ではないとしつつも、それを望む広告主が多い現状を語った。もしテレビ、オンライン動画、ソーシャル、オープンウェブなどを横断して、どれだけ注意を獲得し、どれだけ記憶形成に寄与したかを比較できるなら、メディアプランニングは大きく変わる可能性がある。 李氏もまた、流行する手法や指標は次々に現れるが、最終的に重視すべきなのは、自社の事業成長を最も正確に示すデータとツールを見極めることだと語った。広告主にとって重要なのは、新しい言葉を採用することではなく、増分効果に結びつく判断材料を持つことである。アテンションはその有力候補ではあるものの、万能の解ではない。だからこそ、MMMやブランドリフト、媒体別の成果検証などと組み合わせながら、実務に耐える形へと落とし込んでいく必要がある。 「伝わること」に立ち返るための指標としてのアテンション 本イベントを通じて浮かび上がったのは、デジタル広告業界が長年重視してきた「ビューアビリティ」「インプレッション」「CTR」といった指標の限界と、それを補完しうるアテンション計測の可能性である。Lumenのグローバル事例は、アテンションがブランド成果やクリック、利益と一定の関係を持ちうることを示した。UNICORNの日本市場における分析は、ビューアビリティが高くても、実際には十分に見られていない広告が存在することを可視化した。 その一方で、山田氏が指摘したように、新しい指標が登場するたびに、それを“ハック”する動きが生まれてきたことも業界は忘れるべきではない。アテンション計測が広告投資の意思決定を真に変えるには、単に数値を追うのではなく、その背後にあるユーザー体験の質まで問い続ける必要がある。加えて、デジタル広告テクノロジー領域のコンサルティング会社であるGlobalive株式会社の梅野氏によれば、グローバルではアテンションとブランドリフト調査(BLS)を組み合わせ、必要接触量の最適化、さらには短期記憶・長期記憶までを設計する活用への関心が高まっているという。 閉会にあたり山田氏は、デジタル広告をより良いものにしたいと考える人々が集まっていること自体に意味があると語った。広告主、代理店、パブリッシャー、アドテクノロジー事業者――それぞれの立場から、「見られていない広告に投資し続ける」という構造をどう見直すか。その問いに対し、アテンションはひとつの有力な座標軸になりつつある。もっとも、それが業界標準として定着するかはまだこれからである。それでも本イベントは、日本市場が“表示されたか”ではなく“本当に見られ、どう効いたか”を問う段階に入り始めたことを示す場だった。
モビリティ広告(アドトラック)、広告到達率56.4%・広告関心度61.8%を記録 ohpnerが広告効果調査結果を発表
オフラインマーケティング事業を展開するohpner株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:土井 健、以下 ohpner)は、街中を走行するモビリティ広告(アドトラック)の広告効果に関する調査結果を発表した。広告到達率56.4%・広告関心度61.8%を記録し、広告認知者の購買検討度は非認知者と比較して約8.1倍に上昇することが明らかになった。 デジタル広告飽和時代におけるオフライン接触の重要性 近年、デジタル広告市場の拡大に伴い、生活者が日常的に接触する広告量は増加を続けている。一方で、広告接触機会の増加によって、広告そのものが流されやすくなり、生活者にしっかりと認知・記憶される広告体験をどのように生み出すかが、マーケティングにおける重要な課題となっている。 そうした中、モビリティ広告は街中や都市部の生活導線上で自然な広告接触を生み出せる媒体として活用が広がっている。特に、大型ポスターラッピングや音を活用した演出によって、一般的な屋外広告とは異なる強い接触体験を生み出せる点が特徴だ。 しかし実際に、「どの程度広告が認知されているのか」「認知だけでなく、その後の興味関心や利用・購買検討にどのような影響を与えているのか」といった広告効果に関する定量的なデータは、十分に可視化されていなかった。 こうした背景のもと、ohpnerは今回の調査において、モビリティ広告の広告到達率・広告関心度・利用/購買検討度に加え、広告接触が認知や興味関心に与える影響、モビリティ広告に対する印象について調査・分析を実施した。 モビリティ広告の広告効果を定量的に検証 【調査の実施概要】 調査対象:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県在住の男女 年齢:20歳~49歳 調査方法:インターネットリサーチ(スクリーニング+本調査一体型調査) 調査実施日:2026年2月13日〜2月18日 回収数:3978s 対象条件:新宿、渋谷、池袋、秋葉原、丸の内、原宿、表参道、銀座、六本木、赤坂、新橋、横浜のいずれからのエリアに週1回以上訪問する生活者 対象広告:当該エリアを実際に走行したモビリティ広告5件 調査会社:株式会社クロス・マーケティング 広告到達率56.4%、広告関心度61.8%を記録 街中でのリアル接触が高い認知率と興味関心・購買検討を実現 調査の結果、対象エリアを走行する広告トラックを「街中で確かに見た」は、33.7%、「見た気がする」は22.7%となり、モビリティ広告(アドトラック)の広告到達率は56.4%を記録した。 また、広告接触後の商品・サービスについて、「関心がある」「やや関心がある」と回答した人は61.8%、「利用/購買を検討したい」「やや検討したい」と回答した人も55.7%となり、半数以上が広告を認知しているという結果に加え、商品・サービスへの関心喚起や利用/購買検討においても高い数値が確認できた。 公告認知者は非認知者に比べ購買検討度が約8.1倍に上昇 広告接触の有無による差異を分析した結果、以下の顕著な格差が明らかになった。 商品認知:約4.7倍上昇 商品興味:約5.1倍上昇 購買検討:約8.1倍上昇 なかでも購買検討における約8.1倍という数値は、モビリティ広告が単なる認知獲得にとどまらず、購買行動の後押しにまで大きな影響を与えることを示す顕著な結果である。 モビリティ広告が与える生活者の印象 調査では、モビリティ広告に接した生活者から多様なコメントが寄せられた。視認性・ビジュアル・SNS拡散という3つの観点で印象が形成されていることが読み取れる。 【視認性】 「ぼーっとしている時に無意識に入ってくる」(30代・神奈川県) 「何気なく見た広告が記憶に残るケースが多い」(50代・神奈川県) 【ビジュアル】 「音と一緒にキャッチコピーやカラフルな広告が流れてくるので印象に残る」(30代・東京都) 「大型トラックの側面を使っているので面積が大きいし、大音声も伴っているから印象に残る」(50代・東京都) 【SNS拡散】 「推しが載っていると写真を撮ってSNSでも見るから印象に残る」(20代・東京都) 「友達と出かけている時などに通り過ぎると話題になるので印象に残りやすい」(40代・東京都) このように、モビリティ広告は単なる視覚認知にとどまらず、街中での偶発的な接触・音とビジュアルによる記憶固定・SNSでの拡散やコミュニケーションへの波及などを通じて、生活者の印象形成に繋がっている可能性が示された。 モビリティ広告とohpnerのサービスについて モビリティ広告(アドトラック)とは モビリティ広告は、4トン大型車両を活用し、トラック荷台の大規模な広告面と音声によって訴求を行う屋外広告である。人通りの多い繁華街やビジネス街を走行することで高い視認性と存在感を活かした広告体験を生み出す。また、街中で継続的に接触機会を創出できる点も特徴であり、都市部を中心に幅広い生活者への認知形成に繋がる。走行エリア設計やクリエイティブ表現だけでなく、ポスター施工品質や運行管理体制によって広告効果や生活者からの印象が大きく左右される媒体でもある。 ohpnerのモビリティ広告支援 ohpnerでは、媒体社としての運用だけでなく、広告主の目的やターゲットに応じたプランニング、クリエイティブ制作、他のオフライン広告媒体も含めた複合的な施策設計まで一貫して対応している。タクシー広告をはじめとした各種オフライン広告媒体と組み合わせることで、街中での複合接点を生み出す施策設計も可能である。戦略設計から実行まで一貫した支援を行い、モビリティ広告を事業成長に繋がるオフラインマーケティング施策として提供している。 ■ohpner株式会社について ohpnerは、オフライン広告とマーケティングコンサルティングを通じて、顧客の事業成長を支援している。モビリティ広告(アドトラック)、タクシー広告、交通広告、その他OOHなどのメディア選定から、クリエイティブ制作、広告配信、効果測定まで、トータルなマーケティングソリューションを提供している。 ・モビリティ広告(アドトラック)詳細 ・アドトラックをモビリティ広告へ再定義した理由 ■プレスリリース:https://ohpner.com/news/20260511
StackAdapt、ChatGPT広告パイロットへの早期アクセス提供を開始
StackAdapt(本社:カナダ・トロント、CEO:Vitaly Pecherskiy、以下「StackAdapt」)は2026年5月5日(米国東部夏時間/EDT)、広告主向けにChatGPT内広告へのアクセスを試験的に提供開始したと発表した。会話型AIが消費者の情報収集・比較検討・意思決定プロセスに組み込まれつつあるなか、StackAdaptはテクノロジーパートナーとして、広告主がこの新たなチャネルでテストと学習を行える環境を提供している。 会話型AIを新たなマーケティングチャネルへ 消費者の情報収集行動は急速に変化しており、ChatGPTは製品リサーチや選択肢の比較における出発点として利用されるようになっている。従来の検索行動やブラウジング行動を補完する形でAIを活用したリサーチが広がるなか、広告主にも戦略の進化が求められている。 StackAdaptは、こうした状況を「消費者が積極的に検討・比較を行う高インテント(購買意欲)の瞬間」として捉え、プログラマティック戦略をAI対話の場にまで拡張する機会として位置づけている。 ChatGPT広告パイロットの特徴 StackAdaptが提供する早期アクセスは、消費者が選択肢を検討・比較し、意思決定を下す過程において、適切なタイミングで有用なメッセージを届けることを目的としている。ChatGPT上の広告は、従来のアウェアネス型広告やローワーファネルのパフォーマンス型チャネルとは異なる特徴を持つ。 明確なラベル表示と回答からの分離:広告はChatGPTの回答とは明確に区別され、スポンサー表示などのラベルが付与された状態で表示される。 会話コンテキストに基づく表示:広告は、ユーザーの会話内容や関心の文脈に基づいて表示される仕組みとなっている。 これにより、広告主は次のような活用が可能となる。 消費者が積極的に商品やサービスを探索・比較しているタイミングへのリーチ リアルタイムの会話コンテキストに即したメッセージング配信 プログラマティック戦略を高インテントの瞬間へと拡張すること StackAdapt独自のアプローチ OpenAIが複数の購入経路をサポートするなか、StackAdaptはChatGPT広告のアクティベーションに対して、オーダーメイド型(bespoke)のアプローチを提供している。具体的には以下の4つの要素から成り立っている。 ① バーティカル(業種)特化 B2B、小売、CPG(消費財)、Eコマース、旅行、教育など多岐にわたる業種に関する知見を持ち、業種ごとに最適化された支援を行う。 ② クロスチャネル・オーケストレーション CTV(コネクテッドTV)、ディスプレイ、ネイティブ広告、パフォーマンスチャネルなど、複数チャネルにわたるアクティベーションを統合プラットフォーム上で一元管理できる。 ③ マネージドサービスとスケーラブルな実行 戦略的ガイダンス、クリエイティブ最適化、オペレーションサポートを通じてパフォーマンスの最大化を支援する。 ④ ブランドセーフティと品質管理 社内レビュー体制やインベントリー基準を通じて、広告メッセージが表示文脈に対して適切かつ関連性の高いものとなるよう支援する。 担当役員のコメント StackAdaptの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)であるYang Han氏は、「会話型AIがカスタマージャーニーにおける新たなタッチポイントとして急速に台頭している」と指摘したうえで、「広告主がこうした瞬間に関連性高く参加し、AIを活用したより広範なマーケティング戦略に自然に組み込めるよう支援していく」考えを示した。 会話型AIを軸に、次世代マーケティングインフラの構築へ 会話型AIは、消費者が情報を収集し、選択肢を評価する方法において大きな変化をもたらしている。AIを活用したリサーチが従来の検索・ブラウジング行動を補完するなか、広告主には新たな消費者接点を前提とした戦略設計が求められている。 StackAdaptは、ChatGPT内広告とオムニチャネル実行、高度なコンテキスト戦略、AIドリブンな最適化を組み合わせることで、マーケターが意思決定の形成に影響を与える重要な瞬間に生活者へアプローチできる環境を提供していく方針である。 同社はテクノロジーパートナーとして、広告主の初期テストと学習を支援し、新たな広告チャネルの形成に貢献するフィードバックループを構築しながら、会話型AIを中心とした次世代マーケティングインフラの整備を推進していく。 【注釈】 StackAdaptの早期アクセス用ランディングページ(※1)によると、StackAdapt経由のChatGPT広告は、本稿執筆時点で、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのユーザーを対象とした限定的なロールアウトとなっている。 一方、OpenAIは2026年5月7日の更新(※2)で、今後数週間のうちにChatGPT広告パイロットを英国、メキシコ、ブラジル、日本、韓国にも拡大予定であると発表した。これにより、ChatGPT内広告の地域展開は段階的に拡大する見通しだが、StackAdapt経由での提供対象地域や実施条件については、同社およびOpenAIの最新案内に基づいて確認する必要がある。 ※1:StackAdapt「Run Ads in ChatGPT with StackAdapt Early Access」 ※2:OpenAI「Testing ads in ChatGPT」(2026年5月7日更新) ■プレスリリースURL:https://www.businesswire.com/news/home/20260505143235/en/StackAdapt-Announces-AI-Powered-Marketing-Capabilities-Through-Ads-in-ChatGPT-Pilot
店舗送客へのラストワンマイルにDOOHを。丸亀製麺・電通・LIVE BOARDによる効率的な広告プロモーション戦略とは【インタビュー】
丸亀製麺では2025年5月、全店舗で無料の薬味とトッピングに「わかめ」と「しび辛ラー油」の2種類が追加され、計8種類に増えた。8月からリマインドの目的で再度広告キャンペーンを展開。その際にLIVE BOARDマーケットプレイス(※1)に接続している媒体(DOOH)を活用し丸亀製麺の店舗周辺のスクリーンのみに限定した広告配信を実施した結果、同時期に広告配信をしたテレビ・デジタルなどの他のメディアと比較しても、来店効率において最も効率的な結果を残すことができた。 丸亀製麺と、広告プランニングを担当した株式会社電通、DOOHを運用・管理している株式会社 LIVE BOARDの担当者に、今回の取り組みを聞いた。 (Sponsored by LIVE BOARD) ※インタビュー出席者の名前・所属等は写真の右から次のとおり。 吉岡俊祐氏:株式会社 電通 第3マーケティング局 コネクションプランニング部 シニア・マーケティングディレクター 江田壮寿氏:株式会社 丸亀製麺 執行役員 兼 マーケティング本部長 間部徹氏:株式会社 丸亀製麺 マーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部 部長 真能広大氏:株式会社 LIVE BOARD インサイト部 ディレクター KPIにリーチの最大化と来店効率を設定 ―自己紹介をお願いします。 江田氏:丸亀製麺のマス・デジタルなどのマーケティングコミュニケーション活動全体の実行・統括をしている江田と申します。 間部氏:私は丸亀製麺のマーケティングの中でも、顧客体験や接点といった、エクスペリエンスデザインを主軸に担当しています。また、データサイエンスなどの分析周りの担当もしております。 吉岡氏:電通でメディアプランニングを中心に担当しています。キャンペーン設計のほか、どのメディアの効率が良かったのかなど、分析も含めて全て請け負っています。丸亀製麺様とは、広告効果が良かった広告配信を活用していくと同時に、新しい展開にもチャレンジをしながら並走させていただいています。 真能氏:LIVE BOARDでインサイト部のディレクターをしている真能と申します。LIVE BOARDではNTTドコモの位置情報等のデータを活用しながら、クライアントの課題に対して、どのようなソリューションを提案できるかの検討や、効果検証の高度化に日々取り組んでいます。 ―今回の3社での取り組み概要(キャンペーン内容)について教えてください。 江田氏:丸亀製麺では2025年5月9日から、無料の薬味とトッピングにわかめとしび辛ラー油の2種を新たに追加しました。5月のリリース時にも大きなキャンペーンは実施していましたが、今回の取り組みはその3か月後となる8月に、消費者の方々へのリマインドとして、無料トッピングについての再キャンペーンをしたものとなります。 間部氏:メディア展開として、テレビCMは、2025年8月1日・2日の2日間で活用し、初動の認知を一気に立ち上げ、デジタルでは、リマインド告知の意味合いも含めリーチ拡大を狙った出稿を実施しました。 LIVE BOARDは特に、店舗周辺での来店直前リマインドを目的に出稿しました。掲出期間は2025年8月1日〜8月17日で、クリエイティブはTV素材をベースに、共通素材で展開しました。LIVE BOARDに関しては、音声がない状況でも訴求できるように、L字で字幕を入れ込んだクリエイティブと、通常字幕のクリエイティブの2パターンにチャレンジしています。 江田氏:なお、当社が定めるKPIとしては大きく2つあり、1つ目はリーチの最大化で、2つ目が実際にどのくらいの来店に寄与したかを示す来店効率です。これはアナログ・デジタルを問わず、広告配信をした全てのメディアに対して確認しております。 アナログ・デジタル問わず全ての広告効果を横並びで確認 ―丸亀製麺からの発注を受けて、電通やLIVE BOARDでは、どのようなことを考えていましたか。 吉岡氏:8月のキャンペーンはリマインドのため、5月のリリース時と比較すれば小さい予算で展開をしていましたので、本キャンペーンは効率的に伝えていくことは我々としても意識していました。 そのなかで、丸亀製麺様からは「新しい広告にもチャレンジをしていきましょう」とお声かけもいただいたので、当時はテレビ・デジタル以外にも様々なメニューにチャレンジをしていたのですが、そのなかでも5月の時には配信をしていなかった、LIVE BOARD Network(※2)を活用した配信で、とても良い結果が出ました。 真能氏:「丸亀製麺様の店舗から約500m圏内のDOOHをピックアップした配信が最後の一押しとなることで、店舗に立ち寄っていただきやすくなるだろう」と、我々の役割のイメージはとてもしやすかったかと思います。 LIVE BOARD側の経験としても、このような来店を促すキャンペーンは訴求する内容やクリエイティブにも大きな影響を受けると感じていたところでしたが、今回の丸亀製麺様の無料の薬味とトッピングの追加については、プランニング時から高い効果が得られそうだと感じていた記憶があります。 中長期的に継続して出稿できるメディアを重視 ―本プロモーションで特に重視されていたことは。 江田氏:冒頭にお話しをした2軸のKPIはありながらも、中長期的に継続して出稿できるかどうかという目線で、PDCAを回せることを重視していました。 我々としても人流データでトラッキングができるメディアには高いプライオリティを置いていますが、LIVE BOARDは効果が可視化できるため、それを見て今後につなげることが可能となっています。当社の需要にもマッチしており、テレビ・デジタル・DOOHといったトータルスクリーンの観点でも非常に面白い取り組みになるかと思いながら、会話させていただきました。 吉岡氏:リーチ計測においては、テレビとデジタルのリーチを、各媒体の到達をそれぞれ測定できるパネルデータを活用し、広告がターゲットにどれだけ到達しているかを電通のツール「MIERO Digi×TV」(ミエロ・デジテレ)を活用して正確に把握しようとしています。 来店計測においては、電通のオンオフ統合マーケティング基盤「STADIA360」も活用し、データクリーンルームと連携させて、各メディアの接触とその後の来店の増加を検証しています。他にも、今回は「unerry」 の位置情報のログデータを使い、①何時何分にDOOHで広告が流れたか②何時何分にDOOHの前を通ったか、の2つを掛け合わせることによって広告接触を追いました。 配信・分析などの対応が可能な配信プランをLIVE BOARD様としてもご用意いただいたうえで、我々に対しても、他のメディアとも横並びで比較可能になるようにデータを整理・加工いただくなどの協力もいただけたので、その点は私達としては非常に心強いですし、ありがたいと思いましたね。 ―来店の効果測定をするときに、LIVE BOARDとしてはどのように対応することが多いのでしょうか。 真能氏:1つ目はLIVE BOARDの内部だけで効果検証させていただくケースで、2つ目は今回のように代理店様と一緒に効果検証させていただくケースになります。 前者ではNTTドコモのデータ等を活用しながら、Wi-Fiやd払いのログなどを見ていくことで計測をしますが、LIVE BOARD単独では「他のメディアと比較してどうだったか」まで、対応しきれていないケースもございます。 今回は代理店様がお持ちの知見やリソースを活用いただきましたが、トータルスクリーン・プランニングに注力をしていくLIVE BOARDとしては、横並びで効果を可視化したうえで非常に良い結果が出せたことの意味は大きいと思っています。 DOOHが最も良い配信効率を生み出し来客数も増加 ―改めて、効果計測の設計と結果についてお話をお願いします。 吉岡氏:基本的には広告接触をすることで来店の純増がどれだけ増えたかどうか、という分析をしています。また、その人たちがもし広告にあたっていなかったらどれぐらいの確率で来店していたかを類推で出すこともしています。 この比較はテレビもデジタルもDOOHも同じやり方・目線で計測させていただいていますが、LIVE BOARD様の広告効果が、本キャンペーンで活用したメディアの中でも1番良かったです。言い換えれば、インプ単価的にも非常に安価で態度変容の効率も良い結果となったので、非常に面白いし驚きもありましたね。 真能氏:吉岡様に同意する形とはなりますが、今回の結果は我々が今までやってきたキャンペーンと比較しても、とても良い結果が出ました。これは丸亀製麺様が元々持っていたブランドの強さと訴求内容を我々が更に引き出すことが出来たのではないかと振り返っています。 間部氏:丸亀製麺の実店舗で計測している来店データを見ても、LIVE [...]
LIVE BOARDの田中社長に聞く―「トータルスクリーン・プランニング」による次世代メディアの市場拡大【新社長インタビュー】
2026年2月2日、株式会社 LIVE BOARDの新しい代表取締役社長に田中 淳泰(たなか あつひろ)氏が就任した。同氏は2008年に電通に入社して以来17年間、一貫してテレビのタイム・スポット業務、デジタルでのブランディングから獲得案件まで、幅広いメディア業務に従事してきた。そうしたなか、デジタルOOH広告配信プラットフォームの運営をしてきたLIVE BOARDではテレビ×デジタル×DOOHでの統合展開を「トータルスクリーン・プランニング」として再定義し、注力方針に掲げている。 今回はテレビ×デジタル×DOOHを横断した次世代メディアの市場拡大に挑戦する田中氏に話を聞いた。 (Sponsored by LIVE BOARD) 広告の統合メディアプランニング需要が高まる ―自己紹介をお願いします。 2008年に電通に入社して以来、一貫してメディア部門に携わってきました。当初はテレビのタイム・スポット業務を担当していましたが、デジタルのブランディング・獲得案件についても電通デジタルへの出向を含めて幅広く経験し、直近の約6年間はOTTメディアを担当する動画業務推進部に所属していました。 その部署のメインミッションは、テレビとデジタルを横断した戦略設計からバイイング、効果検証までを一気通貫で行う「統合メディアプランニング」となりますが、私個人としてはテレビ・デジタルソリューションのキャリアを生かし、統合マーケティングダッシュボード「MIERO (ミエロ)」のソリューション開発・推進も担当してきました。 ―田中様が新社長に就任した経緯について教えてください。 テレビ×デジタル×DOOHを横断した統合メディアプランニングが市場で当たり前に受入れられる状態をLIVE BOARDが作り、拡大をさせていくために、私が培ってきた経験を生かしていくことがミッションだと捉えています。 広告主からは統合メディアプランニングが求められているなか、TVerやABEMA、InstagramやTikTokなどメディアの選択肢も広がっています。しかし、昨今のユーザーのテレビ離れに加え、デジタルにおいてもメディアの多様化が進んだ結果、広告主が届けたい情報をターゲットに届けるのが難しくなっています。そこで今後はDOOHやリテールメディアのように、ユーザーの外出中に広告を見せていくことも、統合メディアプランニングでは必ず必要になると考えています。 これまで私が培ってきた「テレビとデジタルの統合」における実践知やノウハウも最大限に生かしながら、LIVE BOARDが新たな市場を切り開いていきたいですね。 OOH業界で「メジャメントデータ」計測がスタート ―田中様はテレビとデジタルの動画領域市場のプロデュースやメディアプランニングに長年携わって来ました。田中社長から見た現在のDOOH市場についてはどのように見えていますか。 日本の総広告費の推移が105%前後で成長している中、OOH市場全体も同水準で成長しており、その成長を牽引しているのがDOOH市場の拡大です。一方で、テレビやデジタルの動画広告を合わせた動画市場全体(約2.7〜2.8兆円)から見ると、DOOHのシェアはまだ4%程度に留まっています。だからこそ、この4%を少しでも拡大させていく余地と可能性が大いにある市場だと捉えています。 ―DOOH市場の中で、LIVE BOARDはどのような役割を担っていると考えていますか。 これまでのOOHは、高い強制視認性や公共性、そして圧倒的なロケーションの力による「ブランド体験」や「話題化」といった、情緒的な価値を中心に評価されてきました。そのため、象徴的な媒体を指名して買い付ける手法が主流であり、それは現在も有効な戦略の一つです。DOOHにおいても同様で、インパクト媒体が大きく注目をされ、市場を牽引してきたと考えています。 また、LIVE BOARDも加盟している一般社団法人 日本OOHメジャメント協会にて、OOH広告の接触を統一指標で可視化する 「日本版OOHメジャメントデータ」計測が3月にスタートしています。 テレビやデジタル広告における「インプレッション」や「リーチ」のような、他メディアと横断して比較できる共通指標は長らく不在でした。その結果、統合的なメディアプランニングの検討土台において、OOHの投資対効果を定量的に証明することが難しく、予算が個別に切り出されてしまう、あるいは選定の選択肢から漏れてしまうといった課題を抱えていました。 この「指標の壁」を解消し、DOOHが持つ本来の広告価値を科学的に定義・証明していくこと。そして、デジタルとリアルの垣根をなくした柔軟な広告取引を実現すること。その使命を掲げ、日本で初めてインプレッションベースのプログラマティックDOOHを展開したのが、我々LIVE BOARDです。 DOOHが広告キャンペーンの加速・増幅装置の役割を果たす ―LIVE BOARDでは注力方針として「トータルスクリーン・プランニング」を掲げました。現在の市場環境の中で、この3つのメディアを統合して活用することの意義やメリットをどのように捉えていますか。 これまで、テレビ・デジタル・DOOHを統合するアプローチは一般的に「トリプルメディア」と言われており、当社でもそのように提唱してきましたが、LIVE BOARDでは新たに「トータルスクリーン・プランニング」として再定義することにいたしました。 DOOHは、テレビとデジタルという土台の上に「家の外での接点」として加わることで、広告キャンペーン全体を後押しし、投資対効果をさらに引き上げる「Campaign Accelerator(キャンペーンの加速・増幅装置)」の役割を果たすと考えています。また、メディアの多様化が進んでいるなか、DOOHが新聞や雑誌、リテールメディアなどと競合をしていくような、3番目争いをしていきたいわけではないという表明でもあります。特にリテールメディアについてはDOOHネットワークとの連携も進めば、広告のトップ・ミドル・ボトムファネルで全てを統合的にカバーしやすくなります。 その立ち位置を明確にしたうえで競合するのではなく、むしろ協調して広告効果を立てていく必要があると考え、我々はこの概念を新たに「トータルスクリーン・プランニング」と再定義しました。 ―「Campaign Accelerator」について、具体的なイメージを教えてください。 DOOHにはCampaign Acceleratorとして、大きく2つの機能があると考えています。 一つは「Incremental Reach Accelerator(リーチの増幅装置)」です。 テレビやデジタルに一定の予算を投下すると、後半になるにつれて新規リーチの獲得単価が高騰します。ここでDOOHを組み合わせることで、テレビ・デジタルだけでは取り切れなかった層へリーチを伸ばし、全体の効率曲線を崩すことなくリーチを最大化できます。 次に「 Perception Accelerator(認知の加速装置)」です。 テレビやデジタルで広告に接触しても態度変容に至らなかったターゲットを、家の外で再び捉えます。多面的な接触を生み出すことで、最後の最後まで認知形成を後押しし、結果的に1人あたりの認知獲得単価を効率化します。 ―トータルスクリーン(トリプルメディア)が特に効果的に働く案件と、注力していくためのアクションを教えてください。 テレビやデジタルに一定規模の予算を投下されているなかで、効率が悪化し始めたタイミングのキャンペーンでDOOHを組み合わせるのが特に効果的です。「広告を届けたい人に届ける」という点では、どの業種のクライアント様でもお使いいただけるかと考えています。 2026年は業界にとって「共通メジャメント元年」となりますので、今後のアクションとしてはまず、DOOHのインプレッション等の共通指標の浸透に全力を尽くすとともに、投資効果を含めた統合分析事例を増やしていきます。 LIVE BOARDがOOH・広告業界にイノベーションを起こす ―貴社の事業展望と今後の市場発展に期待することをお聞かせください。 LIVE BOARDは既存のOOHメディアからではなく、データとテクノロジーの会社であるNTTドコモグループを基盤にして生まれました。「トータルスクリーン・プランニング」や「Campaign Accelerator」もその一環となりますが、Instagramが写真・カメラの会社から生まれなかったように、OOH・広告業界へのイノベーションを起こしていくのがLIVE BOARDの果たすべき役割かと捉えています。 市場の動きとしては「メジャメント(測定指標)の統一」という歴史的転換点により、OOH全体が統合メディアプランニングの土台に乗ることを期待しており、そのうえでLIVE BOARDとしては、DOOHがインパクト重視の媒体にとどまらず、データドリブンな「トータルスクリーン・プランニング」の一部として常態化して組み込まれる未来を目指します。ステークホルダーの皆様と連携しながら新たな広告価値を証明し、日本の広告体験そのものを進化させていきたいと考えています。
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